13:45 〜 14:00
[SSS28-06] 使いやすい並列地震波伝播数値シミュレーションコードの開発
キーワード:地震波伝播、差分法、並列計算、数値シミュレーション
はじめに
地震波伝播の数値シミュレーションは,リソスフェアや浅部地盤構造の推定,巨大地震の震源モデル研究,不均質構造中の地震波伝播の評価などの高度化に直結することが期待される基盤的な技術である.数値シミュレーション手法の改良,標準的な構造モデルの整備,そして計算機自体の進化という三者の発展によって,今日の地震波伝播シミュレーションは日常的な解析研究に活用できるレベルに達しつつある.
こうした背景の下,本研究では地震波解析研究における数値シミュレーションの利用の促進に向け,これまでスーパーコンピュータ上で開発してきた並列差分法コードの性能を最大限に維持したままに,シミュレーションの専門家でなくても容易に使えるようコードの全面的な刷新を行い,かつより広範な分野で利用可能となるよう高度化を行った.
計算コードの開発
本研究で開発した差分法に基づく並列地震波動伝播シミュレーションコードは,媒質の減衰構造を一般化Zener粘弾性体モデルを用いて表現するなど,現実の不均質構造下での広帯域地震動を評価するための有効な技術を採用し,かつスーパーコンピュータにおける並列計算によってその計算機性能を最大限に引き出すことのできるものであった.しかし,高性能化の代償としてそのコードが各スパコンの計算機アーキテクチャに特化しており,汎用性が低くなっていた.
そこで,専門家でなくても容易に扱えるよう,このコードの抜本的な改修を行った.開発したコードは,入力パラメタに応じて計算機メモリの動的な確保,3次元構造モデルの自動生成と離散化,波動伝播計算と出力を一貫して行う.モデルの変更や計算サイズの修正および並列数の変更などはすべて入力パラメタのみで制御可能であり,原則として利用者がコードを修正する必要はない.また,入力データとなる地下構造モデルの準備や計算結果の後処理等の必要な作業をすべて計算コードに統合化することによって,利用者の負担が大幅に軽減されている.
本コードはデカルト座標系で差分法計算を行うが,緯度・経度座標からの座標変換についてもGauss-Krügerの等角地図投影変換が計算コードに内包されており,震源や観測点位置などの位置情報は緯度経度のままで与えることができる.地震波速度構造についても,緯度・経度・境界面の深さからなる複数の速度不連続面で表現された成層構造モデルにより表される3次元不均質構造から,自動的に指定領域を切り出し,デカルト座標系の差分格子に合わせた不均質構造モデルを生成させることができる.震源についてもさまざまな問題に適応できるように,モーメントテンソルで表される点震源の他に,実体力震源.遠地地震・地盤構造研究のための平面波入射が選択可能である.相反定理を用いて多数の震源要素位置からの応答を高速に計算するGreen関数モードも整備した.これら動作モードの変更も,すべて入力パラメタの変更だけで制御できる.
地震波速度構造モデルやスナップショット出力などの空間情報を扱う入出力ファイルにはNetCDFを,地震波形出力にはSACフォーマットをそれぞれ採用した.どちらも広く使われている解析・可視化ツールを通じて地震学研究コミュニティになじみ深いものであり,ユーザーにとってシミュレーション結果の取り扱いが容易になると期待される.
全国1次地下構造モデルに基づく計算
開発したコードを用いて,日本列島各地で発生したMw 6-6.5の地震のF-netメカニズム解を用いて,広帯域地震波観測記録の再現を試みた.シミュレーションにはF-netの1次元速度構造ならびに全国1次地下構造モデルを用い,観測記録と計算記録の走時ずれを許容した相互相関係数を通じた波形一致度の評価を行った.
周期50-100秒帯域においては,数値シミュレーション結果と観測記録の相関は全般に高いが,周期50秒を下回ると相関が急激に落ち,またその落ち方に地域性が見られることが明らかになった.ここで,1次元構造を仮定した計算波形と3次元不均質構造を仮定した計算波形とが比較的長周期帯でも顕著に異なる場合があり,かつそれが海溝や盆地構造など特定の不均質構造に起因すると思われる地域性を持つことは特筆に値する.F-netメカニズムの震源位置およびメカニズムは1次元速度構造を仮定して推定されており,それを元に3次元構造モデルで計算した波形が観測記録によりよく一致するとは限らないことには注意が必要であるが,本結果は今後適切な3次元不均質構造を導入することで,長周期波形を用いたモーメントテンソル解析が大幅に高精度化する可能性を強く示唆するものである.
地震波伝播の数値シミュレーションは,リソスフェアや浅部地盤構造の推定,巨大地震の震源モデル研究,不均質構造中の地震波伝播の評価などの高度化に直結することが期待される基盤的な技術である.数値シミュレーション手法の改良,標準的な構造モデルの整備,そして計算機自体の進化という三者の発展によって,今日の地震波伝播シミュレーションは日常的な解析研究に活用できるレベルに達しつつある.
こうした背景の下,本研究では地震波解析研究における数値シミュレーションの利用の促進に向け,これまでスーパーコンピュータ上で開発してきた並列差分法コードの性能を最大限に維持したままに,シミュレーションの専門家でなくても容易に使えるようコードの全面的な刷新を行い,かつより広範な分野で利用可能となるよう高度化を行った.
計算コードの開発
本研究で開発した差分法に基づく並列地震波動伝播シミュレーションコードは,媒質の減衰構造を一般化Zener粘弾性体モデルを用いて表現するなど,現実の不均質構造下での広帯域地震動を評価するための有効な技術を採用し,かつスーパーコンピュータにおける並列計算によってその計算機性能を最大限に引き出すことのできるものであった.しかし,高性能化の代償としてそのコードが各スパコンの計算機アーキテクチャに特化しており,汎用性が低くなっていた.
そこで,専門家でなくても容易に扱えるよう,このコードの抜本的な改修を行った.開発したコードは,入力パラメタに応じて計算機メモリの動的な確保,3次元構造モデルの自動生成と離散化,波動伝播計算と出力を一貫して行う.モデルの変更や計算サイズの修正および並列数の変更などはすべて入力パラメタのみで制御可能であり,原則として利用者がコードを修正する必要はない.また,入力データとなる地下構造モデルの準備や計算結果の後処理等の必要な作業をすべて計算コードに統合化することによって,利用者の負担が大幅に軽減されている.
本コードはデカルト座標系で差分法計算を行うが,緯度・経度座標からの座標変換についてもGauss-Krügerの等角地図投影変換が計算コードに内包されており,震源や観測点位置などの位置情報は緯度経度のままで与えることができる.地震波速度構造についても,緯度・経度・境界面の深さからなる複数の速度不連続面で表現された成層構造モデルにより表される3次元不均質構造から,自動的に指定領域を切り出し,デカルト座標系の差分格子に合わせた不均質構造モデルを生成させることができる.震源についてもさまざまな問題に適応できるように,モーメントテンソルで表される点震源の他に,実体力震源.遠地地震・地盤構造研究のための平面波入射が選択可能である.相反定理を用いて多数の震源要素位置からの応答を高速に計算するGreen関数モードも整備した.これら動作モードの変更も,すべて入力パラメタの変更だけで制御できる.
地震波速度構造モデルやスナップショット出力などの空間情報を扱う入出力ファイルにはNetCDFを,地震波形出力にはSACフォーマットをそれぞれ採用した.どちらも広く使われている解析・可視化ツールを通じて地震学研究コミュニティになじみ深いものであり,ユーザーにとってシミュレーション結果の取り扱いが容易になると期待される.
全国1次地下構造モデルに基づく計算
開発したコードを用いて,日本列島各地で発生したMw 6-6.5の地震のF-netメカニズム解を用いて,広帯域地震波観測記録の再現を試みた.シミュレーションにはF-netの1次元速度構造ならびに全国1次地下構造モデルを用い,観測記録と計算記録の走時ずれを許容した相互相関係数を通じた波形一致度の評価を行った.
周期50-100秒帯域においては,数値シミュレーション結果と観測記録の相関は全般に高いが,周期50秒を下回ると相関が急激に落ち,またその落ち方に地域性が見られることが明らかになった.ここで,1次元構造を仮定した計算波形と3次元不均質構造を仮定した計算波形とが比較的長周期帯でも顕著に異なる場合があり,かつそれが海溝や盆地構造など特定の不均質構造に起因すると思われる地域性を持つことは特筆に値する.F-netメカニズムの震源位置およびメカニズムは1次元速度構造を仮定して推定されており,それを元に3次元構造モデルで計算した波形が観測記録によりよく一致するとは限らないことには注意が必要であるが,本結果は今後適切な3次元不均質構造を導入することで,長周期波形を用いたモーメントテンソル解析が大幅に高精度化する可能性を強く示唆するものである.