日本地球惑星科学連合2016年大会

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口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS25] 強震動・地震災害

2016年5月24日(火) 09:00 〜 10:30 105 (1F)

コンビーナ:*津野 靖士(鉄道総合技術研究所)、座長:浅野 公之(京都大学防災研究所)、前田 宜浩(防災科学技術研究所)

09:00 〜 09:15

[SSS25-01] 海溝型繰り返し地震の震源特性のばらつきの評価に向けて~気仙沼沖の繰り返し地震を例に~

*浅野 公之1 (1.京都大学防災研究所)

キーワード:繰り返し地震、震源特性、強震動生成域

2011年東北地方太平洋沖地震以降、強震動予測において予測結果のばらつきを提示することが強く意識されるようになってきている。本発表では、強震動予測に不確実性を生じさせる要因のうち震源特性に着目する。震源断層を特定した強震動予測において、断層面積や強震動生成域の面積、応力降下量といった震源パラメータは、過去の地震の震源過程の解析結果を集約した経験的なスケーリング則に従って与えられる(例えば、Murotani et al., 2008)。当然のことながら、スケーリング則を構築する上での元データにはイベント毎に平均的なスケーリングからのずれが存在し、スケーリング則の標準偏差も提示されているので、これをもとに震源特性のばらつきを評価することもできる。しかし、経験的なスケーリング則によるばらつきは、さまざまな震源域で発生した地震の解析結果を集約した結果であり、地域性による地震発生環境の違いに伴うものと、同じ震源域で繰り返し発生する地震の個々のばらつき、の両方が内在されている。また、中小地震のスケーリングを調べた研究は国内外に数多くあり、応力降下量にして2~3桁のばらつきが提示されているが、強震動予測の対象になるような大地震について、1回1回のイベントで震源特性がどの程度ばらつくのかは必ずしも明らかになっていない。このような地震現象に本質的に内在されている真のばらつきの分布が明らかになれば、より合理的に震源パラメータの確率分布のようなものを与えることができるようになると期待できる。このためには、同一震源域で繰り返し発生する地震を解析する必要がある。永井・他(2001)やYamanaka and Kikuchi (2004)によるアスペリティマップの研究などもそのような先行研究として位置づけることができるが、強震動予測の観点からは、強震動生成域のサイズ、応力降下量など重要な震源パラメータについて、何が保存され、何がばらつくのかについての知見を蓄積することが特に重要である。特に東北日本におけるプレート境界地震は、強震観測の歴史の中で繰り返し地震が観測される事例が増えつつある。例えば、瀧口・他(2011)は、1982年と2008年に発生した茨城県沖の地震(ともにMJ7.0)の強震記録を解析し、1982年本震と2008年本震の強震動生成域の面積は同じであるが、1982年本震は2008年本震に比べて応力降下量が1.5倍大きいという結論を得た。
本研究では、気仙沼沖で繰り返し発生するM6クラスのプレート境界地震を検討対象とした。最新の地震は2015年5月13日(MJ6.8)に発生している。気象庁の記録をもとに気仙沼沖の繰り返し地震を調査した長谷川・他(2005)や高齋・他(2014)によれば、この震源域では、1940年11月20日、1954年11月19日、1973年11月19日、1986年12月1日、2002年11月3日と繰り返し発生してきており、平均繰り返し間隔は15.5年、平均MJは6.3と報告されている。このうち、2002年と2015年の地震はK-NET及びKiK-netにより多数の強震記録が得られている。また、50年以上の歴史をもつ港湾地域強震観測では1973年以降の4つの地震の記録が複数の同一地点で得られており、貴重な強震記録が公開されている。図は震源に最も近い大船渡防地観測点におけるSMAC強震計またはSMAC強震計相当記録の東西成分の速度波形(0.2-2Hz)の比較である。S波部分の波形を比較すると、最大振幅は2015年の地震が最も大きく、1986年の地震は小さい。1986年と2002年の地震の振幅はほぼ同程度であり、1974年の地震は1982年や2002年の地震よりも大きいが、2015年の地震よりは小さい。しかし、およそ0.8秒程度とみられるパルス幅は4つの地震でほとんど変わらない。このことから、強震動生成域の位置が厳密に同じかどうかは判断することはできないが、破壊継続時間がほぼ等しいことが推測されるため、ほぼ同一の面積の強震動生成域が破壊したとすれば、イベント間の応力降下量の違いが反映されていると考えられる。今後、スペクトル比法による解析や理論波形または経験的グリーン関数を用いた波形モデリングを実施することで、個々の地震の応力降下量を推定し、ばらつきを議論する。
謝辞: 港湾地域強震観測及び国立研究開発法人防災科学技術研究所K-NET及びKiK-netの強震記録を使用しました。貴重な観測網の維持に関わられる皆様に感謝いたします。