日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS32] 地殻変動

2016年5月23日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*村瀬 雅之(日本大学文理学部地球科学科)、道家 涼介(神奈川県温泉地学研究所)

17:15 〜 18:30

[SSS32-P09] アラスカ南東部における現代氷河の融解による隆起速度の算出

*長縄 和洋1風間 卓仁1福田 洋一1 (1.京都大学理学研究科)

キーワード:荷重変形、氷床融解、重力変化、地殻隆起、アラスカ

アラスカ等の氷河地域では氷河融解に伴う地殻隆起現象が観測されており、この隆起は弾性変形によるものと、粘弾性変形によるものの二つの現象が合わさった形で観測されている。粘弾性変形による隆起現象はPost glacial rebound (PGR)、弾性変形による隆起現象はPresent-day ice melting (PDIM)と呼ばれ、これらを分離することによって、マントルの粘性率など地学的に重要なパラメータを詳しく知ることができる。
本研究の対象地域であるアラスカ南東部はGPS等の測地データが豊富にあり、先行研究も幾つか存在する地域である。その一つであるSun et al. (2010)では2006年~2008年まで重力観測を行い、重力変化・地表隆起速度の観測データからPDIMによる隆起速度(dΔ/dt)を見積もった。一方で、彼らは、PDIMモデル(氷河融解速度の空間分布を示すデータ)の数値積分からもdΔ/dtを求めているが、これは観測から求めたものと一致しなかった。この原因として、彼らのモデル計算が簡単化されていたことと、使用したPDIMモデル自身が現実の氷河融解分布に合致していない可能性などが考えられる。
そこで本研究は、重力データ等の測地データを用いてアラスカ南東部におけるPDIMを精度よく議論するために、PDIMモデルと測地観測データのそれぞれから絶対重力基準点(計6点)におけるPDIM起源の地殻隆起量(dΔ/dt(cal)およびdΔ/dt(obs))を見積もった。まずモデル計算による方法では、半無限媒質上での円荷重に対する応答関数 (Farrell, 1972)を用い、UAF07 (Larsen et al., 2007)というPDIMモデルを数値積分することで各重力基準点におけるdΔ/dt(cal)を見積もった。一方観測データによる方法では、Wahr et al. (1995)に基づき、2006~2013年における絶対重力変化速度とGPS隆起速度の観測データ(風間ほか, 2015)の線形演算によってdΔ/dt(obs)を見積もった。
その結果、本研究のdΔ/dt(obs)の値は14.7 +/- 2.2 mm/yearとなり、先行研究(Sun et al., 2010)の値(10.7 +/- 7.3 mm/year)よりも小さな誤差で見積もることができた。これは、本研究で用いた重力観測データ(風間ほか, 2015)の収録期間が長くなったことで、重力変化速度の決定精度が増したためと考えられる。また、本研究のdΔ/dt(cal)の値は10.3 +/- 1.4 mm/yearであり、先述のdΔ/dt(obs)の約7割に相当することが分かった。先行研究ではdΔ/dt(cal) = 5.5 +/- 3.2 [mm/year]で、dΔ/dt(obs)の約5割しか説明できていなかったので、本研究のモデル計算は観測データをより正確に再現できていると言える。この理由としては、本研究のモデル計算で簡単化を行わず、より現実に近い氷河・観測点配置で数値積分を実施したためである。一方、本研究のdΔ/dt(cal)は依然としてdΔ/dt(obs)から約3割乖離しているが、この差をより小さくするにはモデル計算で地球曲率・地形形状・地球内部構造を考慮することや、より現実的なPDIMモデルを作成する必要があると考えられる。