12:00 〜 12:15
[SSS01-12] 実用早期地震検知警報システムの開発概史
最初のEEW構想(1868年11月3日付のSan Francisco Daily Evening Bulletin紙上)によると、きっかけは江戸時代に日本で考案された地震予知器が1868年10月の地震を予知できなかったことにあるらしい。そこで、J.D.クーパー医学博士は、震源近傍で地震の発生を検知し、電信を使って人手を介さず自動的に地震警報であることを周知させた特別な鐘を鳴らすことで、大きな揺れが来る前に、人々に地震の発生を知らせるという構想を提案したが、残念ながら実現できなかった。およそ100年後の1972年、全く独立に伯野元彦博士らにより、東京を対象にした大地震“10秒前検知システム”が提案された。ある大学研究室における雑談から生まれたこの構想も、気象庁や防災科研など多くの国立研究機関で研究されたが、実用化には成功しなかった。一方、当時の国鉄では高速鉄道の普及拡大に際して、新しい地震警報システムの必要性が強く認識され、明確な目標と具体的な減災イメージをもって10秒前検知システムの実用化が進められていた。
それまでの地震警報は、JMA震度5以上の地震動が被害をもたらすことが多いという経験に基づき、JMA震度5より小さい段階で、しかし地震以外の振動で不用意に警報しないように、JMA震度4相当の加速度で警報を出そうとするものである。しかし、被害をもたらす強震動到来までの先行時間は多くなかった。先行時間を延ばそうと警報加速度を小さくすると過剰警報となるジレンマを抱え、監視加速度の周波数帯域の適切な制限や、大地震の発生地域近傍での地震検知などの工夫を重ねていた。
1983年に初めて開発に成功し、改良を重ねながら1992年に東海道新幹線で実用化されたユレダスは、地震動のP波初動を検知し、破壊断層の大きさに関係する初動周期から地震の規模を推定して、初動振幅と推定地震規模から距離を推定、波動の入射状況から震央方位と震源深さを推定している。推定された震源情報に基づき被害地域を予想し警報するのである。用いられた地震学の知識は初歩的なものであるが、それだけに物理的な裏付けも明確で、地震の遠近や規模の大小に関係なく適用できるという特長を有する。ユレダスでは、単一観測点の三成分波形の地震動情報を使って、サンプリング周期1/100秒毎に連続的に推定する。多くの推定量は、地震動の検知とほぼ同時に得られるが、初動周期については、10km以上の断層地震を対象に、検知後3秒間(1周期)で推定することとした。その後、1/4周期分の時間で確定できることを確認し、1秒間で初動周期を確定している。
1995年阪神大震災に遭遇して、ユレダスは的確に警報を発信したが、通信網トラブルで警報が対象まで届かなったという事態を経験し、また警報処理に3秒かかるのは問題であることを現実問題として強く認識した。直近の地震に対しては少なくとも検知後1秒後には警報を出せるように、1997年には新たな警報発信方法を考案した。これが、初動と最大動の関係に着目したコンパクトユレダス警報であり、JR東日本の新幹線で1998年に実用化された。地震動をリアルタイム震度(RI:SDR特許技術、最大値はほぼJMA震度に一致)で監視し、P波初動を検出すると同時に、最大震度を想定して必要警報を出すというもので、当初最短1秒から現在最短0.1秒まで短縮している。
このコンパクトユレダスは、必要な地震に対して的確にP波警報を発信してきたが、2004年10月に発生した新潟県中越地震では、直上で地震を捕捉、1秒後にP波警報して、震源直上を高速走行中の新幹線列車に非常制動を掛けさせ、脱線はしたものの154人の乗客乗員の安全を無傷で確保することに成功している。
その後、ユレダスとコンパクトユレダスはフレックルに融合され、先進的な超小型地震警報器が誕生した。これは、現在、在来鉄道のみならず、原子力発電所、球場、工場などに採用されるとともに、ハイパーレスキュー隊の装備品として活躍中である。なお、ユレダスやコンパクトユレダスは2007年以後新幹線では使われていない。
2011年東北太平洋沖地震に対して、新幹線の気象庁型オンサイト早期警報システムなどが早期警報に失敗する中、牡鹿半島の付け根付近の堅固な岩盤に設置されたフレックルは的確にP波警報を発し最大震度RI5.5を記録している。この地震後、フレックル警報の迅速性と信頼性をさらに向上させる技術が開発されている。
最後に、EEWのような実用システムの開発には工学的センスが重要であることと、EEWの防災効果を過大評価することがないようにEEWは主たる地震防災対策である耐震補強を補完するもののひとつに過ぎないことを強調しておきたい。
それまでの地震警報は、JMA震度5以上の地震動が被害をもたらすことが多いという経験に基づき、JMA震度5より小さい段階で、しかし地震以外の振動で不用意に警報しないように、JMA震度4相当の加速度で警報を出そうとするものである。しかし、被害をもたらす強震動到来までの先行時間は多くなかった。先行時間を延ばそうと警報加速度を小さくすると過剰警報となるジレンマを抱え、監視加速度の周波数帯域の適切な制限や、大地震の発生地域近傍での地震検知などの工夫を重ねていた。
1983年に初めて開発に成功し、改良を重ねながら1992年に東海道新幹線で実用化されたユレダスは、地震動のP波初動を検知し、破壊断層の大きさに関係する初動周期から地震の規模を推定して、初動振幅と推定地震規模から距離を推定、波動の入射状況から震央方位と震源深さを推定している。推定された震源情報に基づき被害地域を予想し警報するのである。用いられた地震学の知識は初歩的なものであるが、それだけに物理的な裏付けも明確で、地震の遠近や規模の大小に関係なく適用できるという特長を有する。ユレダスでは、単一観測点の三成分波形の地震動情報を使って、サンプリング周期1/100秒毎に連続的に推定する。多くの推定量は、地震動の検知とほぼ同時に得られるが、初動周期については、10km以上の断層地震を対象に、検知後3秒間(1周期)で推定することとした。その後、1/4周期分の時間で確定できることを確認し、1秒間で初動周期を確定している。
1995年阪神大震災に遭遇して、ユレダスは的確に警報を発信したが、通信網トラブルで警報が対象まで届かなったという事態を経験し、また警報処理に3秒かかるのは問題であることを現実問題として強く認識した。直近の地震に対しては少なくとも検知後1秒後には警報を出せるように、1997年には新たな警報発信方法を考案した。これが、初動と最大動の関係に着目したコンパクトユレダス警報であり、JR東日本の新幹線で1998年に実用化された。地震動をリアルタイム震度(RI:SDR特許技術、最大値はほぼJMA震度に一致)で監視し、P波初動を検出すると同時に、最大震度を想定して必要警報を出すというもので、当初最短1秒から現在最短0.1秒まで短縮している。
このコンパクトユレダスは、必要な地震に対して的確にP波警報を発信してきたが、2004年10月に発生した新潟県中越地震では、直上で地震を捕捉、1秒後にP波警報して、震源直上を高速走行中の新幹線列車に非常制動を掛けさせ、脱線はしたものの154人の乗客乗員の安全を無傷で確保することに成功している。
その後、ユレダスとコンパクトユレダスはフレックルに融合され、先進的な超小型地震警報器が誕生した。これは、現在、在来鉄道のみならず、原子力発電所、球場、工場などに採用されるとともに、ハイパーレスキュー隊の装備品として活躍中である。なお、ユレダスやコンパクトユレダスは2007年以後新幹線では使われていない。
2011年東北太平洋沖地震に対して、新幹線の気象庁型オンサイト早期警報システムなどが早期警報に失敗する中、牡鹿半島の付け根付近の堅固な岩盤に設置されたフレックルは的確にP波警報を発し最大震度RI5.5を記録している。この地震後、フレックル警報の迅速性と信頼性をさらに向上させる技術が開発されている。
最後に、EEWのような実用システムの開発には工学的センスが重要であることと、EEWの防災効果を過大評価することがないようにEEWは主たる地震防災対策である耐震補強を補完するもののひとつに過ぎないことを強調しておきたい。