日本地球惑星科学連合2016年大会

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口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS29] 地震動・地殻変動・火山データの即時把握・即時解析・即時予測

2016年5月22日(日) 13:45 〜 15:15 106 (1F)

コンビーナ:*干場 充之(気象研究所)、香川 敬生(鳥取大学大学院工学研究科)、川元 智司(国土交通省国土地理院)、中村 洋光(防災科学技術研究所)、小泉 岳司(気象庁)、林元 直樹(気象研究所地震津波研究部)、座長:中村 洋光(防災科学技術研究所)、川元 智司(国土交通省国土地理院)、干場 充之(気象研究所)

13:45 〜 14:00

[SSS29-01] i地震を用いた10層RC造建物ヘルスモニタリング実験

*東 宏樹1内藤 昌平1藤原 広行1 (1.国立研究開発法人防災科学技術研究所)

キーワード:構造ヘルスモニタリング、センサークラウド 、携帯情報端末、i地震、E-Defense

i地震クラウドシステムは無償のiOSアプリ『i地震』とクラウドシステム『Geonavi / icomi』からなる防災センサークラウドシステムである。本システムのSHMへの適用可能性を評価するため、2015年11月から12月に実大三次元震動破壊実験施設(E-Defense)にて10層RC造構造物の加振実験を行った。
本実験は「スマホ等の加速度センサで中高層マンションの地震被災の判定が可能か?」という問いに答えるものであり、もし可能ならば被災時の迅速な安全確保等に資する安価で強力な防災ツールとなる。本稿では同システムによる地震被災度判定手法の詳細までは扱わず、診断前までのデータ取得と建物応答スペクトルによる状態推定までを述べる。
実験の方法:
本実験の手法は以下のとおりである。
・10層RC構造物(主実験名:現行耐震設計基準に基づく10層RC造骨組の崩壊メカニズムと普及型高耐震技術に関する実験 )の試験体10,6,5,1の各層壁面にi地震インストール済みiOS端末を2台ずつ設置、無線LAN経由でicomiにデータをアップロードした。
・加振は2015年11月25日・27日、12月9日・11日の計4日間行い、各加振の前後にはi地震設置階の同一箇所において微動計により常時微動を測定した。
・i地震の計測パラメータ設定は(トリガ設定30 gal、トリガ継続時間2s、プレトリガ20s、ポストトリガ60s )とした。
・端末内蔵のMEMS加速度センサにより取得されたデータの解析を行い、震度と応答スペクトル(加速度、速度、変位)をそれぞれ計算した。
実験の結果:
実験結果は以下のとおりである。
・i地震を用いても加振毎に入力地震動に相応の応答スペクトル固有周期の長周期化(1次モード固有周波数の低減)が見られた。
・上記は加振前後の常時微動による計測結果とも調和的な結果となり、固有振動数の推移も概ね一致した。
・一般モバイル回線によるデータアップロードのテストでは成功率は93%だった。
加速度センサを用いた構造ヘルスモニタリング(SHM)システムは高層ビルを中心に商用ベースの導入・運用が始まっているが、そのプライベートな性質上、得られた貴重なデータが防災研究用に共有され難い。また、ユーザからすれば信頼性を求めれば求めるほど難易度が上がりコストもかさむ、といった課題もある。これに対し本システムは環境さえあれば端末代のみで設置が可能な安価かつ簡便な計測法であるにもかかわらず、図の通り十分な精度での応答スペクトル周期による建物の状態推定が可能であることが示された(漸次強くなる加振においてJMA神戸波の25%までは卓越周期の変化が見られない一方で、構造物に不可逆なダメージをもたらした50%以降は明確な長周期化と塑性化がみられる)。本システムのSHMへの適用可能性を現段階で述べるとすれば、構造物の状態推定は即時に可能ではあるが、被災の判定を可能とするにはどの程度のスペクトルの変化をもって使用不可とするかの基準の問題があり、今後さらなる継続的な取り組みが必要である。
参考文献:
多世代利用住宅の維持管理・流通を支える構造ヘルスモニタリング技術の利用ガイドライン(案)、国土技術政策総合研究所(多世代利用総プロ 管理技術WG)、平成23年12月
携帯情報端末を利用した地震計の実大三次元震動破壊実験施設による振動実験、内藤ほか、JpGU2012
藤原広行・東宏樹・内藤昌平・先名重樹・中村洋光・はお憲生・吉田稔・結城昇・平山義治,2013,センサークラウド技術を用いた建物の地震応答情報共有システム,日本地震工学会論文集,第13巻、第5号,44-61.
謝辞:本実験にご協力いただいた兵庫耐震工学研究センターの皆様に深く感謝の意を表す。