日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT51] 地震観測・処理システム

2016年5月23日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*中村 洋光(防災科学技術研究所)

17:15 〜 18:30

[STT51-P06] 超磁歪素子による精密弾性波計測システムの抜本的改良

*國友 孝洋1石井 紘1浅井 康広1佐野 修1大久保 慎人2 (1.(公財)地震予知総合研究振興会 東濃地震科学研究所、2.高知大学 教育研究部自然科学系理学部門)

キーワード:超磁歪素子、GPS同期、シングルフォース

超磁歪素子を利用したアクチュエータは、動電加振機などと比べて、変位は小さいが発生応力が大きく、扱いが簡便なため、高周波用の人工震源装置への応用が期待される。東濃地震科学研究所(以下TRIES)では、2011年から超磁歪素子を用いた震源装置(以下、超磁歪震源)の開発がすすめられてきた[石井・他(2011)、佐野・他(2011)、大久保・佐野(2011)]。2014年度には、GPS同期型の矩形波信号源(500Hz)が開発され、超磁歪震源の設置場所である瑞浪観測壕内のみならず、遠方にあるTRIESのボアホール観測網での検出も視野に入れた実験が行われてきた[公益財団法人 地震予知総合研究振興会(2015)]。しかし、今年度になって、観測データや機器構成を精査したところ、記録計や震源装置に種々の問題があることが判明したため、実用化を目指して抜本的な改良を進めている。
10kHz連続サンプリング用記録計のデータには、1Hz毎(特に1000Hz毎および10Hz毎)にサンプリングクロックに由来するラインスペクトルノイズが含まれている。これらはスタッキングしても消えないため、500Hzの基本波とその奇数次高調波から構成される矩形波による発震信号を遠方で観測するのは非常に困難である。このクロック由来のノイズは多くの地震観測装置に共通にみられる問題であるため、送信信号の周波数が整数を含まないようにするために、GPS時計、信号発生器、電力増幅器、信号設計法を刷新して、実験を行った。
超磁歪震源は、装置やその固定、超磁歪素子の固有振動が原因で、800Hzと2500Hzで強く共振する。500.5Hzの矩形波信号で発震し、2.5日間のスタッキングを行ったところ、震源のほぼ直下にある戸狩350mボアホール地震計(以下、TGR350)の3成分すべてで5倍高調波(2502.5Hz)が明瞭に観測された。振幅は上下動成分が最も大きく、3倍高調波(1501.5Hz)も見えている。なお、これまで瑞浪観測壕内で観測された加速度波形では、500Hz~25kHzまでこのような共振はみられず、矩形加速度波形を観測したとされてきた。数十~数百波長分もの距離を伝播したはずにもかかわらず位相の乱れがなく、全周波数の位相が滑らかに繋がることから、これまでの観測波形は、トリガー信号として用いられてきた500Hz矩形波の電気的な混入である可能性が疑われる。
100.5~200.5Hz(1Hz間隔)の101個の等振幅の正弦波を合成した波形を送信信号として発震し、TGR350の約10日間のスタッキングしたところ、100-130Hzで明瞭な信号が観測された。超磁歪震源の駆動電流を震源スペクトルとしたグリーン関数に相当する時間波形を計算すると、走時0.1sから始まる明瞭なP波波形が得られた。このようにオフラインによるGPS同期弾性波の観測は可能になったが、遠方での観測には長いスタッキング期間が必要であり、短時間の地震波速度変化は観測できない。現状の超磁歪震源の設置は、地盤を超磁歪アクチュエータが押すときに、その周辺では固定フレームによって引きの力が加わるようになっており、放射効率が極めて悪いと考えられる。今後、震源装置の設置治具を改良し、シングルフォースで発震する実験を行う予定である。