17:15 〜 18:30
[SSS27-P14] 南海トラフ巨大地震サイクルシミュレーション ―熱的加圧による速度弱化を考慮した離散セルモデルの準動的数値計算―
キーワード:南海トラフ、地震サイクルシミュレーション、境界要素法、間隙流体圧、熱的加圧
フィリピン海プレートが沈み込む南海トラフでは繰り返し大規模な地震が発生しており,今世紀前半に西南日本に大きな被害をもたらす巨大地震の発生が危惧されている.繰り返し間隔は90年から250年と大きく変化する.四国沖から東海沖までのびる震源域は5つのセグメントに分けられ,5つのセグメント全てが連動破壊する場合,或いはあるセグメントが遅れて破壊したり,また破壊しない場合がある,といった非常に多様な地震発生を繰り返す(Ishibashi,2004).また瀬野 [2012]は地震歴を見直して,震源域では主に地震波、津波および地殻変動を生じさせる領域が階層的に存在しており,また南海トラフ巨大地震は地震領域が安政地震の特徴を持つかまたは宝永地震の特徴を持つかで安政型および宝永型に分類されると提唱している.提唱されたモデルは複雑な南海トラフ地震発生履歴を理解する一つの見方といえるが、更なる検証が必要であろう.このように複雑な南海トラフ地震の発生様式を解明するための一つの手法として,地震サイクルシミュレーションが考えられる.
本研究では,断層面上のみを離散化する境界要素法的解法を用い,速度状態依存摩擦則に従いプレート運動を原動力とする地震サイクルシミュレーションを行なう.摩擦パラメータの空間不均質性を考慮するだけでは上記の複雑な南海トラフの地震歴を再現することは難しく,別の新しい影響を考慮することが求められる.Noda and Lapusta [2010]では地震時の摩擦発熱により断層帯中の流体,間隙流体の圧力が増加する熱的加圧という現象に焦点を当て,熱的加圧に関わるパラメータの空間非一様性を断層面上で考慮することで2つのパッチの相互作用を表現している.本研究ではこの性質を南海トラフの設定に適用し,その複雑な地震歴を再現することを最終目的とする.彼らは動的破壊過程まで含めているが,本研究では計算コストの関係で慣性項を近似した準動的計算スキームを用いる.この点で以下に述べる熱的加圧の効果は過小評価になっている可能性があるが,今後の問題としたい.
熱的加圧による間隙流体圧の時間変化を考慮した場合,地震時の法線応力が増大し摩擦力が減少する.これにより未考慮時と比べて一度のイベントで地震性すべりする量が増加し地震再来周期が長くなる.この熱的加圧の計算にはBizzari and Cocco [2012]で提唱された畳み込み積分の形式を採用することで拡散方程式をそのまま解く場合に比べて時間刻み幅を比較的大きく取ることができる.しかし,履歴積分による計算コストは依然として大きく,断層セル間の相互作用の計算量と相まって,南海トラフのような広域断層を連続体としてそのまま計算することは現状では難しい.そこで,今回はMitsui and Hirahara [2004]で計算された南海トラフをバネ-ブロックモデルによって表現した手法を参考に,計算負担の比較的軽微なモデル計算を行い上述の熱的加圧を考慮した概念モデルにより,地震歴の再現性の評価を行った.このモデルではブロックを南海トラフの5つのセグメントに見立て,dip角などのそれぞれのセグメントに固有の性質をブロックごとに適用する.今回の研究では要素同士の弾性相互作用をバネではなくOkada[1992]による半無限均質弾性媒質中でのすべり応答関数によって表現する離散セルモデルとして計算する.合計セル数5では相互作用をほぼ表現できないため,走行方向のセル分割数をある程度増やして計算を行う.特定のセルにのみ熱的加圧を考慮し,摩擦パラメータの設定と合わせて様々なサイクルパターンを作り出し,南海トラフの地震歴に合致するようなイベントの再現を目指す.この際重要になるのは,熱的加圧を考慮するセル数を減らすことで計算負担を可能な限り削減することである.連続体モデルで計算する場合に今回の概念モデルと得られた結果を参考にすることで南海トラフの地震歴を実用的に,精度よく再現できることが期待される.
本研究では,断層面上のみを離散化する境界要素法的解法を用い,速度状態依存摩擦則に従いプレート運動を原動力とする地震サイクルシミュレーションを行なう.摩擦パラメータの空間不均質性を考慮するだけでは上記の複雑な南海トラフの地震歴を再現することは難しく,別の新しい影響を考慮することが求められる.Noda and Lapusta [2010]では地震時の摩擦発熱により断層帯中の流体,間隙流体の圧力が増加する熱的加圧という現象に焦点を当て,熱的加圧に関わるパラメータの空間非一様性を断層面上で考慮することで2つのパッチの相互作用を表現している.本研究ではこの性質を南海トラフの設定に適用し,その複雑な地震歴を再現することを最終目的とする.彼らは動的破壊過程まで含めているが,本研究では計算コストの関係で慣性項を近似した準動的計算スキームを用いる.この点で以下に述べる熱的加圧の効果は過小評価になっている可能性があるが,今後の問題としたい.
熱的加圧による間隙流体圧の時間変化を考慮した場合,地震時の法線応力が増大し摩擦力が減少する.これにより未考慮時と比べて一度のイベントで地震性すべりする量が増加し地震再来周期が長くなる.この熱的加圧の計算にはBizzari and Cocco [2012]で提唱された畳み込み積分の形式を採用することで拡散方程式をそのまま解く場合に比べて時間刻み幅を比較的大きく取ることができる.しかし,履歴積分による計算コストは依然として大きく,断層セル間の相互作用の計算量と相まって,南海トラフのような広域断層を連続体としてそのまま計算することは現状では難しい.そこで,今回はMitsui and Hirahara [2004]で計算された南海トラフをバネ-ブロックモデルによって表現した手法を参考に,計算負担の比較的軽微なモデル計算を行い上述の熱的加圧を考慮した概念モデルにより,地震歴の再現性の評価を行った.このモデルではブロックを南海トラフの5つのセグメントに見立て,dip角などのそれぞれのセグメントに固有の性質をブロックごとに適用する.今回の研究では要素同士の弾性相互作用をバネではなくOkada[1992]による半無限均質弾性媒質中でのすべり応答関数によって表現する離散セルモデルとして計算する.合計セル数5では相互作用をほぼ表現できないため,走行方向のセル分割数をある程度増やして計算を行う.特定のセルにのみ熱的加圧を考慮し,摩擦パラメータの設定と合わせて様々なサイクルパターンを作り出し,南海トラフの地震歴に合致するようなイベントの再現を目指す.この際重要になるのは,熱的加圧を考慮するセル数を減らすことで計算負担を可能な限り削減することである.連続体モデルで計算する場合に今回の概念モデルと得られた結果を参考にすることで南海トラフの地震歴を実用的に,精度よく再現できることが期待される.