14:00 〜 14:15
[SSS28-07] 地震波伝播シミュレーションによるT-phaseの生成と伝播メカニズムの検討
キーワード:T-phase、海底地形、地下構造、地震波伝播シミュレーション
1.はじめに
T-phaseとは、海域を伝播する地震波において、P波やS波の後からずっと遅れて観測される第3番目(Tertiary)の波を指し、その実態は速度1.5 km/sで海水中を伝播する音響波である。海底下の震源から放射されたP波やS波が海底面でP波に変換して海水中へ入射し、海面と海底面で広角反射を繰り返すことで生成される。そのため、震源の直上に海底傾斜が存在すると、P波が全反射を起こしやすくなりT-phaseの発生効率も高まると期待されている(Johnson et al., 1963 )。一方で、深海の比較的平らな海底地形下で発生した地震においてもT-phaseが観測された報告もあり(Okal, 2008)、T-phaseの成因に関する議論が続いている。また、T-phaseの伝播過程においては、海水中のSOFARチャネル(SOund Fixing And Ranging)と呼ばれる低速度帯にP波がトラップされることで遠地まで伝わるというメカニズムがよく知られおり、海底地形の高まり(海山)でのT-phaseの反射についても詳しく調べられている(Obara and Maeda, 2009)。本研究では、こうした海水中を伝播するT-phaseの特性と、その発生や伝播特性について、海底地震計で観測されたT-phase波形と地震波伝播の2次元差分法シミュレーションにより詳しく検討した。
2.海底地震計によるT-phase観測データ
カムチャッカ半島からアリューシャン列島付近で発生した、深さ14〜62 kmの18個の地震について、北太平洋上に設置された広帯域海底地震計(WPAC)で記録された、震源距離788~1899 kmの地震波形データに見られるT-phaseの特性を調べた。地震計記録に対して2~8 Hzのバンドパスフィルタをかけ、表面波を取り除いた。観測波形それぞれにおいて、P波またはS波の最大振幅でノーマライズしたT-phaseを用いることで、マグニチュードによらないT-phaseの相対強度を調べた。3成分記録におけるT-phaseの最大振幅を求めたところ、多くの地震記録においてS波に対して0.2〜1倍程度の大きな振幅を持つT-phaseが認められた。これらの波形は紡錘形で継続時間が長く、最大1899 kmの遠地までよく伝わることが確認できた。震源と観測点を結ぶ、いくつかの伝播経路について、T-phaseの振幅と海底地形の関係について調べた結果、震源直上の海底傾斜が大きく、傾斜が長く続いている場所ほど強いT-phaseが現れることが確認できた。また、震源が浅いほどT-phaseの振幅が強くなることや、伝播経路に海山がある場合にはT-phaseの振幅が弱まることも確認できた。
3.地震波伝播シミュレーション
海底地震計で観測された強いT-phaseを再現するために、2次元差分法による地震波伝播シミュレーションを行ない、海底地形と地下の不均質構造の影響について調査した。まずT-phaseの発生における海底地形の影響を検討するために、水深5 kmの平らな海底面のモデルと、距離100 kmで水深が0 kmから5 kmへ伸びる直線的な海底傾斜を持つモデルを用いて、地震波伝播シミュレーションを行った。海底下の速度構造は(Sereno and Orcutt, 1985)による成層構造により与えた、海水中のP波速度は1.5 km/sと設定した。深さ33 kmの逆断層型の地震について周波数8 Hzまでの高周波数地震動を計算した。その結果、平らな海底ではT-phaseは発生しないが、海底傾斜を持つモデルでは大振幅のT-phaseがS波の後続相として現れた。次に、海底傾斜に加えて現実の海底地形の凹凸を入れたモデルを用いて計算を行ったところ、T-phaseの振幅は若干弱まり、波形の形状は紡錘形で観測に近いT-phaseの波群が形成された。地殻・マントルに短波長不均質構造を加えたモデル(Kennett and Furumura, 2014)では、P波とS波(Po, So波)の継続時間は長くなったが、T-phaseの波形にはあまり差が現れなかった。従って、紡錘形のT-phaseの生成には、海底傾斜と凹凸を含む海底地形の存在が強く関係していることがわかった。このモデルを用いて、震源が浅いほどT-phaseの振幅は強まることもシミュレーションから確認した。次に、海水中にSOFARチャネルあり/なしの2つのモデルを用いた計算結果を比較したところ、T-phaseがSOFARチャネルにトラップされることで、距離減衰が小さくなり遠地までよく伝わることも確認できた。
謝辞 東大地震研海半球ネットワークデータセンターの海底地震計データを使用しました。計算は東大地震研EIC計算機を使用しました。
T-phaseとは、海域を伝播する地震波において、P波やS波の後からずっと遅れて観測される第3番目(Tertiary)の波を指し、その実態は速度1.5 km/sで海水中を伝播する音響波である。海底下の震源から放射されたP波やS波が海底面でP波に変換して海水中へ入射し、海面と海底面で広角反射を繰り返すことで生成される。そのため、震源の直上に海底傾斜が存在すると、P波が全反射を起こしやすくなりT-phaseの発生効率も高まると期待されている(Johnson et al., 1963 )。一方で、深海の比較的平らな海底地形下で発生した地震においてもT-phaseが観測された報告もあり(Okal, 2008)、T-phaseの成因に関する議論が続いている。また、T-phaseの伝播過程においては、海水中のSOFARチャネル(SOund Fixing And Ranging)と呼ばれる低速度帯にP波がトラップされることで遠地まで伝わるというメカニズムがよく知られおり、海底地形の高まり(海山)でのT-phaseの反射についても詳しく調べられている(Obara and Maeda, 2009)。本研究では、こうした海水中を伝播するT-phaseの特性と、その発生や伝播特性について、海底地震計で観測されたT-phase波形と地震波伝播の2次元差分法シミュレーションにより詳しく検討した。
2.海底地震計によるT-phase観測データ
カムチャッカ半島からアリューシャン列島付近で発生した、深さ14〜62 kmの18個の地震について、北太平洋上に設置された広帯域海底地震計(WPAC)で記録された、震源距離788~1899 kmの地震波形データに見られるT-phaseの特性を調べた。地震計記録に対して2~8 Hzのバンドパスフィルタをかけ、表面波を取り除いた。観測波形それぞれにおいて、P波またはS波の最大振幅でノーマライズしたT-phaseを用いることで、マグニチュードによらないT-phaseの相対強度を調べた。3成分記録におけるT-phaseの最大振幅を求めたところ、多くの地震記録においてS波に対して0.2〜1倍程度の大きな振幅を持つT-phaseが認められた。これらの波形は紡錘形で継続時間が長く、最大1899 kmの遠地までよく伝わることが確認できた。震源と観測点を結ぶ、いくつかの伝播経路について、T-phaseの振幅と海底地形の関係について調べた結果、震源直上の海底傾斜が大きく、傾斜が長く続いている場所ほど強いT-phaseが現れることが確認できた。また、震源が浅いほどT-phaseの振幅が強くなることや、伝播経路に海山がある場合にはT-phaseの振幅が弱まることも確認できた。
3.地震波伝播シミュレーション
海底地震計で観測された強いT-phaseを再現するために、2次元差分法による地震波伝播シミュレーションを行ない、海底地形と地下の不均質構造の影響について調査した。まずT-phaseの発生における海底地形の影響を検討するために、水深5 kmの平らな海底面のモデルと、距離100 kmで水深が0 kmから5 kmへ伸びる直線的な海底傾斜を持つモデルを用いて、地震波伝播シミュレーションを行った。海底下の速度構造は(Sereno and Orcutt, 1985)による成層構造により与えた、海水中のP波速度は1.5 km/sと設定した。深さ33 kmの逆断層型の地震について周波数8 Hzまでの高周波数地震動を計算した。その結果、平らな海底ではT-phaseは発生しないが、海底傾斜を持つモデルでは大振幅のT-phaseがS波の後続相として現れた。次に、海底傾斜に加えて現実の海底地形の凹凸を入れたモデルを用いて計算を行ったところ、T-phaseの振幅は若干弱まり、波形の形状は紡錘形で観測に近いT-phaseの波群が形成された。地殻・マントルに短波長不均質構造を加えたモデル(Kennett and Furumura, 2014)では、P波とS波(Po, So波)の継続時間は長くなったが、T-phaseの波形にはあまり差が現れなかった。従って、紡錘形のT-phaseの生成には、海底傾斜と凹凸を含む海底地形の存在が強く関係していることがわかった。このモデルを用いて、震源が浅いほどT-phaseの振幅は強まることもシミュレーションから確認した。次に、海水中にSOFARチャネルあり/なしの2つのモデルを用いた計算結果を比較したところ、T-phaseがSOFARチャネルにトラップされることで、距離減衰が小さくなり遠地までよく伝わることも確認できた。
謝辞 東大地震研海半球ネットワークデータセンターの海底地震計データを使用しました。計算は東大地震研EIC計算機を使用しました。