日本地球惑星科学連合2016年大会

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口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP44] メルト-延性-脆性岩体のダイナミクスとエネルギー・システム

2016年5月25日(水) 15:30 〜 17:00 301A (3F)

コンビーナ:*土屋 範芳(東北大学大学院環境科学研究科環境科学専攻)、浅沼 宏(産業技術総合研究所・再生可能エネルギー研究センター)、小川 康雄(東京工業大学火山流体研究センター)、長縄 成実(東京大学大学院工学系研究科)、座長:土屋 範芳(東北大学大学院環境科学研究科環境科学専攻)

16:00 〜 16:15

[SMP44-09] メルト包有物解析による古カルデラのマグマ溜まり深度と地殻流体活動の関連:東北日本,白沢カルデラの例

*宇野 正起1鈴木 拓1山田 亮一1奥村 聡2土屋 範芳1 (1.東北大学大学院環境科学研究科、2.東北大学大学院地学専攻)

キーワード:地殻流体、古カルデラ、メルト包有物

島弧マグマは地殻への水流体供給の最も主要なソースであり,そのマグマ溜まりの深度や含水量の把握は,上部地殻のダイナミクスを理解する上で重要である.特に,2011年の東北沖大地震以降,多くの群発地震が古カルデラ下で発生しており,流体活動が示唆されている(Okada et al., 2015).白沢カルデラはそのような古カルデラの一つであり,現在の火山フロントの約15 km東側に位置する.その形成年代は7–8 Maであるが,白沢カルデラ下では地震波反射面や地震波低速度異常が観測され,現在でも地殻流体の供給が続いていると示唆されている.このようなカルデラ下の物質科学的な実態を明らかにするために,古カルデラ堆積物中のメルト包有物の解析を行い,マグマ溜まりの深度分布,メルトの含水量,分化過程を明らかにし,地球物理観測との比較を行った.
白沢カルデラの石英中のメルト包有物の主要元素組成は,低アルカリ流紋岩に分類され,斜長石の分化トレンドに載る.一部の試料はSiO2に比較的乏しくK2Oに富み,斜長石+石英の分化トレンドで説明できる.微量元素組成は島弧玄武岩で規格化するとSr, Eu負異常があり,斜長石の晶出と調和的である.したがって,石英中のメルト包有物は斜長石ー石英間の共融点組成を反映していると考えられ,共融点組成の圧力依存性から捕獲圧力を推定することができる(e.g., Blundy and Cashman, 2001).推定されたメルト包有物の捕獲圧力は,主に30–300 MPaに集中し,深さ11 kmから1 kmまで上昇しつつ継続的に分化したことが示唆される.また,最も初生的なメルト組成を含め,多くのサンプルが低アルカリ系列に分類されることから,玄武岩質メルトを起源と仮定すると,その発生深度は約10–20 kmと推定される(Best and Christiansen, 2001).FT-IRによる揮発性成分測定から,メルト包有物の含水量は2.8–5.5 wt%,CO2含有量は38 ppm以下である.この揮発性成分量から,少なくとも深度1–5 kmではメルトはH2Oに飽和していたことが明らかになった.
一方,白沢カルデラ下では反射法地震探査によりカルデラ深度が1.5 km程度であること,深度2–5 kmに反射面があり,水流体に富む深成岩の存在が示唆されている(Sato et al., 2002).また,地震波トモグラフィーにより5–10 kmに低Vp, Vs・高ポアソン比の領域が,10–20 kmに低Vp, Vs・中ポアソン比の領域が観測されており,水流体に富む領域と推測されている(Nakajima et al., 2006).これらの低速度域や反射面は,本研究で見積もられた分化場(≅マグマ溜まり)深度の1-11 km,およびマグマ発生深度(10–20 km)に対応し,マグマ溜まりの残渣あるいは集積岩が流体貯留層となっていると考えられる.
Best, M.G., Christiansen, E.H., 2001. Igneous Petrology. Blackwell Science.
Blundy, J., Cashman, K., 2001. Ascent-driven crystallisation of dacite magmas at Mount St Helens, 1980–1986. Contrib. to Mineral. Petrol. 140, 631–650.
Nakajima, J., Hasegawa, A., Horiuchi, S., Yoshimoto, K., Yoshida, T., Umino, N., 2006. Crustal heterogeneity around the Nagamachi-Rifu fault , northeastern Japan , as inferred from travel-time tomography 843–853.
Okada, T., Matsuzawa, T., Umino, N., Yoshida, K., Hasegawa, A., Takahashi, H., Yamada, T., Kosuga, M., Takeda, T., Kato, A., Igarashi, T., Obara, K., Sakai, S., Saiga, A., Iidaka, T., Iwasaki, T., Hirata, N., Tsumura, N., Yamanaka, Y., Terakawa, T., Nakamichi, H., Okuda, T., Horikawa, S., Katao, H., Miura, T., Kubo, A., Matsushima, T., Goto, K., Miyamachi, H., 2015. Hypocenter migration and crustal seismic velocity distribution observed for the inland earthquake swarms induced by the 2011 Tohoku-Oki earthquake in NE Japan: Implications for crustal fluid distribution and crustal permeability. Geofluids 15, 293–309.
Sato, H., Imaizumi, T., Yoshida, T., Ito, H., Hasegawa, A., 2002. Tectonic evolution and deep to shallow geometry of Nagamachi-Rifu active fault system, NE Japan. Earth, Planets Sp. 54, 1039–1043.