日本地球惑星科学連合2016年大会

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口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS25] 強震動・地震災害

2016年5月24日(火) 13:45 〜 15:15 105 (1F)

コンビーナ:*津野 靖士(鉄道総合技術研究所)、座長:野津 厚(国立研究開発法人 港湾空港技術研究所)、久保 久彦(国立研究開発法人防災科学技術研究所)

14:15 〜 14:30

[SSS25-15] 疑似点震源モデルによる1995年兵庫県南部地震(M7.3)の強震動シミュレーション

*野津 厚1 (1.国立研究開発法人 港湾空港技術研究所)

キーワード:疑似点震源モデル、兵庫県南部地震、強震動

一般にわが国の強震動予測においては,強震動を生成する矩形のサブイベントを断層面上に複数配した特性化震源モデル(例えば釜江・入倉,1997)が用いられることが多い.それに対し,著者は,従来の特性化震源モデルよりも単純化された新たな震源モデルとして疑似点震源モデル(野津,2012)の提案を行っている.疑似点震源モデルでは,強震動の生成に関わる各々のサブイベントに対し,その内部におけるすべりの時空間分布を詳細にはモデル化せず,各々のサブイベントが生成する震源スペクトルのみをモデル化する.提案モデルでは,サブイベントの破壊に起因する震源スペクトルはオメガスクエアモデル(Aki, 1967)に従うものとしている.提案モデルにおけるモデルパラメターの数は,サブイベント1個あたり,東経・北緯・深さ・破壊時刻・地震モーメント・コーナー周波数の6 個であり,従来の震源モデルに比べ大幅に少なくなっている.また,この震源モデルに基づいて強震動シミュレーションを行う場合には,震源スペクトルに伝播経路特性と経験的なサイト増幅特性を乗じることにより対象地点での地震動のフーリエ振幅を求め,これと対象地点における中小地震記録のフーリエ位相を組み合わせ,フーリエ逆変換することにより,サブイベントからの地震動の時刻歴波形を求めることができる.さらに,複数のサブイベントからの地震動を重ね合わせれば,地震動の全体が求まる.
このような単純化された震源モデルにより,ある程度の精度で強震動が計算できるのであれば,強震動予測における労力が大幅に軽減され,多数のシナリオを考慮した強震動予測などにおいて有用であると考えられる.また,実際に疑似点震源モデルを海溝型巨大地震(野津,2012)やスラブ内地震(長坂他,2014)に適用したところ,その結果はたいへん良好であり,むしろ一般的な特性化震源モデルよりも,観測された地震動のある一面をうまく説明できる場合さえあることがわかっている.
ただし,強震動の生成に関わるサブイベントを点で表現するというモデルの性格上,断層面距離が小さくなるようなケースでは適用性が低下することが当然予想される.また,現時点で疑似点震源モデルは破壊伝播の影響を考慮していない.従って,海溝型地震やスラブ内地震よりも内陸地殻内地震の場合の方が,本モデルの適用はより難しくなることが予想され,実際の観測記録に照らして,どの程度のシミュレーションができるかを調べておくことは重要であると考えられる.
内陸地殻内地震を対象とした疑似点震源モデルの適用の試みはすでに開始されているが(例えば秦・野津,2012;野津,2015),本研究では,深刻な被害をもたらした地震として重要である1995年兵庫県南部地震を対象に疑似点震源モデルを作成し,神戸市内の複数地点を対象に強震動シミュレーションを実施した.ここでは震源近傍の強震動を適切に再現できる特性化震源モデルとして山田他(1999)の震源モデルに着目し,その神戸側部分の3つのサブイベント(サブイベント1,2,4)を表現する疑似点震源モデルを作成した.選択したパラメターは次のとおりである.(サブイベント1):東経=135.061,北緯=34.623,深さ=13.6km,地震モーメント=3.4E+17 Nm,コーナー周波数=0.48Hz.(サブイベント2):東経=135.103,北緯=34.650,深さ=9.6km,地震モーメント=1.0E+18 Nm,コーナー周波数=0.48Hz,破壊遅れ=2.6s.(サブイベント4):東経=135.238,北緯=34.732,深さ=8.0km,地震モーメント=3.0E+18 Nm,コーナー周波数=0.18Hz,破壊遅れ=8.1s.震源付近の媒質の密度は2.7×103 kg/m3,密度は3.5km/sとした.ラディエーション係数としては全方位への平均値0.63,地震動のエネルギーの水平2成分への分配を表すパラメターであるPRTITN(Boore, 1983)は0.71とした.Q値はQ=180 f0.7(Petukhin et al., 2003)を用いた.位相特性の評価には2月2日16:19に発生した余震の記録を用いた.その結果,神戸大学と神戸本山で観測された強震動を良好に再現できることがわかった.
兵庫県南部地震による神戸市内の強震動はforward directivityの影響を受けていると考えられる(例えば釜江・入倉,1997).これを,破壊伝播を陽な形で考慮していない疑似点震源モデルで計算できることをどのように考えれば良いだろうか.この点をフーリエ振幅とフーリエ位相の両面から考察する.まずフーリエ振幅については,理論上,directivityの影響はコーナー周波数の変化として表れる(forward側ではコーナー周波数は高周波側にシフトする).本モデルでは,モデルパラメターであるコーナー周波数を観測に合うように設定しているので,結果的にforward directivityの影響を含んだコーナー周波数が設定され,その結果として観測の再現が上手く行っていると考えることができる.一方,フーリエ位相については,一般に地震動のフーリエ位相は震源特性,伝播経路特性,サイト特性の三者の和であると考えられるが,疑似点震源モデルでは中小地震のフーリエ位相特性を用いているため,伝播経路特性とサイト特性を考慮していることになる.これは,サブイベントの震源時間関数をデルタ関数と見なしていることと等価である.従って,フーリエ位相の観点からは,疑似点震源モデルはみかけの震源時間関数がデルタ関数に近づくforward側でのシミュレーションにむしろ適していると言え,フーリエ位相に起因する誤差が懸念されるのはbackward側である.
以上をまとめると,疑似点震源モデルは,コーナー周波数としてforward directivityの影響を含んだものを設定する限り,forward側でのシミュレーションには適した手法であり,誤差が懸念されるのはbackward側であると考えられる.この点について,今後は,より多くの観測点で記録の得られている他の内陸地殻内地震を対象に調べていきたい.
謝辞 関西地震観測研究協議会の強震記録を利用しました.心より御礼申し上げます.