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[SSS27-P03] 変位空間勾配解析に基づく東北日本沈み込み帯におけるプレート間カップリングの周期的変化および変動周期の深さ依存性の検出
キーワード:プレート間カップリング、GPS、東北日本、周期的変化、スロースリップイベント、2011年東北地方太平洋沖地震
島弧における陸上GNSS観測に基づいて推定される地表での変位速度場には,海溝またはトラフから沈み込む海側のプレートと島弧の位置する陸側のプレートとの境界における,プレート間の固着によってもたらされる変形が含まれている.日本列島においては,国土地理院の展開するGEONETに属するものをはじめとする,諸大学・諸機関の設置したGNSS観測点が列島規模の稠密GNSS連続観測網をなしており,取得されたデータから求められる地殻変動場を用いて,プレート境界面のどこがどれくらいの強さで固着しているのかを推定する試みがこれまで数多くなされてきた [例えば,Ito et al., 1999, 2000; Mazzoti et al., 2000; Nishimura et al., 2004; Suwa et al., 2006; Hashimoto et al., 2009; Loveless and Meade, 2010など] .しかしながら,特に東北日本においては,太平洋プレートの沈み込みが始まる日本海溝は陸域から遠く(200 km以上)離れているため,陸上に設置された観測点で取得される測地学的データに基づいて,海底下に位置するプレート境界面上でのプレート間固着域および固着強度の分布を,海溝軸に直交する方向に解像することは必ずしも簡単ではない.
Uchida et al. [2016, Science] は,陸上GNSS観測から得られる地表変位速度場の時空間変化を,小繰り返し地震の解析から推定されるプレート境界でのすべり速度の時空間変化と併せて用いることで,東北日本下に沈み込んでいる太平洋プレートと陸側のプレートとの境界において,1~6年程度の周期でスロースリップイベントが発生していることを明らかにした.同研究においては,1年の時間窓を1週間ずつずらして地表変位速度場を推定することで時間方向の変化を,また,海溝軸にほぼ直交する方向に設定された幅60 kmの帯状領域内に含まれる観測点における,水平変位の海溝軸からの距離に対する変化を変位の空間勾配として表現し,これを海溝軸に平行な方向に緯度にして0.1度ずつずらして求めることで空間方向の変化を検出している.水平変位の空間勾配が急であるほど,その帯状領域下でのプレート間の固着が強いことを利用して,固着強度の時間変化をモニタリングし,周期的なスロースリップの発生,すなわち固着強度の周期的変化を捉えたが,この手法では,その変化の生じている領域の位置を,海溝軸に直交する深さ方向に分解することはできず,また,固着強度が定量的にどの程度の大きさで変化しているのかを見積もることも困難であった.
一方で,Uchida et al. [2016] の小繰り返し地震の解析結果では,プレート境界面上で発生するスロースリップはその位置に応じた発生周期を持っていて,海溝軸に平行な方向に非一様であると同時に深さ方向にも変化しており,深部になるほど浅部に比して短い周期を持つ傾向を示している.そこで,本研究では,上下変位の変位勾配が,海岸線よりも深部に固着域が及んでいるか否かに応じてその符号が変化すること [飯沼・他, 2010, 日本測地学会第114回講演会] から,水平成分の変位勾配よりも上下変位の変位勾配がプレート境界の深い部分に対する感度を持つと考えて,各帯状領域における水平及び上下成分の変位勾配の時間変化の卓越周期を求めたところ,ほとんどの領域において,上下成分の変位勾配が短い卓越周期で変化していることが分かった.また,プレート境界での固着強度分布と,変位勾配を計算する際に使用する観測点の範囲とを変化させた数値計算テストを行ったところ,ある領域の固着強度の変化に対して,それ以外の領域の固着強度分布によらず,変位勾配の値が線形に変化することが確認できたので,これらについて報告する.また,今後,数値計算テストをより網羅的に行い,水平及び上下の変位勾配がプレート境界の現象について持つ感度を検定したうえで実データに適用し,固着強度の変化周期のプレート境界深度依存性並びに変化の大きさについての定量的評価を行う予定であり,本大会においてその結果の報告を行う.
Uchida et al. [2016, Science] は,陸上GNSS観測から得られる地表変位速度場の時空間変化を,小繰り返し地震の解析から推定されるプレート境界でのすべり速度の時空間変化と併せて用いることで,東北日本下に沈み込んでいる太平洋プレートと陸側のプレートとの境界において,1~6年程度の周期でスロースリップイベントが発生していることを明らかにした.同研究においては,1年の時間窓を1週間ずつずらして地表変位速度場を推定することで時間方向の変化を,また,海溝軸にほぼ直交する方向に設定された幅60 kmの帯状領域内に含まれる観測点における,水平変位の海溝軸からの距離に対する変化を変位の空間勾配として表現し,これを海溝軸に平行な方向に緯度にして0.1度ずつずらして求めることで空間方向の変化を検出している.水平変位の空間勾配が急であるほど,その帯状領域下でのプレート間の固着が強いことを利用して,固着強度の時間変化をモニタリングし,周期的なスロースリップの発生,すなわち固着強度の周期的変化を捉えたが,この手法では,その変化の生じている領域の位置を,海溝軸に直交する深さ方向に分解することはできず,また,固着強度が定量的にどの程度の大きさで変化しているのかを見積もることも困難であった.
一方で,Uchida et al. [2016] の小繰り返し地震の解析結果では,プレート境界面上で発生するスロースリップはその位置に応じた発生周期を持っていて,海溝軸に平行な方向に非一様であると同時に深さ方向にも変化しており,深部になるほど浅部に比して短い周期を持つ傾向を示している.そこで,本研究では,上下変位の変位勾配が,海岸線よりも深部に固着域が及んでいるか否かに応じてその符号が変化すること [飯沼・他, 2010, 日本測地学会第114回講演会] から,水平成分の変位勾配よりも上下変位の変位勾配がプレート境界の深い部分に対する感度を持つと考えて,各帯状領域における水平及び上下成分の変位勾配の時間変化の卓越周期を求めたところ,ほとんどの領域において,上下成分の変位勾配が短い卓越周期で変化していることが分かった.また,プレート境界での固着強度分布と,変位勾配を計算する際に使用する観測点の範囲とを変化させた数値計算テストを行ったところ,ある領域の固着強度の変化に対して,それ以外の領域の固着強度分布によらず,変位勾配の値が線形に変化することが確認できたので,これらについて報告する.また,今後,数値計算テストをより網羅的に行い,水平及び上下の変位勾配がプレート境界の現象について持つ感度を検定したうえで実データに適用し,固着強度の変化周期のプレート境界深度依存性並びに変化の大きさについての定量的評価を行う予定であり,本大会においてその結果の報告を行う.