日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS27] 地震発生の物理・断層のレオロジー

2016年5月25日(水) 13:45 〜 15:10 コンベンションホールA (2F)

コンビーナ:*飯沼 卓史(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、加瀬 祐子(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、安藤 亮輔(東京大学大学院理学系研究科)、谷川 亘(独立行政法人海洋研究開発機構高知コア研究所)、向吉 秀樹(島根大学大学院総合理工学研究科地球資源環境学領域)、座長:福山 英一(防災科学技術研究所)、鈴木 岳人(青山学院大学理工学部物理・数理学科)

14:00 〜 14:15

[SSS27-02] 数論的アプローチによる地震活動のモデル化(その2)

*藤原 広行1 (1.防災科学技術研究所)

キーワード:数論、素数、地震、ラングランズ・プログラム

発生間隔がランダムで規模別発生頻度がG-R則に従うような地震活動を数理モデルとして表現するため,藤原(2014)は「数論的地震活動モデル」を提案し,素数を用いた地震活動モデルを定式化した.「数論的地震活動モデル」は,地震活動と素数分布との現象論的な類似性から類推されたものであるが,単なる偶然ではなく,その背後に何らかの数理物理的な意味付けが存在する可能性がある.
「地震」と「数」の世界に対して,下記のような対応を考えてみる.piをi番目の素数とし,その素数に対応する指標として素数の出現間隔 pi-pi-1をとる.i番目に発生する地震をeiとし,その発生時刻をT(ei),地震モーメントをMo(ei)としたとき,下記の関係式が成り立つと仮定する.
T(ei)=pi
log(Mo(ei))=pi-pi-1
この対応関係に対して,数値実験を行うことにより,G-R則に類似した性質が得られる.この対応によって得られるモデルを「数論的地震活動モデル」と呼ぶ.「数論的地震活動モデル」における「地震」は,素数分布論の研究対象である「素数」そのものであり,地震発生予測は素数の出現予測と同値なものとなる.
素数分布に関しては、Riemann明示公式が知られている.Riemann明示公式とは,Riemannゼータ関数の零点を用いて,ある与えられた数以下の素数の個数を示した式である.「数論的地震活動モデル」においては,Riemann明示公式が地震発生の予測式を与える.Riemann明示公式の両辺を形式的に微分し,Riemann予想を仮定することにより得られる式においては,左辺に現れる各デルタ関数が地震発生時に対応しており,右辺においては,それらがRiemannゼータ関数の零点により周波数が規定されるある種の波動の無限個の重ね合わせで表現されている.

本研究では,この「数論的地震活動モデル」に対して物理的解釈を与えることを目的として以下のアプローチで検討を行っている.
(1)Riemann明示公式を跡公式と見なし,その背後にある数理構造を探る.
(2)非可換幾何学や保型形式・保型表現を利用して,「数論的地震活動モデル」を説明できる力学系の構築に挑戦する.

(1)に関しては,Riemann面上での幾何学と調和解析を結びつけるSelberg跡公式と呼ばれるものが知られており,幾何サイドにおける素元に関する和が,スペクトルサイドにおける固有値に関する和に等しいことが示されている.跡公式は,2つの異なる概念を結びつける等式とみなすことができ,数理物理的なモデリングにおいて重要な役割を果たすと考えられる.ここでは,Selberg跡公式との類似性に着目してRiemann明示公式をある種の跡公式としてとらえることにより,その背後にある数理構造について,関連する既存の研究の調査を行った.
(2)に関しては,上記のアプローチの手始めとして,物理分野で研究が進められている共形場理論の持つ数理構造と数論の分野で研究が進められている保型形式・保型表現の類似性に着目した検討を行う.具体的な方向性としては,アデール空間上での保型形式・保型表現を考察することにより力学系を構成し,その固有値問題として「地震」をとらえるための準備研究を進めている.
なお,上記に述べた研究のアプローチは,数論の研究対象である「素数」と物理現象である「地震」を結びつける橋を構築することである.このような試みは,数論の分野においては,Langlandsプログラムとして知られた方法論であり,近年,数論と理論物理の間でもそうした考え方を拡張する研究が進められている.
本研究は、上記課題の解決に向けての準備研究の段階にある.素数分布に関しては,Riemann 予想など数論における歴史的な未解決問題も存在している.講演では,今後の研究構想を中心に発表予定である.

参考文献
藤原広行(2014):数論的地震活動モデル,地震,vol.66, 67-71.