日本地球惑星科学連合2016年大会

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セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS30] 地震活動

2016年5月25日(水) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*林 能成(関西大学社会安全学部)

17:15 〜 18:30

[SSS30-P14] 2011年東北地方太平洋沖地震前の3ヶ月間に観測された発生までの3段階の過程

*末 芳樹1 (1.なし)

キーワード:東北地方太平洋沖地震、F-net、GNSS

1. はじめに
2011年東北地方太平洋沖地震では種々の事象が観測された。広帯域地震観測網F-netでは欠測観測点の増加があった。即ち、2010年12月22日から2011年1月18日にかけて1度目の欠測の増加があり、一部観測点の正常状態復帰の後、2月16日から3月2日にかけて2度目の増加があった。再度の一部正常復帰の後、本震となった[1]。さて近年、GNSSに代表される計測器の精度向上が著しく有用な情報を与える。そこで前述のF-netの状況に関し、地震活動およびGNSS等の計測結果を加えて地殻の挙動を調べた。
2. 解析
解析の結果と観測された事象を示す。
2. 1 解析結果のまとめ
地震発生までの凡そ3か月間に、地殻の状態は次の3段階の過程からなっていたと思われる。
<第1段階>
陸側プレートの広域でひずみの蓄積が限界に到達した。この結果、陸側プレートは弾性を失い広域で動きを示した。
<第2段階>
海側プレートである太平洋プレートは休みなく運動し続けるので、これによる応力の増大を吸収しきれずに陸側プレートと太平洋プレートの境界に部分的な破壊箇所が生まれた。
<第3段階>
この部分的な破壊箇所が広域の破壊(本震)に発展した。
具体的には、各段階で次の挙動を示したと考えられる。
2.2 第1段階
期間: 2010年12月下旬~2011年1月下旬
解析: 東北・中部地方でひずみの蓄積が限界に到達した。この時、日本列島の広い領域で振動や滑りが発生した。そして、永年に亘る太平洋プレートの西進が停止した。この振動は、単位が“日にち”となるような長周期であり、広域の滑りはクリープ様のものと想像する。これらは震源域から遠い領域で発生しており、この段階では震源域は形成されていなかったと推測される。
観測事象:
2010年12月 GNSS[2,3]、F-net[1]、岩手県沿岸部の地下水[4]などで異常値が観測され始めた。12月22日に父島近海でM7.4のプレート内地震が発生した。
2011年1月 F-netの欠測は12月より増加し始めて2か所となったが、1月3日-18日に3か所、14日には最大の4か所に増えた[1]。これらは、三陸―北海道南部および能登―伊豆の2グループからなる。これは、東北沖に於ける太平洋プレートと陸側プレートの押し合いの結果、三陸から北海道南部の陸部、および構造的に繋がる伊豆―小笠原の火山フロントでF-netの稼働に影響を与える振動が発生したためと推測する。また、箱根直下で低周波地震が多数発生した[5]。
1月5日 GNSSによる観測では日本列島全域が南方および上方へ、1月23日には日本列島の広い地域が西方および下方へ動いた[2]。
1月27日 GNSSの観測によると太平洋プレートの西進が停止した[3]。
この段階および次の段階と重なる1月19日より2月14日まで九州南部にある新燃岳が活動し、1月27日には52年ぶりの爆発的噴火をした。
2.3 第2段階
期間: 2月中旬~3月初旬
解析: 前の段階で陸側プレートは弾性体から剛体へと変化した。そして、それまでの太平洋プレートに対する従属的で柔軟な動きから一変して太平洋プレートに対する反発力を増大させた。この反発力は両プレートの境界に於いて剪断力を増加させ、結果として構造的に最も弱い個所であった本震の破壊開始点の近くに割れが形成された。これに伴い近辺で振動が発生した。
観測事象:
2月13日~2月末日 本震の破壊開始点付近でM5以上の地震がまとまって発生した。
2月16日より3月2日 F-netの欠測増加があり、最大4か所の欠測となった。これらは、三陸沿岸~北海道南部および岐阜県(1か所)からなっている[1]。
2.4 第3段階
期間: 本震数日前~地震発生(3月11日)
解析: 第2段階で形成された割れの拡大が起き、陸側プレートの滑りが始まり本震に至った。
観測事象:
3月8日 GNSSによる観測では東北地方の東方および下方への動きが見られた[2]。
3月9日 三陸沖地震M7.3が発生し、その後もM6級の地震が続いた。
3月11日 東北地方太平洋沖地震M9.0が発生した。
3.文献
[1] 末 芳樹, 2013, JpGU, SSS30, P01.
[2] CH Chen, et al., 2014, Journal of Asian Earth Sciences, 80, 165-171.
[3] 武田文秀, 2011, 地震学会講演予稿集, 2011年度秋季大会, A32-11.
[4] Y. Orihara et al., 2014, Nature, srep06907.
[5] 石川有三, 2015, http://www.ab.cyberhome.ne.jp/~catfish/event/2015hakone.html.