17:15 〜 18:30
[SSS26-P06] 東北地方太平洋沖地震域の地震波異方性トモグラフィー
キーワード:トモグラフィー、異方性、東北、沈み込み帯、マントルウェッジ
2011 年3 月11 日に, 沈み込む太平洋スラブと大陸プレートの境界領域でMw 9.0 の東北地方太平洋沖地震が発生した. このような巨大地震に至るまでの発生機構を解明するには, 沈み込み帯の詳細な構造を推定することが重要になる.
地震波の伝播速度には方向依存性があり, これを地震波速度異方性があると呼んでいる. 地震波の異方性が生じる原因として, マントルの内部では, マントル対流に伴ってオリビンなどの鉱物の結晶格子が特定の方向に選択的に配列することがあげられる. 異方性の一つにS 波のスプリッティングがあげられるが, 深さ方向に解像度があまりないため P 波方位異方性に注目した.
本研究では P 波方位異方性トモグラフィー (Wang & Zhao, 2008) を行い, 東北地方太平洋沖地震域の速度構造と方位異方性を推定した. 観測領域を北緯36°- 41°, 東経139°- 145°に設定し, 516 点の地震観測点を使用した. 三次元速度構造を推定するためのグリッドは, 等方性成分では0.3°間隔, 異方性成分では0.5°間隔で配置し, 深さ方向については等方性成分, 異方性成分ともに, 深さ10, 25, 40, 65, 90, 120, 160, 200 km, 太平洋スラブ内ではスラブ上面から深さ5, 25, 50 km に配置した. 震源データは, 国立大学, 気象庁, 防災科学技術研究所による Hi-net の観測網により得られたものを使用した. 本研究で使用したデータは, 先行研究 (Huang & Zhao, 2011) で使用されたデータよりも, 東北地方太平洋沖地震後に発生した余震のデータが多いことが特徴である.
本研究で得られた異方性速度構造の特徴は以下の通りである.
1. マントルウェッジでは地震波の速く伝播する方向 (fast-velocity direction, FVD) が北西 – 南東方向に卓越していることがわかり, これはマントルウェッジ対流によりオリビンの結晶格子が一定の方向に選択的に配列するためだと考えられる.
2. 沈み込む太平洋スラブ内部では FVD が南北方向に卓越しており, これは太平洋スラブが海嶺で形成されるときにプレートの拡大方向に沿った地震波の異方性が記録され, それが保存されたまま東北沖で沈み込むためだと考えられる. これらの異方性の特徴は先行研究 (Huang & Zhao, 2011) と調和的であることが確認された.
3. 沈み込むスラブと大陸プレートの境界領域であるmegathrust zoneでは, スラブの沈む込みとプレート同士が強く固着する領域により応力場が複雑になっていることがわかり, 異方性はプレート形成時に記録される固有の向きと複雑な応力場の両方の効果を反映していると考えられる.
参考文献
Huang, Z., D. Zhao, L. Wang (2011) Seismic heterogeneity and anisotropy of the Honshu arc from the Japan Trench to the Japan Sea. Geophys. J. Int. 184, 1428-1444.
Wang, J., D. Zhao (2008) P-wave anisotropic tomography beneath Northeast Japan. Phys. Earth Planet. Inter. 170, 115-133.
地震波の伝播速度には方向依存性があり, これを地震波速度異方性があると呼んでいる. 地震波の異方性が生じる原因として, マントルの内部では, マントル対流に伴ってオリビンなどの鉱物の結晶格子が特定の方向に選択的に配列することがあげられる. 異方性の一つにS 波のスプリッティングがあげられるが, 深さ方向に解像度があまりないため P 波方位異方性に注目した.
本研究では P 波方位異方性トモグラフィー (Wang & Zhao, 2008) を行い, 東北地方太平洋沖地震域の速度構造と方位異方性を推定した. 観測領域を北緯36°- 41°, 東経139°- 145°に設定し, 516 点の地震観測点を使用した. 三次元速度構造を推定するためのグリッドは, 等方性成分では0.3°間隔, 異方性成分では0.5°間隔で配置し, 深さ方向については等方性成分, 異方性成分ともに, 深さ10, 25, 40, 65, 90, 120, 160, 200 km, 太平洋スラブ内ではスラブ上面から深さ5, 25, 50 km に配置した. 震源データは, 国立大学, 気象庁, 防災科学技術研究所による Hi-net の観測網により得られたものを使用した. 本研究で使用したデータは, 先行研究 (Huang & Zhao, 2011) で使用されたデータよりも, 東北地方太平洋沖地震後に発生した余震のデータが多いことが特徴である.
本研究で得られた異方性速度構造の特徴は以下の通りである.
1. マントルウェッジでは地震波の速く伝播する方向 (fast-velocity direction, FVD) が北西 – 南東方向に卓越していることがわかり, これはマントルウェッジ対流によりオリビンの結晶格子が一定の方向に選択的に配列するためだと考えられる.
2. 沈み込む太平洋スラブ内部では FVD が南北方向に卓越しており, これは太平洋スラブが海嶺で形成されるときにプレートの拡大方向に沿った地震波の異方性が記録され, それが保存されたまま東北沖で沈み込むためだと考えられる. これらの異方性の特徴は先行研究 (Huang & Zhao, 2011) と調和的であることが確認された.
3. 沈み込むスラブと大陸プレートの境界領域であるmegathrust zoneでは, スラブの沈む込みとプレート同士が強く固着する領域により応力場が複雑になっていることがわかり, 異方性はプレート形成時に記録される固有の向きと複雑な応力場の両方の効果を反映していると考えられる.
参考文献
Huang, Z., D. Zhao, L. Wang (2011) Seismic heterogeneity and anisotropy of the Honshu arc from the Japan Trench to the Japan Sea. Geophys. J. Int. 184, 1428-1444.
Wang, J., D. Zhao (2008) P-wave anisotropic tomography beneath Northeast Japan. Phys. Earth Planet. Inter. 170, 115-133.