日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS29] 地震動・地殻変動・火山データの即時把握・即時解析・即時予測

2016年5月22日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*干場 充之(気象研究所)、香川 敬生(鳥取大学大学院工学研究科)、川元 智司(国土交通省国土地理院)、中村 洋光(防災科学技術研究所)、小泉 岳司(気象庁)、林元 直樹(気象研究所地震津波研究部)

17:15 〜 18:30

[SSS29-P04] センサークラウド技術を用いた地震記録収集・解析システムの開発

*内藤 昌平1東 宏樹1はお 憲生1藤原 広行1 (1.防災科学技術研究所)

キーワード:センサー、クラウド、ネットワーク

K-NETやKiK-netに代表される日本全国を覆う高密度に設置された強震計により観測された各種指標および観測波形を各種回線網経由でセンター側に即時伝送し、データを収集・蓄積・活用するシステムは我が国で約20年にわたり運用され、現在も様々な技術開発が実施されている。このように充実した観測網を構築し、運用してきたことは先人による英知・努力の結集であり、それに際して多額の設備投資や多数の人材投入がなされてきた。
一方で我々はこれら国家的プロジェクトとは別のアプローチとして、近年発展が著しいセンシング技術やクラウドコンピューティング等のIT技術を用いることで、地震計としての性能は数桁劣るとしても、観測対象を一般住宅まで広げることで高密度な観測を可能にし、即時性の高い情報配信や構造物の早期損傷検知等に活用されることを目的とした「センサークラウド」の技術開発を進めてきた。
現在、我々がセンサーとして主に利用しているものはスマートフォン等に内蔵されるMEMS (Micro Electro Mechanical Systems) 加速度センサーであるが、それ以外にもGPS、ジャイロ等他の小型・汎用型センサーのほか、画像・映像等を含めた多種多様なセンシングを想定している。これら最新のセンシング技術を用いて構造物等を多点で観測することで、地震時の挙動を三次元的に把握することを可能にし、また取得したデータをクラウド環境でアーカイブし、地震被害予測につながるデータを蓄積することを目指している。
これまで我々は実大三次元震動破壊実験施設(E-Defense)で実施された各種構造物の震動実験への参加や、一般住宅及び公共施設内部に取り付けられた複数のセンサーによる地震観測実験を多数実施してきた。これらのセンサーが取得した実験記録はインターネットを経由して観測後数分程度でクラウドサーバーに配信される。また、データは震源情報と紐づいた形で観測点毎にアーカイブされ、利用者はWebブラウザを開き、マッピングされたアイコンをクリックすることでこれらのデータをダウンロードすることができる。また、三成分加速度波形の表示、積分、FFT、軌跡、計測震度演算等の簡易な解析はWebブラウザのみで可能である。
これらの機能を追加したことで、地震波形解析の経験がない一般的な市民でも自宅にセンサーを設置後、取得した地震記録を参照し、他の地震や別の場所で計測された地震記録と振幅、周期特性等の観点から比較することが可能になった。一方、例えば建物のオーナーにとって、これらの情報が公開され、土地や建物毎の揺れ方の違いが顕在化することは好ましくない場合がある。そこで、我々はユーザー・グループ別の階層構造を設けることでアカウント毎に閲覧制限を持たせ、管理外の情報については参照できないようにした。
以上のように我々はスマートフォン内蔵のMEMS加速度センサーが取得した地震記録をクラウド環境で収集・解析するシステムを試作したが、他にも汎用型センサーとして多種多様な端末が存在するため、これらのデータをシームレスに集約し、利活用するシステムの開発に尽力していきたい。また、近年大容量のデータから特定のパターンを抽出する機械学習等の情報処理技術が各種開発されており、これらの手法を取得したデータに適用することも検討したい。
最後に、開発したシステムを社会実装するには我々研究開発者の力だけでは不十分であり、利活用側の視点が必要となる。従って、今後は行政、企業、市民を含めた実験パートナーをいかに確保していくかということが極めて重要である。
謝辞:本研究は防災科研で毎月開催されている「センサークラウド研究会」において過去5年以上様々なテーマで検討されてきた議論が元になっている。この研究会の参加者および実験に協力いただいた全ての方々に謝意を表します。