日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS27] 地震発生の物理・断層のレオロジー

2016年5月26日(木) 13:45 〜 15:10 コンベンションホールA (2F)

コンビーナ:*飯沼 卓史(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、加瀬 祐子(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、安藤 亮輔(東京大学大学院理学系研究科)、谷川 亘(独立行政法人海洋研究開発機構高知コア研究所)、向吉 秀樹(島根大学大学院総合理工学研究科地球資源環境学領域)、座長:飯沼 卓史(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、松澤 孝紀(独立行政法人 防災科学技術研究所)

13:45 〜 14:00

[SSS27-20] コスタリカ沖海洋プレート上で採取された生物起源堆積物の摩擦特性と剪断組織の関係

*並木 由香1堤 昭人1 (1.京都大学大学院理学研究科)

キーワード:摩擦実験、剪断組織、CRISP

巨大地震をはじめ,スロースリップやサイレント地震など様々なタイプの地震がプレート沈み込み帯において観測されている.プレート境界断層物質の摩擦特性は,このような様々なすべり挙動に大きな影響を与えると考えられている(Bilek and Lay, 1998 など).近年,特に南海トラフの粘土質堆積物については研究が進み,その摩擦特性が明らかになってきた (Brown et al., 2003 など).しかし,粘土質堆積物以外の沈み込み帯のプレート境界断層物質の摩擦特性はほとんど明らかにされていない.本研究は,海洋底の広い地域に分布する生物起源堆積物に着目し,摩擦実験によってその摩擦特性を明らかにすることを目的としている.本研究では,IODPのExp. 334およびExp. 344においてコスタリカ沖ココスプレート上で採取された中米海溝に持ち込まれる珪質・石灰質軟泥を用いて摩擦実験を行った.
これまでの研究で,珪質・石灰質軟泥は粘土質堆積物とは異なる以下のような摩擦特性を示すことが明らかになってきた:①0.6―0.8という高い摩擦係数の定常値を示す.②0.0028―0.28 mm/sの速度域で摩擦が負の速度依存性を,0.28―2.8 mm/sの速度域で正の速度依存性を示す.②のように摩擦が負のすべり速度依存性を示すという特徴は,珪質・石灰質軟泥中の断層部分で開始するすべりが不安定すべりとなる可能性を示唆しており重要である(Namiki et al., 2014).
このような特徴的な摩擦特性を示す要因を探るため,珪質・石灰質軟泥の組成の端成分である非晶質シリカを用いて摩擦実験を行った.天然試料中の粒径や生物の殻の複雑な形状を保持する非晶質シリカの性質を調べるために,酸処理により珪質・石灰質軟泥中のカルサイトを除去することで得た非晶質シリカを実験に使用した.非晶質シリカは以下の摩擦特性を示した:①およそ0.6という高い摩擦の定常値を示す.②0.0028―2.8 mm/sの速度域で摩擦が負の速度依存性を示す.①より,組成の端成分である非晶質シリカが珪質・石灰質軟泥に近い摩擦強度を示すことが明らかになった.また,②は珪質・石灰質軟泥の摩擦が数mm/sで正の速度依存性を示すのは,非晶質シリカとカルサイトの混合による影響であることを示唆している.
上記のような摩擦特性を示した試料の実験後の組織を,SEMを用いて観察した.0.28―2.8 mm/sの速度域で摩擦が正の速度依存性を示した珪質・石灰質軟泥では,珪質および石灰質な生物殻の剪断帯に対して約30°斜交した定向配列が観察された.すべりの局所化は見られず,断層帯全体に渡って変形構造が分布している.一方,0.0028―2.8 mm/sの速度域で摩擦が負の速度依存性を示した非晶質シリカでは,定向配列のある領域とない領域が観察された.定向配列のない領域には丸みを帯びた非晶質シリカが分布している.この領域の非晶質シリカには生物殻の形状が見られない.定向配列のある領域には剪断帯に対して10°~ 20°斜交した割れ目が複数発達している.また,この割れ目と同じ方向に配列したシリカも観察された.Ikari et al. (2013) は摩擦が負の速度依存性を示した石灰質堆積物の実験後試料ではリーデル剪断が卓越していたと報告しており,本研究の非晶質シリカでもリーデル剪断が発達したと考えられる.