日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS32] 地殻変動

2016年5月23日(月) 13:45 〜 15:15 A05 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*村瀬 雅之(日本大学文理学部地球科学科)、道家 涼介(神奈川県温泉地学研究所)、座長:山崎 雅(産業技術総合研究所)、道家 涼介(神奈川県温泉地学研究所)

14:30 〜 14:45

[SSS32-04] GPS連続観測および繰り返し観測によって捉えられたアゾレス諸島プレート三重点のテクトニクスと火山性地殻変動

*岡田 純1アラウージョ ジョアン2ボンフォーテ アレクサンドロ3グゥジェルミーノ フランチェスコ3ロレンツォ マリア2フェレイラ テレーザ2 (1.気象庁気象研究所、2.アゾレス地震火山監視情報センター(CIVISA)、3.イタリア国立地球物理学火山学研究所(INGV)カターニア支部)

キーワード:地殻変動、GPS、GNSS、プレートテクトニクス、アゾレス、火山測地学

ポルトガルのアゾレス諸島は、ユーラシア、ヌビア、そして北米プレートが互いに接するプレートの3重点に位置し、地震・火山活動が活発な地域である(Gaspar et al. 2015)。北米プレートと他の2つのプレートの境界線(いわゆる大西洋中央海嶺の部分)は明確に定義されている一方、ユーラシアとヌビアプレートの境界線は不明瞭であり、よくわかっていない部分が多い。地質・地球物理・地球化学に基づく先行研究は、このプレート境界部が、diffuse(ひずみが空間的に分散しているということ)かつ複雑なプロセスで形成されてきたことを示している。近年のGPSなどによる宇宙測地技術の応用は、こうしたdiffuseなプレート境界に対する理解(例えば、Fernandes et al. 2004, 2006; Trota 2009; Marques et al. 2013)やプレート拡大域における火山活動の検出(例えばFogo火山‐Trota 2009)に重要な貢献をもたらしている。しかしながら、広域テクトニクス場とそこに発生する火山活動との関係性やその時空間プロセスの詳細については十分な研究がなされていない。アゾレス諸島のサンミゲル島では、近年データの蓄積が進んでおり、そのような一歩踏み込んだ研究が可能となってきた。
本研究では、サンミゲル島に展開されているGPS連続観測点9点(2008~2013年)と繰り返し観測のデータを解析ソフトウェアBernese5.0 (Dach et al. 2007)を用いて解析した。解析解を国際測地系ITRF2005に準拠させるため、アゾレス諸島外部の複数のIGS点基準点データを同時に解析している。プレートの角速度(DeMets et al. 2010)との比較から、2011年から2012年にかけて群発地震の発生したFogo火山の東側で、ひずみ集中帯(0.28 ppm/yrの伸長場)の存在が明らかとなった。その領域では、ユーラシア‐ヌビアプレート間に予測されるひずみ速度の約半分が解消されていることがわかった。
プレート運動によるトレンドを除去したGPS時系列の解析により、Fogo火山周辺では、2011-2012年の群発地震の発生に関係したタイプの異なる2種類の地殻変動があることがわかった。一つは、Fogo山頂部を中心とする「全山規模の変動」であり、高周波の構造性地震の発生に対応している。もう一つは、Fogoの東側での「膨張―収縮反転」である。後者は、2012年8月のやや低周波の地震活動の急激な減衰に対応している。1965-66年の松代地震やイタリアのカンピ・フレグレイの火山危機(1969–72年と1982–85年)との地殻変動の強い類似性は、Fogo火山の熱水系の存在を示唆しているかもしれない。Fogoの2011-2012年の火山活動については、次のような解釈が可能である:(1)全山規模の圧力源の増圧によって励起された地殻流体の流れが、選択的に広域ひずみの伸長場(岩石中のクラックや割れ目の多い場所)へ促進された。(2)Fogoの東側における高圧間隙水のクラックへの流入は、地殻浅部を局所的に膨張させる一方で、岩石の破壊強度を低下させるため、やや低周波の地震を発生させた。(3)全山規模の膨張が収まり、間隙水圧が低下すると、間隙水のクラックからの流出に伴って岩石の体積は収縮し、地震活動は終息する(dilatancy recovery)。山頂圧力源について、遺伝的アルゴリズムを用いたインバージョン解析を行った結果、アゾレス諸島の広域応力場ならびにFogo火山周辺で卓越する応力場の特性と整合的なモデルが得られている。