日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS25] 強震動・地震災害

2016年5月24日(火) 13:45 〜 15:15 105 (1F)

コンビーナ:*津野 靖士(鉄道総合技術研究所)、座長:野津 厚(国立研究開発法人 港湾空港技術研究所)、久保 久彦(国立研究開発法人防災科学技術研究所)

14:30 〜 14:45

[SSS25-16] カトマンズ盆地で観測された2015年ネパール・Gorkha地震群における長周期地震動

*重藤 迪子1高井 伸雄1Bijukchhen Subeg1一柳 昌義1笹谷 努1 (1.北海道大学)

キーワード:2015年ネパール・Gorkha地震群、カトマンズ盆地、強震記録、長周期地震動

2015年4月25日,ネパールの首都カトマンズの北西約80 kmでMW 7.8の地震が発生した(2015年ネパール・Gorkha地震).本震発生以降,MW 6以上の余震が5回発生し,5月12日には最大余震(MW 7.3)がカトマンズの東74 kmで発生している.首都カトマンズが位置するカトマンズ盆地は,軟弱な湖成堆積物が厚く沈積する山間盆地であり,過去にも近地・遠地の地震で被害を受けてきた.本地震時,カトマンズ盆地においては,岩盤上に1点,堆積層上に5点の強震観測点があり(Takai et al. 2016, Bhattarai et al. 2015, USGS 2015),それらの観測点において強震記録が得られている.本震・余震における観測速度波形では,岩盤上の記録に比べ,堆積層上の観測点で振幅が増大し,長周期の継続時間の長い後続波が観測されている.本報では,カトマンズ盆地で観測された,2015年ネパール・Gorkha地震群(MW > 6)における長周期地震動(2~10 sec)の特徴について調べた.
先ず,本震の強震記録を調べた.本震の岩盤上のKTP観測点の速度波形は,周期5秒程度の単純なパルスが見られ,顕著な後続波は見られない.断層平行方向では両振幅,断層直行方向および上下動では片振幅であり,本地震を対象にした,遠地実体波を用いた震源過程解析結果(例えば,Galetzka et al. 2015, Grandin et al. 2015)からは,震央はカトマンズ盆地の北西80 kmに位置するが,大すべり域はカトマンズの近傍に位置しており,この強震観測記録の特徴は,震源過程を反映したものであると考えられる.上下動成分の速度波形は堆積層上の観測点と岩盤観測点で非常に似ている一方で,水平動成分は堆積層上の観測点で継続時間の長い周期3-5秒程度のやや長周期地震動が観測され,特にカトマンズ盆地東部の堆積層上のTHM観測点では,水平動において周期約4秒で450 cm/sに達する大速度応答値であった.そこで,観測点直下の1次元深部速度構造(Bijukchhen et al. 2016)を用いて,岩盤上のKTP観測点を入射波とした,鉛直下方入射の1次元重複反射理論による,堆積層上の観測点のS波初動部の再現を行った.多くの観測点では概ね再現できたが,THM観測点におけるS波の後続の長周期地震動が説明できず,今後2・3次元地下構造を基に表面波の励起特性等を含め議論する必要がある.
次に,最大余震の強震記録を調べた.速度フーリエスペクトルを見ると,全観測点で周期10秒程度のピークが認められた.そこで,0.2 Hzのローパスフィルター波形のVertical-Radial平面での粒子軌跡を調べると,岩盤上のKTP観測点を含めた全観測点で,直達S波の初動直後からRetrogradeの動きを示した.これは,Rayleigh波が伝播していると思われ,他の浅発の余震(Δ~80 km)でも同様に観測されている.そこで,我々は,最大余震の1次元シミュレーションを行い,Rayleigh波の再現性を確認した.理論計算には,離散化波数法(武尾 1985),速度構造にはMonsalve et al.(2006),震源情報はGCMTの値を用いた.理論波形は,概ね観測記録を再現でき,その波がRayleigh波であることが確認できた.
カトマンズ盆地で観測された,2015年ネパール・Gorkha地震群における長周期地震動の特徴について調べたところ,本震と余震群では,生成メカニズムの異なる長周期地震動がカトマンズ盆地を伝播していることが分かった.今後,カトマンズ盆地における長周期地震動の伝播特性および地下構造との関係についてより詳細に検討を行う.