日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS27] 地震発生の物理・断層のレオロジー

2016年5月26日(木) 09:00 〜 10:25 コンベンションホールA (2F)

コンビーナ:*飯沼 卓史(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、加瀬 祐子(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、安藤 亮輔(東京大学大学院理学系研究科)、谷川 亘(独立行政法人海洋研究開発機構高知コア研究所)、向吉 秀樹(島根大学大学院総合理工学研究科地球資源環境学領域)、座長:田中 宏樹(東京大学地震研究所)、北村 有迅(鹿児島大学大学院理工学研究科地球環境科学専攻)

09:00 〜 09:15

[SSS27-10] 粘土鉱物の脱水反応による不安定すべりの実験的検証

*久保 達郎1片山 郁夫1 (1.広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻)

キーワード:脱水の効果、摩擦特性、粘土鉱物、温度上昇、固着-すべり

[はじめに] 沈み込み帯に伴う非地震発生領域と地震発生帯との境界は地震発生帯の上限(updip limit)と呼ばれ、津波発生に関わるなど、浅部の地震発生メカニズムの解明は防災の観点から極めて重要である。地震発生帯の上限を決める要因は諸説あるが、その中の一つにスメクタイトーイライト相転移があり,粘土鉱物の変化に伴い非地震性の安定すべりから地震性の不安定すべりへとすべり挙動を深さによって変化し、地震発生帯が形成されると考えられている(Hyndman et al., 1997)。これまでの実験的な結果では粘土鉱物の摩擦特性は層間の含水量に強く依存し、層間の含水量が減ることで地震性のすべり挙動を引き起こす可能性が示唆されている(Ikari et al., 2007)。しかしながら、先行研究は室温下で定常状態での摩擦特性を観察したものであり、脱水反応の過程の中で刻々と起きる層間構造の変化を見たものではない。沈み込み帯では温度上昇と同時に脱水反応も進行しているため、脱水のプロセスに伴う摩擦挙動を議論することが必要であると考える。そこで、本研究では昇温摩擦実験を行い粘土鉱物の層間水がまさに脱水を起こしている環境下で摩擦特性がどのように応答するかを調べ、脱水と地震発生との関連性を議論することを目的とした。
[実験手法] 広島大学設置の高温二軸摩擦試験機を用いて、粉末状の擬似断層物質を二つのガブロブロックの間にはさみ摩擦実験を行うdouble-direct shearといわれる手法をとった。疑似断層物質として用いた試料はCa型のモンモリロナイトを用いた。垂直応力は油圧式手押しポンプで制御しながら加重をかけていきすべての実験において60 MPaに統一した。 鉛直方向(剪断方向)の加重はモーターとギアシステムを用いており、ギアシステムにより様々な速度比で減速された回転運動を、ボールネジを用いて鉛直方向の往復運動に変換することで載荷した。本研究の実験手法において独創的な点は摩擦実験の最中に一定の昇温速度でサンプルの温度を上げていきながら摩擦実験を行ない、脱水中の摩擦特性の変化を観察するところにある。また脱水反応は熱活性化過程であり、反応のカイネティクスが関係してくることが予想できる。従って、本研究では1, 3, 10 ℃/min.の3種類の異なる昇温速度を設定し、その際のすべり速度はそれぞれ0.6, 1.2, 3.0 μm/sで実験を行なった。
[結果, 考察] Ca型のモンモリロナイトを10 ℃/min.の昇温速度で温度上昇させたところ、低温から高温になるに従って、摩擦挙動は3つの領域に分けられる遷移を示した。(1)摩擦係数が減少する領域、(2)摩擦係数が上昇する領域、(3)スティック-スリップ(不安定すべり)が観察される領域の3つである。特筆すべきは高温域でスティック-スリップと呼ばれる地震性の摩擦挙動を示したところにある。これは脱水に伴い摩擦特性が変化したことを表しており、粘土鉱物の脱水と地震発生の関連性を示唆するものである。しかしながら、スティック-スリップを開始した温度は320 ℃付近であり層間水の脱水が最も顕著に起こる温度(〜150 ℃)と比べるとはるかに高い値を示した。これは脱水のカイネティクスによるところが大きく、昇温速度を遅くし、1 ℃/min.の昇温速度で実験を行なったところ低温側(T>193 ℃)でスティック-スリップが観察される傾向を示した。それぞれの摩擦特性の異なった領域は脱水のプロセスと次のように関連していると考えられる。(1)の領域では,粘土鉱物粒子間に存在する水が膨張することによって粘土鉱物の粒間の間隙水圧を上昇させ、摩擦係数が減少したのではないかと考えられる。(2)の領域では,上昇した間隙水圧によって局所的に剪断が起こり断層ガウジ内の水が排水されるための流路が確保され、含水量が減少したことによる固着の効果が間隙水圧を上昇させる効果を上回ったため摩擦係数は上昇したと考えられる。(3)の領域では,脱水に伴い、スティック-スリッップを観察したが、Rabinowicz (1956)で示されるすべりの不安定条件を満たすことによって、地震性のすべりが起こったと考えられる。昇温実験中に特に変化したと考えられるパラメータは臨界すべり距離: Dcであり、脱水を経て粒子サイズが小さくなったことが臨界すべり距離を短くした原因ではないかと考えられる。以上のことから、断層物質、特に粘土鉱物の層間水の脱水プロセスが摩擦特性に与える影響は大きく、地震発生帯の上限のような非常にゆっくりとした昇温速度(10-10 ℃/min.程度)で、排水の系を持つ天然の環境下での地震発生に対して、粘土鉱物の脱水が重要な役割を担うと考えられる。