日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS32] 地殻変動

2016年5月23日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*村瀬 雅之(日本大学文理学部地球科学科)、道家 涼介(神奈川県温泉地学研究所)

17:15 〜 18:30

[SSS32-P12] 水準測量の繰り返し観測結果から推定する地殻上下変動の傾斜変化把握の試み

*高野 和友1 (1.国土交通省国土地理院)

キーワード:水準測量、地殻変動、東海地方

国土地理院では、静岡県周智郡森町から御前崎市に至る地域において、水準測量の繰り返し観測を実施している。当該地域は「大規模地震対策特別措置法」において地震防災に関する対策を強化する必要がある地域であり、同法および災害対策基本法に基づく指定行政機関である国土地理院では、地震観測体制の基礎となり地震防災に資するべく、当該地域における高精度な地盤の上下変動把握を目的として、1979年以降は原則年複数回、水準測量を実施している。
当該地域を含む東海地方では2000~2005年頃に、国土地理院が全国に展開している電子基準点等から構成されるGNSS連続観測網(GEONET)の観測結果から、従来とは異なる非定常的な地殻変動が観測された。この非定常地殻変動は、プレート境界面上での固着による引きずり込まれる方向とは逆向きの滑りにより引き起こされたと考えられており、その滑りの中心は浜名湖および浜名湖周辺直下にあると推定されている。
水準測量を繰り返し観測している地域は浜名湖の東方向に数十km離れたところであり、同様の非定常地殻変動が発生していた可能性が考えられるが、これまでこの水準測量の観測結果について当該現象を詳細に検討したものはない。そのため、本研究ではこの繰り返しによる水準測量の観測結果から、東海地方において2000~2005年頃に発生していたと考えられている非定常地殻変動についての把握を行った。
使用した観測結果は、静岡県掛川市に設置されている水準点140-1から御前崎市に設置されている水準点2595まで行われた水準点間の高低差である。この2点に加えてこの2点間に設置されている14の水準点についても同様に扱い、合計16点の標高の経年変化(水準点間の高低差の経年変化)を議論の対象とした。なお、1996年4月以降に実施された観測結果を用いることとし、2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震の影響が当該地方においても見られることから、当該地震発生前までに実施された観測結果を使用した。
これら2点間の高低差の経年変化についてそれぞれ回帰モデルを作成した。なお、GEONETによる観測結果を参考にして、当該地域では議論の対象とした期間(1996年4月~2011年2月)に地殻変動が3パターン発生した(定常、非定常、定常)と考え、3つの傾斜および2箇所の折れ曲がりからなる、折れ線による回帰モデルを推定した。これは、地殻変動の傾向が変わることで高低差の経年変化に有意な傾斜の変更が発生するという考えによるものである。なお、従来とは異なる地殻変動が発生した場合、発生前後において傾斜は変わるもののその変化そのものは連続しているはずである。そのため、折れ線による回帰モデルを採用した。これについて、前述の16点におけるすべての2点間の高低差、合計120通りについて行った。
得られた結果は、全体として傾きの変化をうまく再現している回帰モデルがある一方で、水準点の一時的な局所的変動や、観測誤差に起因すると考えられる機械的に求められたモデルがあった。前者については、高低差の時間変化にステップ状の変位が見られるが、このステップ状の変位を追随するようなモデルが推定された。後者については、測定値のばらつきに機械的に追随するモデルが推定されている。これらのモデルは1つ目の折れ曲がり点と2つ目の折れ曲がり点の間隔が1年未満であることが多く、傾斜の変化をうまく再現しているとは考えにくい。そのため、この期間が1年未満の回帰モデルは議論の対象外とした。
上記回帰モデルを除外した残りのモデルについて検討したところ、その1つ目の折れ曲がり点と2つ目の折れ曲がり点の分布に明瞭な類似性があった。2点間の直線距離が7km以下の高低差についてはまとまりが見られなかったが、7km以上の2点間の高低差については、すべての回帰モデルの1つ目の折れ曲がり点が1999~2000年に、2つ目の折れ曲がり点が2004~2005年に求められた。この結果は、これら2つの折れ曲がり点の時期に、当該地域の地盤の上下変動の傾向が変化したことを示唆する。これらはGEONETにより得られた非定常地殻変動が発生していた時期と概ね一致している。
発表では、これらの解析によって得られた地殻上下変動の傾斜変化をプレート境界面上において発生した滑りによるものと考え、より詳細に議論した結果について報告する。