日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS31] 活断層と古地震

2016年5月23日(月) 13:45 〜 15:15 国際会議室 (2F)

コンビーナ:*小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、近藤 久雄(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、安江 健一(日本原子力研究開発機構)、後藤 秀昭(広島大学大学院文学研究科)、座長:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、松多 信尚(岡山大学大学院教育学研究科)

14:30 〜 14:45

[SSS31-16] 糸魚川—静岡構造線活断層系神城断層2014年地震断層のトレンチ調査報告

*遠田 晋次1石村 大輔1奥村 晃史2丹羽 雄一1森 良樹3小俣 雅志3山崎 誠4 (1.東北大学災害科学国際研究所、2.広島大学大学院文学研究科、3.株式会社パスコ、4.山崎技術士事務所)

キーワード:長野県北部の地震、活断層、古地震、地表地震断層

2014年11月22日長野県北部の地震(Mjma 6.7, Mw 6.2)にともなって,白馬村に分布する神城断層の約9 kmの区間で地表地震断層が現れた.この地震は,地震調査研究推進本部が評価してきた主要活断層ではじめて発生した大地震である.発生前に地震規模や発生確率が公表されていたことから,地震長期評価を検証する上できわめて重要な地震断層となった.ただし,糸静線の他の断層に比べて古地震データが不足していた事実は否めず,今後の活断層評価の高度化のために,地震後とはいえ早急な古地震データ取得がのぞまれている.そのような背景のもと,著者らは,2015年10月・11月に地震断層沿いの2個所(大出地点,飯田地点)でトレンチ調査を実施した.その結果,両地点とも2014年に先行する断層活動の痕跡が400年前以降の地層に見いだされた.地震被害記録などから,神城断層の1回前の活動が西暦1714年の小谷地震である可能性が高くなった.また,不完全ながら両地点での活動履歴から,この300年という短い間隔は活動間隔の顕著なばらつきの1つか,もしくは,神城断層の最大規模地震の活動間隔ではなく(ごく最近の地層記録保存の良好な)一回り小さな地震の間隔を見ている可能性がある.以下に,各地点での調査結果を記す.
大出地点:大出地点は地震断層北部にあたり,松川周辺に発達した扇状地性段丘面の東側末端に位置する.姫川に合流する低下側が隆起する逆向き低断層崖を示す.鈴木ほか(2010)の地形区分のL3面にあたり,4.0-4.5mの累積上下変位が推定されていた.2014年地震時には,約10m幅の撓曲変形を含め80cmの上下変位が推定されている(石村ほか,本大会要旨).この撓曲崖を横切るように掘削したトレンチには,下盤側に堆積した1000年前以降の細粒堆積物(砂層・ピート・腐植土)に上盤側の段丘構成礫層が衝上する状況が露出した.トレンチ壁面最下部には東に45°程度で傾く断層も露出し,引きずりにともなう上盤側の礫の回転(直立・反転)も観察された.約1500年前の段丘礫層離水以降,1)下盤の小凹地の形成,2)砂層中のcolluvial wedge形成(崩落堆積物),3)断層による下盤細粒堆積層の切断と直後のcolluvial wedgeの形成,4)2104年地震の傾動,の4回の地震イベントを推定した.ただし,2014年のような数10cm程度の小規模な変形を見落としている可能性がある.2014年に先行するイベントは400年前以降に発生し,断層面を境に1m以上の上下変位が生じている.被害記録から推定される小谷地震の規模は長野県北部地震とほぼ同じであるが,大出地点に限ると,断層変位量は2014年よりも大きかったと考えられる.
飯田地点:飯田地点は地震断層南端部付近で,現行の姫川右岸の最低位段丘面に位置する(JR神城駅の東北東約700mの地点).神城盆地東縁が大きく東に湾曲する部分にあたり,地震断層も北から南に向かって走向が北西−南東に急変する.トレンチ地点では,地震断層はほぼ東西走向を示し,北側隆起の30 cmの上下変位だけではなく同等程度の左横ずれを伴う.LiDAR差分解析により,南北走向の地震断層はトレンチ地点のすぐ南から堀之内にかけて再度出現しており,トレンチ地点は2つの逆断層をつなぐ胴切り断層(transverse fault, tear fault)と解釈される.掘削した断層を横切る2条のトレンチ壁面には,埋め戻し土を除くと1)倒木を含む旧耕作土・旧表土,2)姫川起源の砂礫混じり腐植土,3)白馬五竜側からの扇状地礫層・砂層,4)大きく変形した古神城湖起源の湖成堆積物が露出した.過去5300年間で少なくとも5回の断層活動が認められた(2014年を含む).特に,江戸時代の皿片が含まれている砂礫層が1回前の地震イベントで切られていることがわかった.ただし,3)と4)の境界の明瞭な傾斜不整合など,環境変遷にともなう侵食により下盤側にしか断層活動記録が残っていない.また,すべての地震で胴切り断層が動くとも限らず,地震記録の不完全さは否定できない.
本調査研究は,文部科学省委託業務「糸魚川—静岡構造線断層帯における重点的な調査観測(追加調査)」の一環で行われたものである.