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[SSS29-11] 沖合水圧記録の順解析による津波即時予測手法の開発
キーワード:津波、即時予測、日本海溝地震津波観測網(S-net)
近地地震に伴って発生する津波を即時に予測するために、その目的や用いる観測データの種類に応じて多種多様な手法が提案されている(例えば、平田、2005、月間地球;Tsushima and Ohta, 2014, JDR)。ここでの即時予測とは、地震が発生してから津波が沿岸に到達する前までの間に避難に必要な情報を導き出すこととする。我が国では、「量的津波予報」として陸域の観測網による地震観測から求められた震源情報(震源位置とマグニチュード)を用いた津波即時予測が1999年から運用されている(舘畑、1998、月刊海洋)。この手法は地震観測情報を用いて非常に高速に予測できるため、第1報として用いられている。また、全地球航法衛星システム(Global Navigation Satellite System; GNSS)によって求められた断層モデルを用いたより精度の高い津波の即時予測手法がBlewitt et al.(2009, Journal of Geodesy)によって提案されている。GNSSによる断層モデルはおおよそ数十秒から数分で求められるため、第1報をより確からしい情報で更新することが出来る。しかし、これらの手法はあくまでも地震動や地殻変動といった津波に対しては間接的な観測結果(indirect measurement)に基づいて津波の予測をしている。一方で、沖合のGPSブイや海底水圧計を用いて直接観測(direct measurement)された津波の情報を逆解析(inversion analysis)することで津波波源を推定(Tsushima et al., 2009, JGR)し、順計算により沿岸津波高や浸水を予測する手法(forward simulation approach;例えば、辰巳・富田、2013、土木学会論文集 B2(海岸工学);Koshimura et al., 2014, AGU;Oishi et al., 2015, GRL)やデータベースに登録された津波シナリオを選別する手法(database selection approach;例えば、Gusman et al., 2014, JGR)が提案されている。これらの手法は、逆解析(inversion analysis)によって地震の震源や津波波源を即時に推定した後に予測を行っている。しかし逆解析(inversion analysis)では、意図しない解を選択してしまった場合に予測と実際が大きく乖離してしまう可能性を排除することが出来ない。
そこで我々は、防災科研が日本海溝沿いに構築している大規模かつ稠密なリアルタイム沖合津波観測網である日本海溝海底地震津波観測網(S-net;金沢・他、2012、連合大会;植平・他、2015、地震学会)を用いて津波遡上の即時予測を逆解析(inversion analysis)することなしに行う手法の開発を行っている(青井・他、2015、連合大会)。さらに、我々の手法では地震観測情報(indirect measurement)を経由せず、沖合の海底水圧計で観測される津波の観測データ(direct measurement)のみから津波を即時に予測する。これにより、地震観測情報によって予測される震源位置やマグニチュードの推定精度に左右されることなく、かつ、逆解析で生じる可能性のある誤判定の影響を受けることなく津波の即時予測を行うことが可能となる。
逆解析(inversion analysis)を用いない手法としては、震源域近傍の海底水圧計記録(direct measurement)から観測波形の時間変化を求め、津波数値計算の入力条件に用いて順計算する手法(forward simulation approach)が提案されている(谷岡、2015、連合大会)。しかしこの手法では、順計算が必要であるため、津波の即時予測時に計算コストが高いというデメリットがある。一方で、Baba et al.(2014, Mar Geophys Res)は、津波観測記録(direct measurement)を用いて水圧変動の絶対値の平均値を求め、さらにモンテカルロシミュレーションによって求めた沖合と沿岸の津波高の相関関係により、沿岸の津波高を沖合の津波の規模から直接求める手法(forward analysis approach)を提案している。この手法では、観測データの平均値を求め、予め決定されている相関関係から沿岸の津波高を予測するため計算コストが低い。そこで我々は、第1報で用いられているもう一つの情報である津波の位置を津波観測記録(direct measurement)のみから順解析的に推定する手法(forward analysis approach)を提案する。本提案手法では、沖合の水圧変動の絶対値の最大値を重みとした重心位置(Tsunami Centroid Location;TCL)を求めることで、津波波源の位置を推定する。本手法の妥当性を検証するため、確率論的津波ハザード評価のために設定された日本海溝に沿いの津波波源(平田・他、2014、連合大会)のうち、一定以上の初期波高が生じている約1,000通りの津波波源から計算した沖合のS-net観測点における波形から計算したTCLと津波波源の位置(初期水位の絶対値を重みとした重心位置)の比較を行った。これにより、地震(津波)発生から数分程度で津波波源の位置を数十kmの範囲で推定可能であることが明らかとなった。
さらに我々は、沖合の津波観測記録(direct measurement)と予め計算してデータベースに登録した津波シナリオを直接比較して、一定の範囲内で一致しているシナリオを選別する手法(database selection approach)の開発も進めている(山本・他、2014、地震学会)。この手法では、観測波形Oと計算波形Cのそれぞれで規格化した2種類のVariance reduction(VRO=1-Σ(O-C)2/ΣO2とVRC=1-Σ(O-C)2/ΣC2)と相関係数Rを比較用の指標として用いている。この時、指標を計算する前にOとCは水圧変化の絶対値の最大値に変換している。観測値Oで正規化したVROはシナリオの値が観測値より大きい、すなわち予測値が過大評価である場合に対して感度が高く、反対にシナリオの値Cで正規化したVRCは予測値の過小評価に対して感度が高いため、2種類のVariance reductionを併用することにより津波の規模の予測精度を向上できることを明らかにした(鈴木・他、2015、連合大会;Yamaomto et al., 2015, AGU)。本発表では、我々の提案手法を用いて常時運用が可能な津波即時予測システムの設計について述べる。
本研究の一部は、総合科学技術・イノベーション会議のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「レジリエントな防災・減災機能の強化」(管理法人:JST)によって実施されました。ここに記して感謝申し上げます。
そこで我々は、防災科研が日本海溝沿いに構築している大規模かつ稠密なリアルタイム沖合津波観測網である日本海溝海底地震津波観測網(S-net;金沢・他、2012、連合大会;植平・他、2015、地震学会)を用いて津波遡上の即時予測を逆解析(inversion analysis)することなしに行う手法の開発を行っている(青井・他、2015、連合大会)。さらに、我々の手法では地震観測情報(indirect measurement)を経由せず、沖合の海底水圧計で観測される津波の観測データ(direct measurement)のみから津波を即時に予測する。これにより、地震観測情報によって予測される震源位置やマグニチュードの推定精度に左右されることなく、かつ、逆解析で生じる可能性のある誤判定の影響を受けることなく津波の即時予測を行うことが可能となる。
逆解析(inversion analysis)を用いない手法としては、震源域近傍の海底水圧計記録(direct measurement)から観測波形の時間変化を求め、津波数値計算の入力条件に用いて順計算する手法(forward simulation approach)が提案されている(谷岡、2015、連合大会)。しかしこの手法では、順計算が必要であるため、津波の即時予測時に計算コストが高いというデメリットがある。一方で、Baba et al.(2014, Mar Geophys Res)は、津波観測記録(direct measurement)を用いて水圧変動の絶対値の平均値を求め、さらにモンテカルロシミュレーションによって求めた沖合と沿岸の津波高の相関関係により、沿岸の津波高を沖合の津波の規模から直接求める手法(forward analysis approach)を提案している。この手法では、観測データの平均値を求め、予め決定されている相関関係から沿岸の津波高を予測するため計算コストが低い。そこで我々は、第1報で用いられているもう一つの情報である津波の位置を津波観測記録(direct measurement)のみから順解析的に推定する手法(forward analysis approach)を提案する。本提案手法では、沖合の水圧変動の絶対値の最大値を重みとした重心位置(Tsunami Centroid Location;TCL)を求めることで、津波波源の位置を推定する。本手法の妥当性を検証するため、確率論的津波ハザード評価のために設定された日本海溝に沿いの津波波源(平田・他、2014、連合大会)のうち、一定以上の初期波高が生じている約1,000通りの津波波源から計算した沖合のS-net観測点における波形から計算したTCLと津波波源の位置(初期水位の絶対値を重みとした重心位置)の比較を行った。これにより、地震(津波)発生から数分程度で津波波源の位置を数十kmの範囲で推定可能であることが明らかとなった。
さらに我々は、沖合の津波観測記録(direct measurement)と予め計算してデータベースに登録した津波シナリオを直接比較して、一定の範囲内で一致しているシナリオを選別する手法(database selection approach)の開発も進めている(山本・他、2014、地震学会)。この手法では、観測波形Oと計算波形Cのそれぞれで規格化した2種類のVariance reduction(VRO=1-Σ(O-C)2/ΣO2とVRC=1-Σ(O-C)2/ΣC2)と相関係数Rを比較用の指標として用いている。この時、指標を計算する前にOとCは水圧変化の絶対値の最大値に変換している。観測値Oで正規化したVROはシナリオの値が観測値より大きい、すなわち予測値が過大評価である場合に対して感度が高く、反対にシナリオの値Cで正規化したVRCは予測値の過小評価に対して感度が高いため、2種類のVariance reductionを併用することにより津波の規模の予測精度を向上できることを明らかにした(鈴木・他、2015、連合大会;Yamaomto et al., 2015, AGU)。本発表では、我々の提案手法を用いて常時運用が可能な津波即時予測システムの設計について述べる。
本研究の一部は、総合科学技術・イノベーション会議のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「レジリエントな防災・減災機能の強化」(管理法人:JST)によって実施されました。ここに記して感謝申し上げます。