日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS31] 活断層と古地震

2016年5月23日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、近藤 久雄(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、安江 健一(日本原子力研究開発機構)、後藤 秀昭(広島大学大学院文学研究科)

17:15 〜 18:30

[SSS31-P20] 全有機炭素の放射性炭素年代連続測定による海底イベント堆積物認定の試み

*大村 亜希子1宮入 陽介2平林 頌子3横山 祐典2芦 寿一郎2 (1.学振特別研究員,東京大学、2.東京大学大気海洋研究所、3.東京大学大学院理学系研究科)

キーワード:半遠洋性泥、全有機炭素、放射性炭素年代、地震

半遠洋性泥は沿岸堆積物と遠洋性堆積物の中間的な堆積物であり,古海洋環境の解析に利用される一方で,その堆積プロセスは海洋表層からの粒子の沈降だけではなく斜面崩壊による再移動堆積物を含む場合があるなど多様である.このような半遠洋性泥の堆積年代は浮遊性有孔虫化石を用いた放射性炭素年代測定により決められることが多いが,海底環境によっては年代測定に十分な量の浮遊性有孔虫化石が産出しない場合もある.一方,堆積物中の全有機炭素(TOC)は様々な起源の有機物に由来し,放射性炭素年代測定に用いた場合に測定値が堆積年代を示さない(確度が低い)可能性があるため,堆積年代の検討にはあまり利用されてこなかった.しかしながらTOC放射性炭素年代は,少量の試料量で分析が可能なため,高い分解能で年代測定が可能である.浮遊性有孔虫の放射性炭素年代等の確度の高い年代測定法と組み合わせて利用することにより,高精度高分解能の年代軸の構築ができることが期待される.
本研究で対象とした南海トラフ沿い前弧海盆も浮遊性有孔虫化石の産出が乏しいため堆積年代の推定が難しいが,過去の海底地震履歴解析のために解像度の高い年代値を得ることが期待されている海域でもある.そこで本研究では,産出する微量の浮遊性有孔虫化石を用いた微量放射性炭素年代測定と,堆積物層厚0.5〜1cm間隔で連続サンプリングしたTOCを用いた高分解能放射性炭素年代を組み合わせることにより,高い精度で堆積年代を推定することを目指した.
放射性炭素年代測定には東京大学大気海洋研究所に設置されているシングルステージ型加速器質量分析計を使用した.また,国立科学博物館に設置されている元素分析計および質量分析計を使用して全有機炭素量と安定炭素同位体比を測定し,堆積物の起源を推定した.
解析を行なった堆積物コアは,熊野トラフ北西部の水深約2000mの深海底からマルチプルコアラーを用いて採取された.海底面から海底下約40cmの堆積物は全体に生物擾乱をうけたオリーブ黒色の粘土質シルトである.X線CT画像では明るく示される比較的粗粒なシルトを含むとみられる堆積層が認められる.
TOC放射性年代測定の結果,深度40cmまでの堆積物には,下位層よりも測定誤差以上に古い年代値を示す層準が数層認められた.これらは古い有機物に由来する炭素が海底堆積物の再移動により混入したイベント層準と考えられるため,堆積年代の推定からは除外した.有機炭素の年代値は同じ層準の微量の浮遊性有孔虫化石による放射性炭素年代値よりも約900〜1200年古いことがわかった.これらの値を用いて補正すると,40cmの堆積物は現在から過去約600年間に形成されたと見積もられた.
安定炭素同位体比測定の結果によると,堆積年代の推定から除外したイベント層準は海洋プランクトン起源の有機炭素を多く含み上下の堆積物とほぼ同じ特徴を持つことから,近傍の海底斜面が崩壊し形成されたと考えられる.上部の一層準のみ,若干の陸源有機炭素の増加が認められることから,浅い斜面の崩壊あるいは陸上の洪水起源と考えられる.TOCと微量の浮遊性有孔虫化石による年代値を用いてこれらのイベントの形成年代を見積もると,歴史記録にある15世紀以降の海底地震と洪水に対応する可能性がある.
これまでの結果から,TOC放射性炭素年代値はその堆積プロセスを反映しているため,一見均質な半遠洋性泥に含まれるイベント層の認定に利用できると考えられる.さらに浮遊性有孔虫による放射性年代値といった他の方法によって得られた年代値を用いて適切に補正することにより,そのイベントの形成年代を決定することも可能になると期待される.