14:15 〜 14:30
[SSS29-03] 海陸統合データによる震源決定のための簡易的な地震波速度構造
キーワード:DONET、S-net、沈み込み帯
はじめに:
近年、海洋研究開発機構によるDONETや、防災科学技術研究所によるS-netなど、沈み込み帯における地震・津波観測を目的とした多点高密度な海底観測網の構築が進められている。これらと陸上観測のデータを統合することで、海域における地震の検出率と震源決定精度の向上が期待される。一方震源決定において、沈み込み帯では深さ方向だけでなく水平方向にも顕著な構造の不均質があり、水平成層構造では不十分である。Nakano et al. (2015)では沈み込むプレート形状モデルを用いた3D地震波速度構造を用いているが、計算処理の負荷が大きく、特にリアルタイムやルーチン作業での震源決定には適さない。
本研究では、海陸統合データによる震源決定のために、海および陸の1D構造に基づく簡易的な2D構造を提案する。
簡易的な速度構造の提案:
本研究では、次の様な2D速度構造を提案する。すなわち、海および陸の1D構造がプレート境界を境に斜めの面(線)で接する構造である。これにより、陸域では陸の、海域では海の構造を反映したモデルとなる。観測点と震源が海陸にまたがる場合、波線がプレート境界と交わる所で構造が変化する。波線は水平方向には屈曲せず、観測点と震央を結ぶ直線とする。走時表を震源深さと震央距離、そして波線がプレート境界を通過する深さの三パラメータについて作成し、震源決定を行う。プレート境界面は気象庁による震源分布を基に設定した。この時プレートの屈曲に応じて、いくつかの地域に分けて境界面を設定した。
本手法の構造は2Dであるが、プレートの屈曲を考慮しているので疑似的に3D構造を模擬した震源決定となっている。また波線追跡は1Dで行う事ができるので実装が容易であるという特長がある。
震源決定:
上記で提案する2D構造、陸および海を仮定した1Dモデルを用いて震源決定を行い、比較を行った。この時、各観測点における走時残差の平均からサイト補正値を計算し、観測走時を補正して震源の再決定を行った。この作業を40回行い、走時残差RMSが最小となる場合について、震源の分布とサイト補正値の比較を行った。観測データとして、Nakano et al. (2015)で用いたDONET1および陸上におけるP, S読み取り値を用いた。
震央の分布はどのモデルでも大差ないが、震源深さの分布については大きな違いが見られた。Nakano et al. (2015)の3D構造による震源分布と比較すると、1D陸および海モデルではそれぞれ、速度構造が異なる海域および陸域での深さ分布が10km程度以上異なる。一方2Dモデルでは全体として3Dモデルと同様の深さ分布となった。
サイト補正値については、海域ではどのモデルにおいても、堆積盆地の厚さの違いに応じた補正量が求まった。陸域においては、1D海モデルでは特にS波の補正が大きく、1秒以上の補正を必要とした。1D陸および2Dモデルでは大きな補正は必要としなかった。
走時残差RMSについては、1D陸、1D海、2Dモデルがそれぞれ0.45s, 0.52s, 0.46sとなり、1D陸モデルは2Dモデルと同程度であった。
議論:
走時残差RMSからは、1D陸構造は海域においても2Dモデルと同程度に観測走時を説明していると考えられる。一方で震源深さは大きく異なる。この点について、次のような検討を行った。すなわち、海底(DONET1)観測点だけのデータを用い、海域下で起きた地震について同様の評価を行った。
震源分布は深さを含めほぼ同じ結果となった。RMS残差も0.25s程度とほぼ同じであった。一方サイト補正値については、1D海では海陸統合データの場合と同様であったのに対し、1D陸の場合はP波およびS波についてそれぞれ、ほぼ全点で正(観測走時から遅らせる)もしくは負(観測走時から早める)の補正となった。すなわち、全観測点で一様な補正をすることで、速度構造のミスマッチを補償している。
この結果から、海陸統合データを用いた場合にRMS残差が同程度となった理由として以下の原因が考えられる。走時のばらつきは同程度であるが、海域の震源については深さを過大にすることで、一様な遅い走時を補償している。この時陸域の走時への影響は小さいので、RMS残差への影響は小さい。
結論:
震源の、特に深さを正確に推定するためには実際の構造に近い速度構造を使う必要がある。海域の地震の深さは地震活動の議論や津波予測において重要であるため、特にリアルタイム解析においては今回提案する2Dモデルを用いた解析が有効であると考えられる。
近年、海洋研究開発機構によるDONETや、防災科学技術研究所によるS-netなど、沈み込み帯における地震・津波観測を目的とした多点高密度な海底観測網の構築が進められている。これらと陸上観測のデータを統合することで、海域における地震の検出率と震源決定精度の向上が期待される。一方震源決定において、沈み込み帯では深さ方向だけでなく水平方向にも顕著な構造の不均質があり、水平成層構造では不十分である。Nakano et al. (2015)では沈み込むプレート形状モデルを用いた3D地震波速度構造を用いているが、計算処理の負荷が大きく、特にリアルタイムやルーチン作業での震源決定には適さない。
本研究では、海陸統合データによる震源決定のために、海および陸の1D構造に基づく簡易的な2D構造を提案する。
簡易的な速度構造の提案:
本研究では、次の様な2D速度構造を提案する。すなわち、海および陸の1D構造がプレート境界を境に斜めの面(線)で接する構造である。これにより、陸域では陸の、海域では海の構造を反映したモデルとなる。観測点と震源が海陸にまたがる場合、波線がプレート境界と交わる所で構造が変化する。波線は水平方向には屈曲せず、観測点と震央を結ぶ直線とする。走時表を震源深さと震央距離、そして波線がプレート境界を通過する深さの三パラメータについて作成し、震源決定を行う。プレート境界面は気象庁による震源分布を基に設定した。この時プレートの屈曲に応じて、いくつかの地域に分けて境界面を設定した。
本手法の構造は2Dであるが、プレートの屈曲を考慮しているので疑似的に3D構造を模擬した震源決定となっている。また波線追跡は1Dで行う事ができるので実装が容易であるという特長がある。
震源決定:
上記で提案する2D構造、陸および海を仮定した1Dモデルを用いて震源決定を行い、比較を行った。この時、各観測点における走時残差の平均からサイト補正値を計算し、観測走時を補正して震源の再決定を行った。この作業を40回行い、走時残差RMSが最小となる場合について、震源の分布とサイト補正値の比較を行った。観測データとして、Nakano et al. (2015)で用いたDONET1および陸上におけるP, S読み取り値を用いた。
震央の分布はどのモデルでも大差ないが、震源深さの分布については大きな違いが見られた。Nakano et al. (2015)の3D構造による震源分布と比較すると、1D陸および海モデルではそれぞれ、速度構造が異なる海域および陸域での深さ分布が10km程度以上異なる。一方2Dモデルでは全体として3Dモデルと同様の深さ分布となった。
サイト補正値については、海域ではどのモデルにおいても、堆積盆地の厚さの違いに応じた補正量が求まった。陸域においては、1D海モデルでは特にS波の補正が大きく、1秒以上の補正を必要とした。1D陸および2Dモデルでは大きな補正は必要としなかった。
走時残差RMSについては、1D陸、1D海、2Dモデルがそれぞれ0.45s, 0.52s, 0.46sとなり、1D陸モデルは2Dモデルと同程度であった。
議論:
走時残差RMSからは、1D陸構造は海域においても2Dモデルと同程度に観測走時を説明していると考えられる。一方で震源深さは大きく異なる。この点について、次のような検討を行った。すなわち、海底(DONET1)観測点だけのデータを用い、海域下で起きた地震について同様の評価を行った。
震源分布は深さを含めほぼ同じ結果となった。RMS残差も0.25s程度とほぼ同じであった。一方サイト補正値については、1D海では海陸統合データの場合と同様であったのに対し、1D陸の場合はP波およびS波についてそれぞれ、ほぼ全点で正(観測走時から遅らせる)もしくは負(観測走時から早める)の補正となった。すなわち、全観測点で一様な補正をすることで、速度構造のミスマッチを補償している。
この結果から、海陸統合データを用いた場合にRMS残差が同程度となった理由として以下の原因が考えられる。走時のばらつきは同程度であるが、海域の震源については深さを過大にすることで、一様な遅い走時を補償している。この時陸域の走時への影響は小さいので、RMS残差への影響は小さい。
結論:
震源の、特に深さを正確に推定するためには実際の構造に近い速度構造を使う必要がある。海域の地震の深さは地震活動の議論や津波予測において重要であるため、特にリアルタイム解析においては今回提案する2Dモデルを用いた解析が有効であると考えられる。