日本地球惑星科学連合2016年大会

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セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS29] 地震動・地殻変動・火山データの即時把握・即時解析・即時予測

2016年5月22日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*干場 充之(気象研究所)、香川 敬生(鳥取大学大学院工学研究科)、川元 智司(国土交通省国土地理院)、中村 洋光(防災科学技術研究所)、小泉 岳司(気象庁)、林元 直樹(気象研究所地震津波研究部)

17:15 〜 18:30

[SSS29-P10] 津波即時予測のための沖合水圧時系列記録マッチング手法の検討

*鈴木 亘1青井 真1平田 賢治1山本 直孝1中村 洋光1鈴木 進吾1武田 哲也1松原 誠1功刀 卓1 (1.防災科学技術研究所)

キーワード:津波即時予測、津波遡上、シナリオバンク、S-net

防災科学技術研究所では、現在整備を進めている日本海溝海底地震津波観測網(S-net;金沢・他、2012、連合大会;植平・他、2015、地震学会)により沖合で観測される海底水圧データを活用して、千葉県九十九里・外房地域を対象に沿岸での津波高さのみならず陸域への津波遡上までを迅速に予測するシステムの開発を行っている(青井・他、2015、連合大会)。この津波遡上即時予測システムでは非線型現象である津波遡上を広い地域に亘って予測するためにデータベース検索型の手法を採用している。まず、波源断層モデルとそれに基づく津波シミュレーションにより計算されたS-net観測点での沖合水圧変動、沿岸での津波高さと到達時間、対象地域での浸水深分布と到達時間などの一連の結果を一つの津波シナリオとして、津波シナリオバンクを予め構築する(鈴木・他、2015、地震学会)。この津波シナリオバンクからS-netで実際に観測された沖合水圧データを説明するシナリオ(群)を高速かつ適切に検索し、選択されたシナリオ(群)の沿岸津波高さ分布や対象地域での浸水深分布から津波予測情報を生成することにより、迅速かつ精度の高い予測の実現を目指している。現在シナリオの選択基準としては、ある時刻での沖合水圧変動の空間分布を相関係数および2種類のVariance Reductionで評価する手法(山本・他、2016、本大会)の実装を進めている。開発システムの堅牢性を強化するためには、多重のアプローチにより津波予測情報、津波の危険性に関する情報を生成できることが望ましい。そのため本研究では、より直接的に津波の周期に関する情報を評価できると期待される、各観測点における水圧変動時系列のマッチングを行うことで、適切なシナリオを選択する手法についての検討を行う。
水圧変動時系列のマッチングに用いる指標として、差の絶対値をとるL1ノルムおよび最小二乗法的な評価となるL2ノルムについて検討した。津波波形のL2ノルムを用いたマッチングは、Gusman et al.(2014、JGR)で提案されたフォワード計算とデータベース検索を組み合わせることによる即時遡上予測計算でも用いられている。2011年東北地方太平洋沖地震を対象に、内閣府による「南海トラフの巨大地震モデル検討会」にて検討された震源モデルのすべり分布から計算した沖合津波データを模擬観測データに用いて検討を行った。津波シナリオバンクとして、確率論的津波ハザード評価において検討された日本海溝沿いの約1,800通りの断層モデル群(平田・他、2014、連合大会)に基づく計算結果を蓄積した。S-net全150点について、地震発生時を基点として最大10分間までの水圧変動時系列の模擬観測データと計算沖合津波データとのノルムの和を小さくするシナリオ群は、L1ノルム、L2ノルムの両方とも、評価に用いたS-net観測点での水圧変動の振幅や結果としての沿岸での最大水位上昇量分布についてやや過小評価の傾向が見られた。特に震源でのすべりが局所的に非常に大きな領域の直上に位置する観測点での水圧変動の振幅を充分に説明できていなかった。また、L2ノルム最小の評価では、地震発生から1分の時点において比較的広い範囲に津波をもたらすシナリオが選別されたが、L1ノルムを最小とするシナリオは6分後の時点においても沿岸での最大水位上昇量分布の振幅が大きい領域の広がりは充分ではなく、津波発生初期の段階ではL1ノルムの評価は過小評価である傾向が見られた。同様の検討を異なる領域、規模の地震で発生した津波に対して実施し、L1、L2ノルムによる評価の共通的な特徴を把握することにより、適切な時系列マッチング手法の構築を進めていく予定である。
謝辞:本研究の一部は、総合科学技術・イノベーション会議のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「レジリエントな防災・減災機能の強化」(管理法人:JST)によって実施された。