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[SMP43-04] 領家帯は白亜紀の火山弧直下で形成されたのか?
キーワード:領家帯、火山弧、対の変成帯
西南日本のテクトニクスを論ずる上で大きな問題となるのが、白亜紀低温高圧型変成帯である三波川帯と高温低圧変成帯である領家帯が中央構造線を境に接している関係である。三波川帯は沈み込み帯の変成岩であり、領家帯は火山弧の地殻中下部で形成されたと考えられている。両者の間にはarc-trench gapが存在したはずであり、その距離は今日の島弧-海溝系から考えて100km程度であったと推定される。そのように離れて存在していた両者を接合させるに至ったテクトニクスはどのようなものであったのか?それが本講演で議論する問題である。 この問題に新たな切り口を与えたのが、Ito et al.(2009)である。彼らは地震波探査により西南日本の地殻構造を解明した。その結果、驚くべき事実が明らかになった。それはSSP(Seto Subsurface Prism)と称された領家帯のプリズム構造である。SSPは幅60 km、深さ20kmに達する二等辺三角形の断面を示すプリズムで、南は中央構造線で三波川帯と接し、北は内帯のナップ群に漸移するように見える。このSSPの実態は地表では領家帯ならびに山陽帯の花崗岩類と変成岩類である。地下においても同様であると考えて良いであろう。中国・四国地方の領家帯は、南側(四国側)において塩基性岩が多く花崗岩中に産し(Nakajima et al., 2004など), 北側(山陽側)に変成岩類が産し、その変成度は北から南に増加する(Nakajima, 1994; Ikeda, 2004など)。領家帯の花崗岩類はチタン鉄鉱系列に属し、山陽帯から山陰帯へ向かって磁鉄鉱系列の花崗岩へと変化する(Ishihara, 1977)。 従来の考えでは、領家帯は現在の中国地方に想定される白亜紀火山弧の地殻中下部で形成されたとされている(Nakajima, 1994など)。講演ではその考えの矛盾を示す。以下では、領家帯の形成場に関してIto et al.(2009)の地殻構造断面に基づく新たな仮説を提示する。 SSPの形態は、北米西岸のGreat Valley forearc basinに酷似している。SSPは本来,前弧堆積盆に相当する場所の堆積物であって、それが部分溶融によって花崗岩を形成したのでないか、というのが新たな仮説の骨子である。すなわち、領家帯は現在の位置(かつての前弧堆積盆)においてin situに形成されたのではないか、という考えである。領家変成岩の原岩は、ジュラ紀付加体であることが知られているから、付加体の形成過程において、木村(1998)が議論したようなout-of-sequence thrustによって付加体の厚化が起こり、それは側方に発達して火山弧周辺でナップを形成するとともに、前弧においては厚い堆積体となったと推定される。SSPはそのようにして形成された前弧堆積盆に相当する場所の厚い堆積物であると考えられる。部分溶融の熱源は、放射性壊変による熱と、領家帯南部に貫入している塩基性岩の熱が考えられる。このように堆積物の部分溶融によって領家帯花崗岩が形成されたとする考えは、領家帯花崗岩の大半がI-タイプであるという事実と矛盾するように見える。しかし領家花崗岩の大半はチタン鉄鉱系列に属し、還元的な環境下で形成されており、堆積物の部分溶融や同化が花崗岩の形成に大きく寄与している可能性は高い。 変成岩の形成圧力を考えると、現在の地表に露出している領家変成岩は、地下約15km程度まで埋没していたことが推定される。すなわち、現在のSSPよりさらに15km程度深い前弧堆積盆が存在していたことが示唆される。そのように厚い堆積物は、下位の三波川帯の岩石に圧力をかけ、その上昇に寄与した可能性がある。また厚い堆積盆はやがてアイソスタシーを保つために浮力によって隆起し、その上部が浸食削剥されて、現在の変成岩が露出するに至った可能性がある。Ikeda, T.(2004) CMP, 146, 577-589. Ishihara, S.(1977) Mining Geol.,27, 293-305. Nakajima, T.(1994) Lithos, 33, 51-66. Nakajima, T. (2004) Trans. Royal Soc. Edinburgh, 95, 249-263. 木村(1998)地質学論集、50、131-146.