17:15 〜 18:30
[SSS32-P14] 干渉SARデータから推定される箱根火山2015年噴火に伴う開口割れ目
キーワード:箱根火山、2015年水蒸気噴火、干渉SAR、開口割れ目、モデル化
はじめに
神奈川県西部に位置する箱根火山では,2015年4月下旬より地震活動が活発化し,6月29日~7月1日にかけて小規模な水蒸気噴火が発生した.地震活動の活発化以後,ALOS-2/PALSAR-2の緊急観測が繰り返し行われ,大涌谷において局所的な隆起が観測された(小林ほか,2015など).加えて,水蒸気噴火を挟む干渉ペアにおいては,大涌谷から南東方向に延びる直線を境とした位相の変化も観測されている(道家ほか,2015).本発表では,この直線状の位相変化をもたらした開口割れ目について干渉SAR解析結果のインバージョンより推定した結果について報告する.
使用データおよび解析方法
ALOS-2/PALSAR-2データについては,水蒸気噴火を挟む干渉ペアの内,観測間隔が短く,衛星視線方向が異なる以下の2ペアを選択した.
1) 2015/6/18 – 2015/7/2 Path:18 南行軌道・右観測 オフナディア角38.2°
2) 2015/6/7 – 2015/7/5 Path:125 北行軌道・右観測 オフナディア角29.1°
干渉SAR解析にはsarmap社製のSARscapeソフトウェアを用い,国土地理院による10mDEMデータを使用し解析を行った.また,同ソフトウェアのモデリングツールを使用し,Okada(1985)による開口割れ目断層をインバージョンにより推定した.インバージョンの際,噴火を挟む期間の長さを考慮し,1)と2)の各データの重みを2:1とした.加えて,大涌谷においては局所的な隆起が認められることから,その変動を含む範囲のデータは,モデルの推定からは除外した.
結果および考察
1)のペアでは,大涌谷から南東方向に1.5~2kmの直線を境とする変位が推定され,その東側で衛星視線方向に4~6cm近づく変位が観測された.また2)のペアでは,大涌谷の東から南の範囲で全体として衛星から遠ざかる変位が推定された.
インバージョンによって推定された開口割れ目は,大涌谷付近を北端とする長さ1320m,幅292m,上端の標高約863m,走向319.9°,傾斜82.2°,開口量約14.5cmであり,その体積変化量は,約5.6×104 m3であった.ただし,特に幅と開口量の間でトレードオフの関係があり,最適解は単一には求まらなかった.そこで,開口割れ目の位置,走向・傾斜を固定し,先の開口割れ目面の周囲延長部を含め,面上を50×50mのパッチに区切り,パッチ毎の開口量を線形インバージョンにより推定した.その結果,割れ目面の中央浅部(大涌谷の南200~500m),南端部付近の2ヶ所で開口量のピークが得られた.このモデルによる体積変化量は6.6×104 m3と推定された.
推定された開口割れ目両端の深さ2km以浅には,6月29日~7月1日に発生した地震の震源(行竹ほか,2015)の集中域が認められる.また,開口割れ目が推定された位置は,過去の活動により形成された火口様の凹地が集中して分布する位置(小林,2008)と概ね対応する.加えて,箱根火山で現在活発な噴気地帯である大涌谷,早雲山,湯ノ花沢が,この開口割れ目の近傍に分布することから,北西‐南東走向の既存の構造に熱水や水蒸気が入り込んだことにより,地表面の変位がもたらされたと考えられる.
傾斜変動からは,2015年6月29日の午前7時33分頃からの約1分間で,開口割れ目が形成されたことが示されており(本多ほか,2015),干渉SARから推定される開口割れ目も,この時間に形成された可能性が高い.すなわち,開口割れ目の貫入が,その北端に位置する大涌谷の浅部の膨張源を励起し,6月29日からの水蒸気噴火に至ったと考えられる.
謝辞
ALOS-2/PALSAR-2データは火山噴火予知連絡会衛星解析グループを通してJAXAよりご提供頂きました.本研究は,文部科学省の「都市の脆弱性が引き起こす激甚災害の軽減化プロジェクト」による支援を受けました.ここに記して感謝します.
神奈川県西部に位置する箱根火山では,2015年4月下旬より地震活動が活発化し,6月29日~7月1日にかけて小規模な水蒸気噴火が発生した.地震活動の活発化以後,ALOS-2/PALSAR-2の緊急観測が繰り返し行われ,大涌谷において局所的な隆起が観測された(小林ほか,2015など).加えて,水蒸気噴火を挟む干渉ペアにおいては,大涌谷から南東方向に延びる直線を境とした位相の変化も観測されている(道家ほか,2015).本発表では,この直線状の位相変化をもたらした開口割れ目について干渉SAR解析結果のインバージョンより推定した結果について報告する.
使用データおよび解析方法
ALOS-2/PALSAR-2データについては,水蒸気噴火を挟む干渉ペアの内,観測間隔が短く,衛星視線方向が異なる以下の2ペアを選択した.
1) 2015/6/18 – 2015/7/2 Path:18 南行軌道・右観測 オフナディア角38.2°
2) 2015/6/7 – 2015/7/5 Path:125 北行軌道・右観測 オフナディア角29.1°
干渉SAR解析にはsarmap社製のSARscapeソフトウェアを用い,国土地理院による10mDEMデータを使用し解析を行った.また,同ソフトウェアのモデリングツールを使用し,Okada(1985)による開口割れ目断層をインバージョンにより推定した.インバージョンの際,噴火を挟む期間の長さを考慮し,1)と2)の各データの重みを2:1とした.加えて,大涌谷においては局所的な隆起が認められることから,その変動を含む範囲のデータは,モデルの推定からは除外した.
結果および考察
1)のペアでは,大涌谷から南東方向に1.5~2kmの直線を境とする変位が推定され,その東側で衛星視線方向に4~6cm近づく変位が観測された.また2)のペアでは,大涌谷の東から南の範囲で全体として衛星から遠ざかる変位が推定された.
インバージョンによって推定された開口割れ目は,大涌谷付近を北端とする長さ1320m,幅292m,上端の標高約863m,走向319.9°,傾斜82.2°,開口量約14.5cmであり,その体積変化量は,約5.6×104 m3であった.ただし,特に幅と開口量の間でトレードオフの関係があり,最適解は単一には求まらなかった.そこで,開口割れ目の位置,走向・傾斜を固定し,先の開口割れ目面の周囲延長部を含め,面上を50×50mのパッチに区切り,パッチ毎の開口量を線形インバージョンにより推定した.その結果,割れ目面の中央浅部(大涌谷の南200~500m),南端部付近の2ヶ所で開口量のピークが得られた.このモデルによる体積変化量は6.6×104 m3と推定された.
推定された開口割れ目両端の深さ2km以浅には,6月29日~7月1日に発生した地震の震源(行竹ほか,2015)の集中域が認められる.また,開口割れ目が推定された位置は,過去の活動により形成された火口様の凹地が集中して分布する位置(小林,2008)と概ね対応する.加えて,箱根火山で現在活発な噴気地帯である大涌谷,早雲山,湯ノ花沢が,この開口割れ目の近傍に分布することから,北西‐南東走向の既存の構造に熱水や水蒸気が入り込んだことにより,地表面の変位がもたらされたと考えられる.
傾斜変動からは,2015年6月29日の午前7時33分頃からの約1分間で,開口割れ目が形成されたことが示されており(本多ほか,2015),干渉SARから推定される開口割れ目も,この時間に形成された可能性が高い.すなわち,開口割れ目の貫入が,その北端に位置する大涌谷の浅部の膨張源を励起し,6月29日からの水蒸気噴火に至ったと考えられる.
謝辞
ALOS-2/PALSAR-2データは火山噴火予知連絡会衛星解析グループを通してJAXAよりご提供頂きました.本研究は,文部科学省の「都市の脆弱性が引き起こす激甚災害の軽減化プロジェクト」による支援を受けました.ここに記して感謝します.