日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS32] 地殻変動

2016年5月24日(火) 09:00 〜 10:30 A05 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*村瀬 雅之(日本大学文理学部地球科学科)、道家 涼介(神奈川県温泉地学研究所)、座長:水藤 尚(国土交通省国土地理院)、太田 雄策(東北大学大学院理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センター)

10:00 〜 10:15

[SSS32-17] GPSデータに基づく2013年以来の東海地方スロースリップイベント

*坂上 啓1福田 淳一1加藤 照之1 (1.東京大学地震研究所)

時空間的に密な測地観測網が整備されて以来,スロースリップイベント(SSE)と呼ばれる海洋プレートの沈み込み帯で発生する非地震性の非常にゆっくりとした非定常なすべりが観測されるようになった.日本列島ではGPSのデータを用いて1997年に豊後水道で発生したSSEが発見されて以来,房総半島,東海地方,琉球海溝等で観測されるようになった.また,西南日本では防災科学技術研究所の高感度地震観測網に設置された傾斜計を用いて継続時間の非常に短い短期的SSEが検出された.これらの短期的SSEは非火山性の微動や深部低周波微動を伴う.
東海地方では前回2000年から2005年にかけて長期的なSSEが発生しており,これまでに発見されたSSEの中ですべりの継続時間が最も長い.2013年以降,前回の長期SSEが発生した場所でSSEが発生したと報告があった(小沢・矢来,地震学会,2014).
本研究ではGPSのデータを用いて2013年以降の東海地方で発生したSSEの時間発展を推定する解析を行った.解析期間は2008年1月1日から2015年4月30日の期間で,東海地方にあるGEONETの226点のGPS観測点のデータに対し,GIPSY OASIS Ⅱを用いて日々の座標値を推定した.推定された日々の座標値の時系列データには,2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(Mw9.0)の余効変動の影響が見られる.従って,東北地方太平洋沖地震の前までのデータを用いて定常トレンドと季節成分をフィッティングし,求められた定常トレンドを2015年4月30日まで外挿,除去した.
次に,東北地方太平洋沖地震の余効変動の影響を取り除くために,余効すべりや粘弾性緩和といった物理的なモデルの構築は行わず,指数関数と対数関数の和の時系列が余効変動の時系列に近似できると仮定し,時系列から除去した.そして除去後の時系列に対しインバージョン解析を行い,フィリピン海プレート上でのすべりを推定した.
すべりの時間発展の解析にはFukuda et al. (2008)によって開発された改良型のNetwork Inversion Filter (NIF)を用いた解析を行った.この手法は,Segall and Mathews (1997) によって導入されたNetwork Inversion Filter (NIF)と呼ばれる時間依存インバージョンの手法を改良したものである.NIFではハイパーパラメータが定数であることから,推定されるすべりに過度なスムージングがかかるという問題点があったが,改良型のNIFではこの問題点を改善したことによりすべりの時空間発展をより高い解像度で推定することが可能となった.
推定結果より2013年の中頃から浜名湖の西で長期的なSSEが発生し,またこの非常にゆっくりとした長期的SSEが発生している期間に6個の短期的SSEが推定された.本研究では,検出された長期的SSEと短期的SSEについて詳細に調べた.
まず,2013年10月~12月と2014年8月~10月に静岡県北西部で2~3か月継続する短期的SSEが推定され,この期間に深部低周波微動が観測された.また,2014年1月初めから2月にかけて伊勢湾周辺部で短期的SSEが推定され,すべりの加速とともに深部低周波微動が観測された.他にも2015年の4月にも同様に深部低周波微動が伴った速いすべりが推定された.これに加えて,この2つよりもすべり速度は遅いが,伊勢湾周辺部で継続時間が1週間程度の短期SSEが2回発生したと推定された.
今回検出された長期SSEは,2000年からはじまったSSEとほとんど同じかやや南に推定され,2013年1月1日からの最大積算すべり量は約6cmであった.この長期SSEは2015年4月30日時点で継続中であると考えられ,今後も継続的な調査が必要であると考えられる.