日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS26] 地殻構造

2016年5月22日(日) 09:00 〜 10:15 201A (2F)

コンビーナ:*尾鼻 浩一郎(海洋研究開発機構 地震津波海域観測研究開発センター)、座長:村井 芳夫(北海道大学大学院理学研究院附属地震火山研究観測センター)、山本 揚二朗(海洋研究開発機構)

09:00 〜 09:15

[SSS26-01] 海底および陸上稠密地震観測から得られた北海道南部のP波およびS波速度構造

*村井 芳夫1勝俣 啓1高波 鐵夫2渡邊 智毅3山品 匡史4長 郁夫5田中 昌之6東 龍介7 (1.北海道大学大学院理学研究院附属地震火山研究観測センター、2.米国ワシントン市カーネギー研究所、3.マリンワークジャパン、4.高知大学理学部、5.産業技術総合研究所 地質調査総合センター、6.気象研究所、7.東北大学地震・噴火予知研究観測センター)

キーワード:海底地震計、地震活動、トモグラフィー、日高衝突帯、北海道、1982年浦河沖地震

1.はじめに
北海道南部の日高山脈付近では、西進する千島弧と東北日本弧との衝突により、前者が後者に乗り上げる大規模な衝上断層構造を形成していると考えられている。このような島弧と島弧の衝突は、山脈の形成だけでなく、定常的な地震活動や1982年浦河沖地震(Ms6.8)のような大地震発生にも影響を及ぼしていると考えられるので、地殻構造を3次元的にイメージングすることは、衝突帯のテクトニクスを明らかにするだけでなく、地震発生パターンや大地震の発生メカニズムを理解するためにも重要である。
この地域では、1999~2001年に大学合同で陸上稠密地震観測が行われ[勝俣・他(2002)]、1999年と2000年にはこれに合わせて北海道南方沖で自己浮上式海底地震計による自然地震観測が行われた。Murai et al. (2003) は、1999年の海底と陸上両方のデータを同時に地震波トモグラフィー法によって解析してP波速度構造を推定したが、データ数の制約により速度構造が推定できた領域と深さが限られ、S波速度構造も推定できなかった。今回は、Murai et al. (2003) のデータに2000年に海底と陸上の観測によって得られたデータを加えて、トモグラフィー法によりP波とS波の速度構造を推定する。
2.データおよび解析法
まず、Murai et al. (2003) で得られたP波速度構造の水平方向の平均値である1次元速度構造とP波とS波の速度比を1.73と仮定して、海底地震計と陸上の観測網それぞれ独立に震源決定を行った。その際、Murai et al. (2003) で得られた震源も同じ構造を用いて再決定した。この結果、1999年8月7日~9月30日および2000年8月1日~9月30日の期間に、北緯40.5°~43.5°、東経141°~146.5°の領域で海底、陸上のデータを用いてそれぞれ1061個、780個の地震の震源が決定された。そのうちの376個については、同じ地震が海底と陸上の両方で震源決定されていたので、海底地震計と陸上の観測点でのフェイズの読み取り値を併合して、震源の再決定を行った。
次に、これら1465個の地震からマグニチュードが1.5以上、震源決定に5個以上の走時データが使われているものを選び出した。さらに、陸上の観測点で震源決定された地震では深さが負になったもの、海底地震計で震源決定された地震では深さが最深の海底地震計の深さより浅いものをそれぞれ取り除いた。このようにして残った958個の地震の走時データから、Zhao et al.(1992)による地震波トモグラフィー法を用いて速度構造を推定し、同時に震源の再決定を行った。初期モデルには震源決定で使用した1次元速度構造を仮定した。解析に用いた走時データは、P波が18556個、S波が11335個である。
3.結果
トモグラフィーの結果では、日高主衝上断層の南西側に東北日本弧と思われる北東下がりの低速度異常が、北東側には西向きに衝上する千島弧と思われる高速度異常がそれぞれ見られる。この低速度異常は、日高山脈直下で、沈み込んだ太平洋プレート上面の深さ付近まで続いている。これらは、Murai et al. (2003) と同様の結果であった。ただし、Murai et al. (2003) では、深さ30km付近で浅部より深部の方が低速度となる速度の逆転が見られたことから、深部にデラミネートした千島弧の下部地殻が存在すると解釈していたが、今回の結果では、速度の逆転は見られるものの構造の連続性が明瞭でなく、はっきりとしたデラミネーション構造は得られなかった。いずれにしても、太平洋プレート上面付近まで続く低速度領域は、衝突している島弧地殻と思われる。
今回はデータ数が増えたため、Murai et al. (2003) よりも深部まで速度構造が求められ、太平洋プレートの沈み込む方向の鉛直断面では、太平洋プレートと思われる高速度領域が北西に向かって深くなる結果が得られた。また、衝突している島弧地殻と思われる太平洋プレート上面付近まで続く低速度領域は、日高山脈の海側への延長部に当たる襟裳岬の南東側で急になくなり、微小地震活動も低速度領域内では活発であるが、低速度領域外では低調になることがわかった。このことから、日高山脈の海側への延長部では、島弧衝突の影響が急速に小さくなっていることが示唆される。S波速度構造でもP波速度構造と同様の特徴が得られた。
謝辞
海底地震計の設置にあたり、気象庁旧函館海洋気象台「高風丸」の乗組員の皆様にお世話になりました。また、東北大学の趙大鵬教授にはトモグラフィー解析のプログラムを使わせて頂きました。記して感謝致します。
文献
勝俣・他,2002,東京大学地震研究所彙報,77,199-223.
Murai et al., 2003, G.R.L., 30(9), 1490, doi:10.1029/2002GL016459.
Zhao et al., 1992, J.G.R., 97, 19909-19928.