17:15 〜 18:30
[SSS25-P13] 地表における速度応答スペクトルの距離減衰式の提案
キーワード:地震タイプ別速度応答スペクトル距離減衰式、プレート深さ依存の上限設定、AICによる選択、B-スプライン関数展開による逆問題の線形化
松浦ほか(2011)は,速度応答スペクトルの距離減衰式に,異常震域等による補正として,観測点iにおけるプレートの深度δiを用いる手法を提案した.その後蓄積されたK-NET, KiK-NETの観測例を追加することによって,マグニチュード範囲はMw5.4~8.7と地震規模のレンジを広げることができた.そこで,今回はInter Plate, Intra Plate, Very Shallow(VS),と地震を3タイプにグルーピングして,各グループに対して,対象周期は0.1~10秒,震源距離には上限を設けず利用可能なデータはすべて解析対象として,M6~9程度の範囲で遠距離まで利用できる距離減衰式を求めた.なお,利用データは,PGV0.1cm/s以下のデータは除外するとともに,地震規模に応じて長周期側を打ち切ることによって,S/Nの悪いデータの混入を防いでいる.
減衰式の形は,個別の地震毎にAICで選択された最適解をグループ内で比較して,タイプ毎に決定した.また,Yabuki and Matsu’ura(1992)を参考として,係数の値を周期の関数として,キュービックBスプライン関数で展開して線形インヴァージョンで求める手法によって一度に決定した.従来の工学的な式の多くは仮想的な基盤上での応答スペクトルの値を与えるが,今回我々の式では,地表での速度応答スペクトルの平均的な値が求まる.用いたのはK-NETとKiK-NETなので,日本で商用電源が確保できる地域の平均的地盤に対する値と言えよう.
モーメントマグニチュードMwjのj-地震に対するi-観測点の周期tでの速度応答スペクトルSvijは,観測点特有の応答eijを含めて,InterとIntraに対しては,(1)式の形,VSに対しては(2)式の形で統合できた.
log Svij(Mwj,Δij,δi,t)=Aw(t)・Mwj+Ac(t)-β(t)log(Δij)-d(t)δi+eij(t) 式 (1)
log Svij(Mwj,Δij,t)=Aw(t)・Mwj+Ac(t)-b(t)Δij-β(t)log(Δij)+eij(t) 式 (2)
従来の工学的基盤などにおける距離減衰式では必ず組み込まれている,震源距離Δijに比例するb(t)の項は,(2)式では特に短周期において近距離での頭打ちを表す項として働いている.この項が(1)式に無いのは,InterとIntraの地震群には,近地の観測データが殆どなく,統合インヴァージョンでは近距離での頭打ちの部分を式に取り入れる利得が十分に得られないことと,従来の式では理論的予察から定数としてある,震源距離の対数に比例する項の係数βを,周期の関数としたこととによる.なお,bの値は周期数秒以上ではほぼゼロとなった.
今回の検討の過程で,プレートの深度δは,PAC, PHSともに,深さの限度を設ける頭打ち方式が回帰を改善することが判った.そこで,式の形とプレート深度の最大値とを,地震毎・周期毎の回帰でAICによって同時に選択した.この作業によって,プレート深さによる項は,従来期待されていた,異常震域と同様にHigh Q・High Vのスラブを伝わる波による効果の補正に留まらず,日本列島の形成とも関係が深い地質的特徴である,東日本の日本海側が太平洋側に比べて減衰が大きいこと,飛騨山脈あたりを境に東西で減衰傾向が異なること,まである程度織り込める便利な項であることが判った.例えばPACの深度は,250km以上は250kmと置き換えると回帰が改善する.但しbと同様,(1)式のdも周期数秒以上では殆ど寄与しなくなる.また,VSの地震に対してはd項は不要であった.
今回求めた距離減衰式は,地表での応答スペクトルの距離減衰式である.この式に対する観測点毎の残差 eij(t) は,松浦ほか(2010)で示したように,地震のタイプや規模が違っても,値も周期変化の形も似てeij(t)≒ei(t) として扱える.また,ei(t)は経験的にサイトの微動観測から求まるH/Vの値で代替できることが判っている.従って観測波形の無い場所に対してこの式から応答スペクトルを予測する工学的利用には,地盤種別やAVS30等の情報がなくても,応答スペクトルを予測すべきサイトのH/Vを実測から求めることで,工学的にも利用可能である.
本研究は文部科学省の委託によって実施された.
減衰式の形は,個別の地震毎にAICで選択された最適解をグループ内で比較して,タイプ毎に決定した.また,Yabuki and Matsu’ura(1992)を参考として,係数の値を周期の関数として,キュービックBスプライン関数で展開して線形インヴァージョンで求める手法によって一度に決定した.従来の工学的な式の多くは仮想的な基盤上での応答スペクトルの値を与えるが,今回我々の式では,地表での速度応答スペクトルの平均的な値が求まる.用いたのはK-NETとKiK-NETなので,日本で商用電源が確保できる地域の平均的地盤に対する値と言えよう.
モーメントマグニチュードMwjのj-地震に対するi-観測点の周期tでの速度応答スペクトルSvijは,観測点特有の応答eijを含めて,InterとIntraに対しては,(1)式の形,VSに対しては(2)式の形で統合できた.
log Svij(Mwj,Δij,δi,t)=Aw(t)・Mwj+Ac(t)-β(t)log(Δij)-d(t)δi+eij(t) 式 (1)
log Svij(Mwj,Δij,t)=Aw(t)・Mwj+Ac(t)-b(t)Δij-β(t)log(Δij)+eij(t) 式 (2)
従来の工学的基盤などにおける距離減衰式では必ず組み込まれている,震源距離Δijに比例するb(t)の項は,(2)式では特に短周期において近距離での頭打ちを表す項として働いている.この項が(1)式に無いのは,InterとIntraの地震群には,近地の観測データが殆どなく,統合インヴァージョンでは近距離での頭打ちの部分を式に取り入れる利得が十分に得られないことと,従来の式では理論的予察から定数としてある,震源距離の対数に比例する項の係数βを,周期の関数としたこととによる.なお,bの値は周期数秒以上ではほぼゼロとなった.
今回の検討の過程で,プレートの深度δは,PAC, PHSともに,深さの限度を設ける頭打ち方式が回帰を改善することが判った.そこで,式の形とプレート深度の最大値とを,地震毎・周期毎の回帰でAICによって同時に選択した.この作業によって,プレート深さによる項は,従来期待されていた,異常震域と同様にHigh Q・High Vのスラブを伝わる波による効果の補正に留まらず,日本列島の形成とも関係が深い地質的特徴である,東日本の日本海側が太平洋側に比べて減衰が大きいこと,飛騨山脈あたりを境に東西で減衰傾向が異なること,まである程度織り込める便利な項であることが判った.例えばPACの深度は,250km以上は250kmと置き換えると回帰が改善する.但しbと同様,(1)式のdも周期数秒以上では殆ど寄与しなくなる.また,VSの地震に対してはd項は不要であった.
今回求めた距離減衰式は,地表での応答スペクトルの距離減衰式である.この式に対する観測点毎の残差 eij(t) は,松浦ほか(2010)で示したように,地震のタイプや規模が違っても,値も周期変化の形も似てeij(t)≒ei(t) として扱える.また,ei(t)は経験的にサイトの微動観測から求まるH/Vの値で代替できることが判っている.従って観測波形の無い場所に対してこの式から応答スペクトルを予測する工学的利用には,地盤種別やAVS30等の情報がなくても,応答スペクトルを予測すべきサイトのH/Vを実測から求めることで,工学的にも利用可能である.
本研究は文部科学省の委託によって実施された.