日本地球惑星科学連合2016年大会

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セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS27] 地震発生の物理・断層のレオロジー

2016年5月25日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*飯沼 卓史(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、加瀬 祐子(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、安藤 亮輔(東京大学大学院理学系研究科)、谷川 亘(独立行政法人海洋研究開発機構高知コア研究所)、向吉 秀樹(島根大学大学院総合理工学研究科地球資源環境学領域)

17:15 〜 18:30

[SSS27-P05] コア変形法による南アフリカ大深度金鉱山誘発地震震源域の応力状態の推定

*阿部 周平1矢部 康男1伊藤 高敏2中谷 正生3Gerhard Hofmann4小笠原 宏5 (1.東北大学大学院理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センター、2.東北大学流体科学研究所、3.東京大学地震研究所、4.Senior Mine Seismologist Rock Engineering、5.立命館大学理工学部)

キーワード:南アフリカ大深度金鉱山、コア変形法

はじめに:
地震の準備過程は,断層の強度と断層運動を駆動する応力場が,断層すべりを介して相互作用をしつつ時空間発展していく過程である.そのため,震源域の応力場とその時間発展の把握は,地震の準備過程を理解する上で極めて重要である.断層近傍の応力を直接測定することを目的として,これまでに多くの掘削研究が行われてきた.掘削による応力測定には,水圧破砕法や応力解放法といったその場測定法やAE法やDRAといったコア法が用いられてきた.いずれの測定法も,ある条件のもとでは有効であるが,どのような場合にも使える万能な技術は存在しない.特に,大深度掘削に適用可能な技術は限られている.
南アフリカ大深度金鉱山のひとつであるムポネン金鉱山の深さ3.3㎞では,厚さ約30mの斑糲岩ダイクを斜めに断ち切るようにMw 2.2の地震(以下,本震)が発生した.Yabe et al.(2013)では,本震発生の約1.5年後に震源断層を貫通する掘削を行い,孔壁のブレークアウトと掘削コアのディスキングから,震源域の応力状態を推定した.しかし,この方法は震源域の応力状態がブレークアウトやディスキングの発生条件(破壊基準)を満たすかどうかの判定に基づいて,応力値の上限や下限を与える,非常に粗い推定法である.
本研究では掘削コア試料にコア変形法(船戸・伊藤,2013)を適用しより高い分解能で差応力の推定を試みる.本震震源域では,母岩(珪岩)とダイクの物性調査のために本震発生の約7ヶ月前にも掘削が行われている.そこで,本震発生前に採取されたコア試料にもコア変形法を適用し,地震前後の応力場についても議論する.これらの結果から,大深度応力測定へのコア変形法の適用可能性についても検討する.
手法:
コア変形法とは,掘削で周りの岩盤から切り離された採掘コアが応力解放によって非等方的に膨張することを利用し,コア試料の断面形状から推定される差ひずみに弾性定数を乗じて,孔井直交面内の差応力を求める方法である.本研究では,本震前後の掘削孔から採取した,それぞれ7個のコア試料(いずれも長さは約30 cm)の軸方向に約2㎝間隔で設定した測線に沿って,2度刻みで直径を測定し,その方位依存性を求めた.
結果:
本震前のコア試料では7個中3個で,本震後では7個中5個で位相のそろった直径の方位依存性を検出した.直径の方位依存性の位相が測線ごと異なるコア試料は,掘削時にドリルビットのブレ等によって削られたと考えられるので,以下の議論から除外する.弾性定数は一軸圧縮試験で測定した.本震前の差応力はコア試料を採取した位置に依らず100MPa程度と見積もられた.本震後の推定値は母岩内および母岩とダイクの境界付近では約20MPa,境界から離れたダイク内では70MPa程度であった.本震後の差応力推定値は,Yabe et al.(2013)による推定範囲に含まれるが,最尤値よりは2倍以上大きい.
議論:
コア変形法では,掘削時の応力解放に伴うコアの膨張は弾性変形のみであると仮定している.しかし,本研究で用いたコア試料を採取した,地表から約3.3㎞という大深度では被り圧だけでも約80MPaと大きなものであるため,応力解放に伴って非弾性変形が生じる可能性がある.そこで、差応力の推定値に非弾性変形が及ぼす影響を見積もるため,ダイクから採取した岩石試料の一軸クリープ試験を行った.さらに,一軸圧縮破壊試験および一軸引張破壊試験(ブラジリアンテスト)も行って,降伏直前の非弾性変形の程度を計測した.これらの試験では,弾性変形に対する非弾性変形の割合は最大でも30%であった.このことから,Yabe et al. (2013)の最尤値に比べて2倍以上大きな差応力の推定値は,非弾性変形の影響ではなく,実際に差応力が大きいことを示していると言える.本震前の掘削で得られたコア試料から推定された差応力は,本震後のコア試料から推定した差応力よりも有意に大きい.しかし,二つの掘削孔は互いに傾斜が異なるため,差応力推定値を直接比較できない.そこで,グリッドサーチにより二つの推定結果を再現できる単一の応力状態が存在するかどうか検討した.主応力の方向はYabe et al. (2013)で推定されたものを仮定し,最大300MPaの主応力の範囲でグリッドサーチを行った.その結果,両者を同時に満足する主応力値は存在しなかった.ただし,本震前の掘削から地震発生までに約7ヶ月,本震から本震後の掘削までは約1.5年の時間があるので,本研究で検出した応力状態の変化は,本震の発生だけでなく採掘域の変化にも起因していることには注意が必要である.
結論:
本研究により,Yabe et al. (2013)で大まかな範囲が拘束されるだけであったMw2.2の地震の震源域の応力状態に対して,新たな制約を与えることができた.また,本震の前後に採取されたコア試料の解析から,コア変形法は応力の時間変化の検出にも有効であることを示した.