日本地球惑星科学連合2016年大会

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口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP44] メルト-延性-脆性岩体のダイナミクスとエネルギー・システム

2016年5月25日(水) 15:30 〜 17:00 301A (3F)

コンビーナ:*土屋 範芳(東北大学大学院環境科学研究科環境科学専攻)、浅沼 宏(産業技術総合研究所・再生可能エネルギー研究センター)、小川 康雄(東京工業大学火山流体研究センター)、長縄 成実(東京大学大学院工学系研究科)、座長:土屋 範芳(東北大学大学院環境科学研究科環境科学専攻)

16:30 〜 16:45

[SMP44-11] NaCl-H2O流体の分子動力学計算:地殻における塩水の電気伝導度の予測

*佐久間 博1市來 雅啓2 (1.物質・材料研究機構、2.東北大学)

キーワード:水、地震発生域、塩濃度、MD計算

水の存在は、岩石の破壊強度や断層の摩擦強度を物理的・化学的に低下させる性質があり、その分布や量を知ることが地震発生のメカニズムを理解する上で重要である。地殻における水は、様々なイオンを溶かした塩水として存在すると考えられ、そのイオン電導により常温常圧では岩石よりも6桁以上高い電気伝導度を示す。この塩水と岩石の電気伝導度の差を利用して、電気伝導度の観測から塩水の分布を調べる研究が実施されている。しかしながら、塩水(NaCl-H2O)の電気伝導度は0.4 GPaまでしか知られておらず[1,2]、地殻を想定した高圧条件における塩水の電気伝導度が未解明であったため、地殻の高電気伝導度域を塩水の存在で説明できるかどうかの議論ができなかった。
我々は、地殻を網羅する温度・圧力条件でNaCl-H2O流体の電気伝導度・密度・分子挙動を明らかにするため、古典分子動力学(MD)計算を実施した。実験データの無い高温・高圧・高塩濃度領域を対象とするため、まず臨界点を超えた水の物性を再現・予測するH2O分子モデルを作成し、その基礎物性および溶媒としての性質をMD計算から議論した[3]。次にこのH2O分子モデルを用いて、NaCl-H2O流体の密度・等温圧縮率を計算し、これらのマクロな物性値の変化を水和数や水和半径というミクロな物性で説明した[4]。最終的にNaCl-H2O流体の電気伝導度をMD計算から導出した[5]。
本発表では、NaCl-H2O流体の地殻内での挙動を議論するとともに、電磁気観測により発見されている地殻や沈み込み帯の高電気伝導度帯を塩水で説明しようとした場合に、どのような塩濃度・存在量が必要かについて議論する。
References
[1] Quist, A.S., and Marshall, W.L. (1968) J. Phys. Chem. 72, 684-703.
[2] Bannard, J.E. (1975) J. Appl. Electrochem., 5, 43-53.
[3] Sakuma, H., Ichiki, M., Kawamura, K., and Fuji-ta, K. (2013) J. Chem. Phys., 138 134506.
[4] Sakuma, H., and Ichiki, M. Geofluids, doi: 10.1111/gfl.12138.
[5] Sakuma, H., and Ichiki, M. J. Geophys. Res. – Solid Earth, in press.