16:45 〜 17:00
[SSS29-12] 海底圧力観測波形から直接津波数値計算を実施し即時予測を行う手法開発
-2011年東北地方太平洋沖地震により発生した津波への適応-
キーワード:津波即時予測、津波数値計算手法、2011年東北地方太平洋津波
2011年東北地方太平洋沖巨大地震による津波被害を受けて,津波予測の精度向上が緊急の課題になっている.防災科学技術研究所は日本海溝・千島海溝沿いに地震・津波観測網(S-NET)を現在設置している.このケーブルには約30km間隔に海底圧力計(津波計)と地震計が接続されている.さらに以前より南海トラフ沿いには海洋研究開発機構(JAMSTEC)により地震津波観測網(DONET・DONET2)が設置され,すでに運用されている。これらは海溝型巨大地震発生域の直上に配備された世界一密な海底津波観測網である.
一方,現在津波の即時予測は地震波観測により地震の震源・深さ・マグニチュードを推定することで実施されている.最近では海底津波計での観測波形から波源を推定することで津波予測を行う手法の開発も盛んに行われてきた.しかし、震源域直上近傍に30km間隔の海底圧力観測網があれば,地震の震源過程や波源を推定せずとも、直接観測波形データから津波数値計算を開始することができると考えられる,筆者は2015年地震学会(S17-05)にて、観測点間隔15分(約30km)に配置した海底圧力計により観測された波形の時間変化をデータとして用いることで,観測波形データから直接津波数値計算を実施する手法を開発し,数値実験によりその有効性を確かめた.
本研究では,上記で開発された手法を改善し,2011年東北地方太平洋沖巨大地震で発生した津波に対しても有効であることを確かめる.2011年東北地方太平洋沖巨大地震の波源モデルとして観測津波波形、GPSによる地殻変動データ、及び海底地殻変動データから推定されたすべり量分布と海底の変形(Gusman et al. 2012)を用いた.その波源モデルから海面変動を計算し、それを初期値として線形長波近似を用いて津波数値計算を実施した。計算格子間隔は1分とした。図左に地震発生後10分での津波波高分布(計算結果)を示す。この計算津波を実際の津波であると仮定し、海底圧力計による観測波形データから直接津波を計算する上記手法により津波数値計算を実施した。観測波形として波源モデルより計算された津波波形を実験的に用いた観測点の分布(観測点間隔約30km)は図右の赤点で示す。地震発生後40秒後、80秒後、120秒後の津波波高分布を上記の手法により推定し、それらの津波波高分布を1分格子間隔に内挿して津波数値計算を実施した。さて、波源モデルから計算された津波波高分布には海溝近傍で形成されたと考えられている大きな短波長成分が含まれている(図左参照)。これは2011年東北地方太平洋沖津波の特徴とも言われている。しかし、約30kmの観測点配置で観測された波形を用いるとこの短波長を表現できず、それらは誤差となって津波波高分布の推定全体に影響を及ぼす。また、この手法は波高の時間差をデータとして用いているため、長波長の波の解像度も少ない。そこで本研究では観測点での波形から得られた津波波高分布に空間フィルターをかけることで、ある程度安定した波高分布を得られるよう改善した。得られた津波波高分布から計算された地震発生後10分での津波波高分布を図右に示す。図右を図左と比較すると津波波高分布がおおよそうまく再現できていることが分かる。しかし、やはり図右の東に伝播していく短波長の波高は再現できていない。陸近くの同じ場所の津波波形を比較すると比較的良く再現できていることが分かった。本研究の手法は津波の観測波形を用いた津波即時予測に非常に有効であることが確かめられた。今後、津波遡上計算を実施し2011年東北地方太平洋沖津波による津波浸水高との比較を行い、津波浸水予測精度を確かめる。
文献
Gusman, A. R., Y. Tanioka, S. Sakai, and H. Tsushima (2012), Source model of the great 2011 Tohoku earthquake estimated from tsunami waveforms and crustal deformation data, Earth Planet. Sci. Lett., 341–344, 234–242
一方,現在津波の即時予測は地震波観測により地震の震源・深さ・マグニチュードを推定することで実施されている.最近では海底津波計での観測波形から波源を推定することで津波予測を行う手法の開発も盛んに行われてきた.しかし、震源域直上近傍に30km間隔の海底圧力観測網があれば,地震の震源過程や波源を推定せずとも、直接観測波形データから津波数値計算を開始することができると考えられる,筆者は2015年地震学会(S17-05)にて、観測点間隔15分(約30km)に配置した海底圧力計により観測された波形の時間変化をデータとして用いることで,観測波形データから直接津波数値計算を実施する手法を開発し,数値実験によりその有効性を確かめた.
本研究では,上記で開発された手法を改善し,2011年東北地方太平洋沖巨大地震で発生した津波に対しても有効であることを確かめる.2011年東北地方太平洋沖巨大地震の波源モデルとして観測津波波形、GPSによる地殻変動データ、及び海底地殻変動データから推定されたすべり量分布と海底の変形(Gusman et al. 2012)を用いた.その波源モデルから海面変動を計算し、それを初期値として線形長波近似を用いて津波数値計算を実施した。計算格子間隔は1分とした。図左に地震発生後10分での津波波高分布(計算結果)を示す。この計算津波を実際の津波であると仮定し、海底圧力計による観測波形データから直接津波を計算する上記手法により津波数値計算を実施した。観測波形として波源モデルより計算された津波波形を実験的に用いた観測点の分布(観測点間隔約30km)は図右の赤点で示す。地震発生後40秒後、80秒後、120秒後の津波波高分布を上記の手法により推定し、それらの津波波高分布を1分格子間隔に内挿して津波数値計算を実施した。さて、波源モデルから計算された津波波高分布には海溝近傍で形成されたと考えられている大きな短波長成分が含まれている(図左参照)。これは2011年東北地方太平洋沖津波の特徴とも言われている。しかし、約30kmの観測点配置で観測された波形を用いるとこの短波長を表現できず、それらは誤差となって津波波高分布の推定全体に影響を及ぼす。また、この手法は波高の時間差をデータとして用いているため、長波長の波の解像度も少ない。そこで本研究では観測点での波形から得られた津波波高分布に空間フィルターをかけることで、ある程度安定した波高分布を得られるよう改善した。得られた津波波高分布から計算された地震発生後10分での津波波高分布を図右に示す。図右を図左と比較すると津波波高分布がおおよそうまく再現できていることが分かる。しかし、やはり図右の東に伝播していく短波長の波高は再現できていない。陸近くの同じ場所の津波波形を比較すると比較的良く再現できていることが分かった。本研究の手法は津波の観測波形を用いた津波即時予測に非常に有効であることが確かめられた。今後、津波遡上計算を実施し2011年東北地方太平洋沖津波による津波浸水高との比較を行い、津波浸水予測精度を確かめる。
文献
Gusman, A. R., Y. Tanioka, S. Sakai, and H. Tsushima (2012), Source model of the great 2011 Tohoku earthquake estimated from tsunami waveforms and crustal deformation data, Earth Planet. Sci. Lett., 341–344, 234–242