[S-SS31] 活断層と古地震

[SSS31-P01] 糸魚川-静岡構造線活断層系南部セグメント周辺の変動地形

*佐野 実可子¹、林 愛明¹ (1.京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻地球物理学教室)

キーワード：糸魚川-静岡構造線活断層系、活断層、変動地形

内陸活断層周辺域の変動地形は繰り返し発生した大地震の断層累積変位により形成されるものである．従って，繰り返し発生する活断層の運動により発達する構造および形成過程を明らかにするためには，活断層の詳細分布形態や変動地形の詳細な情報が必要となる．本研究では，最近の活動性の高い糸魚川-静岡構造線活断層系南部セグメントを構成する白州断層，下円井断層および市ノ瀬断層の周辺域をターゲットとして，変動地形と活断層構造との関係について研究を行った．活断層の判読と変動地形の解析は，5mメッシュの数値標高(DEM)データから作成した地形透視マップおよび空中写真を使用した．また，その判読と解析結果を基に野外調査を行い，活断層と活褶曲の分布図を作成した．
地形判読および現地調査の結果，１）活断層トレースは先行研究に報告された断層トレースよりも遥かに複雑で，湾曲した形状を示すこと，２）断層トレースは地形勾配が低いほど等高線と近い形で湾曲すること，などが明らかになった．
また，本研究地域で確認される変動地形を，その形状によって3つに分類することができた．一つ目は比高が高く，上盤側への傾斜の傾きが見られない撓曲崖，二つ目は断層付近で大きく撓曲し，上盤側（西側）への逆傾斜の地形面が見られる撓曲崖，三つ目は低い比高の褶曲崖とその上盤側に波長の長い撓曲を持つ撓曲崖である．これらの撓曲崖の延長上に存在する断層露頭では，それぞれ傾斜50°前後，35°以下，水平の断層が見られる。これより，一つ目の撓曲崖は急傾斜の断層によって形成され，二つ目の撓曲崖は，低角の逆断層運動によって変位した地層が地表付近で傾斜褶曲していることが推測される．また，三つ目の撓曲崖は，地下浅部に存在する水平な断層によって鉛直変位の少ない，上盤が水平方向に変位するような構造が発達していると考えられる．
以上の三つの変動地形の特性より，各撓曲崖の翼の長さLを比高Hで割った値(Fsi) (Fault scarp indexと定義する)を出したところ，断層の傾斜が高い地域ではFsi値が小さく，傾斜が低い地域ではFsi大きい傾向が見られる．Fsi値の分布より，白州断層に存在する急傾斜の断層は南北走向、低角の断層は北北西-南南東走向であることが予想される．また，市ノ瀬台地前縁部中央付近において，Fsi値が大きい傾向が見られる．これより，台地前縁部の断層は，台地中央部の地表付近で傾斜が低くなるような撓んだ形状であると考えられる．
以上より，断層の傾斜が低いほど形成される比高は低く，撓曲の翼の長さは長くなり， Fsi値は大きくなる。従って，Fsi値より，撓曲崖の形状から相対的な断層の傾斜を推定することが可能である．本研究により，変動地形の特徴から活断層の性状を推定することができ，活断層の活動性評価に重要な情報を提供できることが示唆される．