日本地球惑星科学連合2016年大会

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口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS27] 地震発生の物理・断層のレオロジー

2016年5月26日(木) 13:45 〜 15:10 コンベンションホールA (2F)

コンビーナ:*飯沼 卓史(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、加瀬 祐子(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、安藤 亮輔(東京大学大学院理学系研究科)、谷川 亘(独立行政法人海洋研究開発機構高知コア研究所)、向吉 秀樹(島根大学大学院総合理工学研究科地球資源環境学領域)、座長:飯沼 卓史(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、松澤 孝紀(独立行政法人 防災科学技術研究所)

14:55 〜 15:10

[SSS27-24] 地殻応力の大きさと不均一について

*飯尾 能久1 (1.京都大学防災研究所)

キーワード:地殻応力、不均一、地震発生域

1.はじめに
地殻応力は、地震の発生や地殻の変形を考える上で非常に重要なパラメータである。しかし,地殻深部のせん断応力の大きさ(以下、絶対応力と呼ぶ)を推定することは非常に難しい.その理由としては,1)地震時の変動が応力の絶対値ではなく変化分だけに依存すること,2)地震データから断層のすべり方向を決定して応力場を推定する手法では主応力の方位と相対値しか推定出来ないこと,3)地表から応力を直接測定可能なのは通常は深さ数kmまでであること,などが挙げられる.
そのため,これまで絶対応力は岩石の摩擦実験の結果から類推されていた.例えば、通常の岩石の摩擦係数である0.6程度を用いて推定すると、深さ10-15 km程度での地殻内の絶対応力は数百MPaと非常に大きく,地震による変化分はそのごく一部に過ぎない.
一方,サンアンドレアス断層において,地殻熱流量や応力に関するデータから、絶対応力は岩石摩擦強度よりはるかに小さい可能性が示された.この実験結果と観測結果との相違は「地殻応力問題」とよばれ,1970年代から米国を中心に大きな論争を巻きおこしているが,今もなお未解決である.
2.絶対応力の大きさと不均一
東北沖地震後,秋田県などで,地震を起こした応力の主軸の方向が有意に変化しているという報告がなされた(Yoshida et al., 2012).このことは,絶対応力と地震による変化分が同程度であること,つまり,絶対応力レベルが低い可能性を示唆している.しかしながら,秋田県における東北沖地震による応力変化の量はせいぜい1 MPa程度であり,通常の地震の応力降下量と同程度かむしろ小さいため,この報告には強い反対意見がある.地殻内の応力は大きな空間的不均質を持つものであり,外部からの擾乱があると,それに調和的な応力場が顕在化することにより,見かけ上,主応力軸の向きが変化したように見えるというものである(Smith and Heaton, 2011).彼らは、絶対応力の平均レベルは大きく、かつ不均質が大きいと考えている。
3.応力の不均質はどの程度あり得るか?
このように、現状では絶対応力が大きい、小さいという両方の考え方が存在している。そこで、現実に地殻上部では、応力の不均質はどの程度あり得るかを、理論的に検討してみた。均質な弾性体であれば、内部に応力の不均質を生じさせることは難しいので、不均質として、ランダムな方向に分布している摩擦強度が非常に小さい多数の断層面を仮定した。その断層面が完全に応力解放することにより、どの程度の応力の不均質が生じるかを検討してみた訳である。その結果、クラック密度が1の場合、つまり、単位体積あたりに単位長さの断層が1つあるという、多数の断層がある場合においても、最大圧縮応力の空間変化は非常に小さいことが分かった。これは、断層先端の応力集中域の大きさが、断層の長さに比べてずっと小さいことに関係している。
このことは、地殻内の応力不均質は大きく成り得ないことを示唆している。