日本地球惑星科学連合2016年大会

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口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS27] 地震発生の物理・断層のレオロジー

2016年5月26日(木) 10:45 〜 12:10 コンベンションホールA (2F)

コンビーナ:*飯沼 卓史(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、加瀬 祐子(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、安藤 亮輔(東京大学大学院理学系研究科)、谷川 亘(独立行政法人海洋研究開発機構高知コア研究所)、向吉 秀樹(島根大学大学院総合理工学研究科地球資源環境学領域)、座長:今西 和俊(産業技術総合研究所)、岡本 あゆみ(北海道大学大学院理学院自然史科学専攻)

11:55 〜 12:10

[SSS27-19] 苦鉄質変成ガウジの摩擦特性:南海トラフのスロー地震における意味

*岡本 あゆみ1Niemeijer André R.2Spiers Christopher J.2竹下 徹1 (1.北海道大学大学院理学院、2.Faculty of Geosciences, Utrecht University)

キーワード:変成岩、海洋地殻、摩擦挙動、南海トラフ、角閃石、間隙圧比

プレート収束境界の一つである南海トラフでは,巨大地震とスロー地震の両方が~30 kmのほぼ同じ深さで確認されている.プレート収束境界には付加体を構成する堆積物や,海洋地殻・上部マントルを構成する苦鉄質・超苦鉄質岩など多様な物質が存在する.沈み込み帯で発生する地震のメカニズムを理解し,温度や間隙圧比などの影響を議論するためには,各物質の物性を知ることが必要である.本研究では沈み込むフィリピン海プレート上部の海洋地殻を考えるが,これらを構成する岩石の鉱物組み合わせが変成作用によって徐々に,また部分的に変化していくことに注意する必要がある.南海トラフに沈み込むフィリピン海プレートの海洋地殻は,その温度-深さプロファイル(Yoshioka et al. 2013)より,深さ~10-20 kmではprehnite-pumpellyite(PP)相からprehnite-actinolite(PA)相および緑色片岩(GS)相程度,~20-30 kmではGS相から緑簾石青色片岩(eBS)相または緑簾石角閃岩(eAM)相程度の変成作用を受けていると推測される(変成相はHacker et al. 2003より).天然の緑色片岩や青色片岩の変形組織の観察からは,比較的粒径の大きい緑簾石や角閃石,単斜輝石,不透明鉱物の周囲を細粒角閃石と緑泥石が埋めていることが明らかとなった.これら細粒鉱物集合体は主に微小破壊と圧力溶解クリープによって大きく変形していると考えられ,これらに変形が集中することによってそのほかの鉱物(e.g. 緑簾石,単斜輝石)が剛体のようにふるまっていると推察される.
本研究では上記の観察事実に基づき,GS相程度の変成条件下での細粒鉱物集合体を模倣するため,アクチノ閃石(Act, ~85 %) +緑泥石(Chl, ~15 %)混合物を用いて摩擦実験を行った.実験は熱水式回転せん断試験機(Utrecht Univ.)を用いて,有効垂直応力(σneff) 50-200 MPa,間隙水圧(Pf) 50-200 MPa,温度(T) 22.5-600°C,すべり速度 (V) 0.0003-0.1 mm/sで行われた.その結果,T = 200-400°Cでは,摩擦の速度依存性を示すパラメータ(a-b)σneffPf の両方の影響を受けていることが確認された.また低速度の場合は(a-b)は負だが,Vの増加に伴って正に変化することがわかった.
最も遅い速度レンジ(V = 0.0003 -0.001 mm/s)での (a-b)σneffPf の 経験式を重回帰分析より求め,南海トラフのP-T条件に外挿し, (a-b)と間隙圧比(λ = Pf / (σneff + Pf))や垂直応力の関係を推測した.その結果, Act+Chlガウジでの不安定すべりや速度弱化のためには,λ = ~0.92-0.95を超える間隙圧比が必要であることが示された.しかしながら, (a-b)Vの増加に伴って変化する傾向も示しているため,不安定すべりは変成作用によって形成されたAct + Chl混合層中で高間隙水圧の場合に起こる可能性があるものの,加速に伴って安定すべりへと転じ,大きな破壊イベントに発展することなく停止すると考えられる. Act + Chlガウジは結果としてスロー地震となる低速度ですべり,おそらく異なる鉱物組み合わせおよび組織を持つ近接した非変形の岩体(つまりアスペリティ)に応力を集中させると考えられる.