日本地球惑星科学連合2016年大会

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口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT53] 地球科学へのルミネッセンス年代測定の貢献

2016年5月22日(日) 13:45 〜 15:15 203 (2F)

コンビーナ:*杉崎 彩子(産業技術総合研究所)、田村 亨(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、近藤 玲介(皇學館大学教育開発センター)、伊藤 一充(産業技術総合研究所地質調査総合センター)、座長:杉崎 彩子(産業技術総合研究所)、田村 亨(産業技術総合研究所地質情報研究部門)

14:30 〜 14:45

[STT53-04] 北日本における中期更新世に形成された海成・河成段丘のpIRIR年代測定

*近藤 玲介1塚本 すみ子2横田 彰宏3植村 杏太4五十嵐 八枝子5坂本 竜彦6 (1.皇學館大学、2.Leibnitz Institute、3.明治コンサルタント株式会社、4.日本大学、5.北方圏古環境研究室、6.三重大学)

キーワード:pIRIR年代測定、北日本、海成段丘、河成段丘、中期更新世

●はじめに
海成段丘は,地盤運動の推移や頻度などを明らかにするために,指標地形として認識されてきた.また,河成段丘は,流域の気候環境や地学イベントの指標地形として認識されている.これらの段丘の地形発達史を明らかにするために,これまでの多くの研究では,構成層や被覆層から指標テフラを見出すことによって議論されてきた.しかし一方で,指標テフラが発見されない地域では編年が困難であった.特に,中期更新世の指標テフラが発見されることは限定的であり,MIS 5eより古い段丘面の編年の精度は低いといえる.また北日本では,離水後の段丘面や構成・被覆層が,氷期中の激しい周氷河作用によって堆積物の著しい擾乱や地形面の改変が生じて,その結果,段丘面の区分や汀線高度の認定が困難であるという問題もある.以上の理由から,本研究では,北日本における中期更新世に形成されたと考えられる海成段丘と河成段丘の発達の良いいくつかの地域(北海道北部頓別平野,北海道北東部岐阜台地,北海道南西部瀬棚平野など)において,ルミネッセンス年代測定法を適用し地形面編年をおこなった結果を紹介する.それらの編年結果に基づき,研究対象地域の地形発達史・層序や北日本の古環境上の意義を明らかにする.
石英のOSL 信号は約200 Gy で飽和することが経験的に知られており,日本ではMIS 5 以前の堆積物への石英のOSL 年代測定法の適用は困難である.そこで本研究では,より古い時代の堆積物に適用が可能とされる,長石を対象としたpost-IR IRSL(pIRIR; Thomsen et al., 2008;Buylaert et al., 2009)年代測定法を適用する.
●独立年代指標との比較
本研究では,北海道北東部岐阜台地の海成段丘において酸素同位体ステージ(MIS)7に対比されているクッチャロ幌岩テフラ(Kc-Hr)下位の砂丘砂や海成層として水中堆積した紋別火山灰1(Mb-1)より試料を採取し,pIRIR年代測定結果と比較をおこなった.その結果,Kc-Hr下位からは222 ± 15 ka,Mb-1からは259 ± 14 kaという年代値を得た.以上の結果から,本研究のpIRIR年代値の信頼性は高いといえるとともに,MIS 7のサブステージを示す分解能を持つ可能性が示唆される.
●北海道北部頓別平野
頓別平野周辺に分布する海成段丘(高位面)や頓別川右岸の河成段丘面を中心に地形・堆積物の記載とpIRIR年代測定をおこなった結果,高位面からは約340 ~370 kaの年代値が得られ,,MIS 9に対比された.後期更新世の河成段丘面もあわせて編年を行った結果,頓別平野の中期更新世以降の地形発達史が明らかとなった.高位面を構成する花粉分析の結果から,中期更新世の北海道北部における絶対年代に基づく植生環境の変遷が初めて明らかとなった.
●北海道南西部瀬棚平野
利別川の中・下流域に分布する海成・河成段丘面の地形・堆積物の記載とpIRIR年代測定をおこなった.段丘面の標高が35~40 mの海成段丘面(大谷地面)では,海成シルトと砂層(大谷地層;たとえば,日下・矢野,1984など)を海成段丘砂礫層が不整合に覆う.pIRIR年代測定の結果,大谷地層はMIS 7に対比され,段丘面を構成する砂礫層の年代値から,段丘面がMIS 5eに対比された.利別川左岸の標高約100~110 mに分布する河成段丘面(トンケ川面)は,河成砂礫層が瀬棚層(たとえば,能條ほか,1999)を不整合に覆う.pIRIR年代測定の結果,トンケ川面の基盤である瀬棚層からは,397 ± 21 kaの年代値を得た.トンケ川面は,層序からMIS 8~6に対比されると考えられる.これらの結果から,瀬棚平野の地形発達史が明らかとなっただけではなく,北海道南西部に広く分布する瀬棚層の上限年代が示唆された.
●まとめ
以上の結果から,pIRIR年代測定法を段丘編年に適用することは,中期更新世以降の地形発達史を明らかにするにあたり有効な手法であることは明らかである.これらの結果に基づき,中期更新世以降の複合的な活構造と段丘地形の関係や,微化石を用いた古環境変遷,指標テフラの編年などが高分解能に議論可能である.本発表では上記の地域に加え,本州北部における中期更新世の海成/河成段丘のpIRIR年代測定結果とその意義についても紹介する.
引用文献:Buylaert et al., (2009) Radiat. Meas. 44, 560–565.;日下・矢野(1984)北海道開拓記念館研究年報,12,67-73.;能條ほか(1999)地質学雑誌,105,5,370-388.; Thomsen et al. (2008)Radiation Measurements, 43, 1474-1486.