17:15 〜 18:30
[SSS28-P01] タイムリバーサル法による活断層構造と震源球との比較
キーワード:タイムリバーサル法、震源振動、震源球
活断層の構造とその震動機構を解明することは地震予知の観点から重要である。比較的大きな地震に関しては、その発生後に気象庁から観測された震源球が報告される。この震源球は地震波の初動極性を震源付近の球上に置換したもので、その極性の分布図から活断層の亀裂方位が求められる。最近、著者らは地震波のタイムリバーサル処理に基づいた活断層の動的モデルを構築した。この動的モデルは震源球と類似した特性を持っている。そこで、今回は、震源球と動的モデルとを比較し、それらが示す初動極性分布と活断層の方位がほぼ一致することを示す。更に地震予知に繋がる動的モデルの特徴を示す。
初めに、震源球に関しては気象庁のホームページに詳説されている。受信した地震波の最先端のみの変位を正極と負極に分別し、その極性を、音線経路により受信点から震源付近まで戻した位置に再配置する。全方位にわたる受信点からの極性再配置は一つの球上に表示される。球上の極性分布の境界方位から活断層の方位が求められる。この方法では活断層の全体の変位に着目しているので処理周波数範囲は1 Hz以下の低周波である。
次に、動的モデルについて概説する。このモデルは波動伝播に関するタイムリバーサルの原理に基づいて構築される。観測点で受波した地震波の中からP波成分を切り出して、その波を時間的に反転させる。その反転させた信号を伝播シミュレーション上で放射して、震源位置に形成されるパルス、即ちタイムリバーサルパルス(TRP)を求める。伝播シミュレーションには放物型方程式法を用いた。処理周波数範囲は1~20 Hzの広帯域である。震源を囲む観測点から求められたTRPの集合が、等価的な震源震動に相当する。その低周波特性は震源球に類似した特性を持つが、その高周波特性は動的な震動特性を示す。
動的モデルの実例として、2009年8月に駿河湾の中部で発生した地震を対象に述べる。震源を囲む44ヶ所の観測点で受信したP波信号にタイムリバーサル処理を施し、震源の位置に形成されるTRPを求めた。このTRPは震源が放射する等価的な音源に相当する。
一般に、雑音はランダムな振動であるから干渉性を持たない。そのため指向性もない。しかしながら、求められたTRPには明確な方位依存性が存在した。この方位依存性の成因を解明するために、方位に対するTRPの周波数スペクトルを求めた。周波数スペクトルは方位角によって大きく変化した。そこで、方位角に対する最大振幅周波数の分布を求めた。その結果、方位が西から東に移動するにつれて最大振幅周波数が大きく上昇して、そして下降した。音波の周波数変動は音源の移動によるドップラー効果が一般的である。しかしながら、上記地震の場合、震源と観測点の相対位置は大きく変化していないのでドップラー効果ではない。この場合の周波数上昇は音源が局所的に高速で移動したためと考えられる。移動方向は西伊豆西、河津及び伊東方向へ集中した。
これらの観測点で受信したP波を調べると特徴ある波形が表れた。西伊豆西の受信波の先頭部が膨張していた。しかし、西伊豆西に近い伊東と河津での受信波は通常の波形であった。この様に頭部が増大することは、活断層中における亀裂の進行速度が伝搬速度に近くなった場合に発生する。亀裂によって発生した圧力が高速で移動することにより累積的に加算される、即ち、パラメトリック効果によって生じると考えられる。西伊豆西はこの地震の特性を反映する特定点である。この観測点で受波した余震の波形は、本震以上にP波の先頭部が膨張していた。これは亀裂が断層全般に拡大したためと考えられる。一方、本震以前に発生した前兆地震でも先頭部の膨張が多く観測された。これらの結果から震源振動の動的モデルを提唱した。活断層から放射された狭角のビームが地表に達する点をパラメトリックスポット、ここで観測される頭部の増大したパルスの頭部をパラメトリックヘッドと呼ぶ。活断層から放射された狭角のビームの方位は活断層の方位である。従って、パラメトリックスポットの方位が、活断層の方位である。
この地震のパラメトリックスポットの方位は86°である。一方、気象庁が求めた震源球による方位は71°でほぼ一致している。また、TRPを1 Hzの低周波フィルターを通した信号の初動極性の分布は震源球の分布とほぼ一致した。上記のように、TRPの高周波特性により活断層の放射ビームが算出され、また低周波特性から初動極性の分布が算出される。このことから、タイムリバーサル法に基づいた動的モデルは活断層の震動特性の解明に有効と考えられる。
本報告では、防災科学技術研究所のHi-netによる地震テータを使用しました。ここに謝意を表します。
初めに、震源球に関しては気象庁のホームページに詳説されている。受信した地震波の最先端のみの変位を正極と負極に分別し、その極性を、音線経路により受信点から震源付近まで戻した位置に再配置する。全方位にわたる受信点からの極性再配置は一つの球上に表示される。球上の極性分布の境界方位から活断層の方位が求められる。この方法では活断層の全体の変位に着目しているので処理周波数範囲は1 Hz以下の低周波である。
次に、動的モデルについて概説する。このモデルは波動伝播に関するタイムリバーサルの原理に基づいて構築される。観測点で受波した地震波の中からP波成分を切り出して、その波を時間的に反転させる。その反転させた信号を伝播シミュレーション上で放射して、震源位置に形成されるパルス、即ちタイムリバーサルパルス(TRP)を求める。伝播シミュレーションには放物型方程式法を用いた。処理周波数範囲は1~20 Hzの広帯域である。震源を囲む観測点から求められたTRPの集合が、等価的な震源震動に相当する。その低周波特性は震源球に類似した特性を持つが、その高周波特性は動的な震動特性を示す。
動的モデルの実例として、2009年8月に駿河湾の中部で発生した地震を対象に述べる。震源を囲む44ヶ所の観測点で受信したP波信号にタイムリバーサル処理を施し、震源の位置に形成されるTRPを求めた。このTRPは震源が放射する等価的な音源に相当する。
一般に、雑音はランダムな振動であるから干渉性を持たない。そのため指向性もない。しかしながら、求められたTRPには明確な方位依存性が存在した。この方位依存性の成因を解明するために、方位に対するTRPの周波数スペクトルを求めた。周波数スペクトルは方位角によって大きく変化した。そこで、方位角に対する最大振幅周波数の分布を求めた。その結果、方位が西から東に移動するにつれて最大振幅周波数が大きく上昇して、そして下降した。音波の周波数変動は音源の移動によるドップラー効果が一般的である。しかしながら、上記地震の場合、震源と観測点の相対位置は大きく変化していないのでドップラー効果ではない。この場合の周波数上昇は音源が局所的に高速で移動したためと考えられる。移動方向は西伊豆西、河津及び伊東方向へ集中した。
これらの観測点で受信したP波を調べると特徴ある波形が表れた。西伊豆西の受信波の先頭部が膨張していた。しかし、西伊豆西に近い伊東と河津での受信波は通常の波形であった。この様に頭部が増大することは、活断層中における亀裂の進行速度が伝搬速度に近くなった場合に発生する。亀裂によって発生した圧力が高速で移動することにより累積的に加算される、即ち、パラメトリック効果によって生じると考えられる。西伊豆西はこの地震の特性を反映する特定点である。この観測点で受波した余震の波形は、本震以上にP波の先頭部が膨張していた。これは亀裂が断層全般に拡大したためと考えられる。一方、本震以前に発生した前兆地震でも先頭部の膨張が多く観測された。これらの結果から震源振動の動的モデルを提唱した。活断層から放射された狭角のビームが地表に達する点をパラメトリックスポット、ここで観測される頭部の増大したパルスの頭部をパラメトリックヘッドと呼ぶ。活断層から放射された狭角のビームの方位は活断層の方位である。従って、パラメトリックスポットの方位が、活断層の方位である。
この地震のパラメトリックスポットの方位は86°である。一方、気象庁が求めた震源球による方位は71°でほぼ一致している。また、TRPを1 Hzの低周波フィルターを通した信号の初動極性の分布は震源球の分布とほぼ一致した。上記のように、TRPの高周波特性により活断層の放射ビームが算出され、また低周波特性から初動極性の分布が算出される。このことから、タイムリバーサル法に基づいた動的モデルは活断層の震動特性の解明に有効と考えられる。
本報告では、防災科学技術研究所のHi-netによる地震テータを使用しました。ここに謝意を表します。