日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS27] 地震発生の物理・断層のレオロジー

2016年5月26日(木) 13:45 〜 15:10 コンベンションホールA (2F)

コンビーナ:*飯沼 卓史(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、加瀬 祐子(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、安藤 亮輔(東京大学大学院理学系研究科)、谷川 亘(独立行政法人海洋研究開発機構高知コア研究所)、向吉 秀樹(島根大学大学院総合理工学研究科地球資源環境学領域)、座長:飯沼 卓史(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、松澤 孝紀(独立行政法人 防災科学技術研究所)

[SSS27-23] 2015年チリ・イラペル地震における傾斜方向のジグザグな破壊エピソード

*奥脇 亮1八木 勇治1 (1.筑波大学大学院生命環境科学研究科)

キーワード:巨大地震の複雑な破壊進展、バックプロジェクション、波形インバージョン

2015年9月16日チリ中央北部イラペル沖においてMw 8.3の巨大地震が発生した.Global CMTカタログのメカニズム解は低角逆断層型を示しており,沈み込むナスカプレートと南アメリカプレートの境界で発生した地震と考えられる.GPS観測によって震源域周辺のプレート間の固着率はほぼ100%と見積もられており,発生が予期されていた地震であった.また震源域北部および北東部では1997年から1998年にかけて非地震性すべりに伴うM6程度の群発地震活動が活性化しており,2015年イラペル地震の震源域で直近に発生した1943年チリ・イラペル地震 (Ms 7.9) 以降,プレート間に蓄積してきた歪みが時空間的に不均一に解放されてきた地域で発生した地震といえる.地震時の破壊履歴を求めるために,グリーン関数の不確定性を考慮した波形インバージョン法および高周波の励起源を高精度に推定するHybrid backprojection (HBP) 法を遠地実体波P波に適用し,すべり分布と高周波 (0.3–2.0 Hz) の励起分布を比較することで幅広い周波数帯域をカバーする震源過程モデルを構築した.大局的な破壊過程は,北方向へのユニラテラルな破壊伝播,および津波の励起に寄与した震源から北西72 kmに位置するアスペリティ破壊で特徴づけられるが,破壊挙動を詳細に追ってみると,断層の傾斜方向へジグザグに破壊が進行する,初期破壊と主破壊2つの複雑な破壊エピソードをもつことがわかった.破壊開始から約25秒間は穏やかなモーメント解放を伴いながら,破壊フロントは震源から主に断層浅部へと北西方向に推移する破壊挙動を示している (初期破壊).破壊開始27秒後,破壊フロントは断層深部に移動し,強い高周波励起イベントの発生を皮切りに,破壊は再び断層の深部から浅部へと北西方向に移動しながら大きな断層すべりをもたらし,約90秒で破壊は停止する (主破壊).高周波の励起源は断層すべりの深部縁辺部に分布しており,2010年チリ・マウレ地震や他の沈み込み型巨大地震の観測結果と整合的な分布を示している.高周波の励起は破壊伝播速度あるいはすべり速度の急変を反映していると考えられるが,断層深部で発生した強い高周波の励起イベントは破壊伝播の加速を反映しており,2回目の破壊エピソードをトリガした可能性をもつ.破壊域終端は1997–1998年に活発化した群発地震領域に位置しており,破壊停止時にみられる高周波の弱励起は巨大地震発生領域と群発地震発生領域の摩擦特性あるいは応力状態の遷移域に破壊フロントが突入し破壊伝播速度が緩やかに減速したことを示唆している.