日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT54] 合成開口レーダー

2016年5月22日(日) 09:00 〜 10:30 A05 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*宮城 洋介(防災科学技術研究所)、山之口 勤(一般財団法人 リモート・センシング技術センター)、森下 遊(国土交通省国土地理院)、座長:宮城 洋介(防災科学技術研究所)、森下 遊(国土交通省国土地理院)

09:30 〜 09:45

[STT54-03] 数値気象モデルによる大気遅延誤差の低減処理の効果 -2015年桜島火山活動のInSAR解析を例に-

*小林 知勝1 (1.国土交通省国土地理院)

キーワード:InSAR、大気遅延誤差、数値気象モデル

InSAR 画像内に含まれる地殻変動以外の位相変化の要因の1 つに大気の影響がある.大気遅延誤差の低減には,画像内の標高と位相変化量の相関を利用した低減手法がしばしば用いられるが,SARとは独立したデータを用いた手法も提案されてきた.気象データを利用する方法がその1つで,小林・他(2014)では数値気象モデルを用いて遅延誤差の低減処理を行う技術開発(AtmDeRay)を行った.本発表では,2015年の桜島で起きたマグマ貫入イベントの解析を通じて,火山活動を対象としたInSAR解析における大気遅延誤差の低減処理の効果と重要性について報告する.
2015年8月15日,桜島で火山活動が活発化した.GNSSによる地殻変動データや震源分布から,山頂直下付近にマグマが貫入したことによるものと考えられている.16日以降は,GNSSデータ等の動きに変化は見られず大きな地殻変動は起きていない.この活動に伴い,だいち2号による緊急観測が行われた.北行軌道/左側観測と南行軌道/右側観測による東上空からの観測,北行軌道/右側観測と南行軌道/左側観測による西上空からの観測である.このうち,8月16日に実施された1回目の緊急観測(Path125,北向軌道・左観測)の干渉画像(ペア:2015.01.04-2015.08.16)は,霧島山で約9cm程度の標高に相関する位相変化が見られる等,大気による遅延の影響が強いデータであった.このInSAR解析からは,昭和火口の東にある鍋山付近で地殻変動と考えられる最大約16cmの衛星視線方向距離の短縮が同心円状に明瞭に検出されたが,これに加えて,南岳付近にも最大約7cmの距離短縮の位相変化が見られた.問題は,南岳付近に広がる距離短縮の位相変化が,地殻変動か大気遅延誤差かである.数値気象モデルにより予想される位相遅延モデルからは,霧島山で最大8cmの距離短縮の位相変化が予想され,南岳付近にも最大約6cmの距離短縮の位相変化が見積もられた.一方,鍋山付近では最大でも1cm程度にとどまった.この位相遅延モデルを用いて誤差低減すると,南岳付近や霧島山の位相変化は1cm程度の位相変化に抑えられる一方で,鍋山付近の同心円状の位相変化はほとんど変化することなく残った.8月24日に行われた同じ東側からの観測(Path23,南行軌道・右観測)による複数の干渉画像は,霧島山等で大気によるものと考えられる位相変化は小さく大気の影響が小さいInSAR画像であった.この画像では,南岳付近には明瞭な距離短縮の位相変化は見られなかった.これらのことからも,数値気象モデルにより誤差低減されたものが,地殻変動分布をより反映したものと考えられる.誤差低減の有無は,モデル計算結果にも強く影響した.GNSSやPath125以外のInSARデータから推定されるモデルは,昭和火口直下のダイク開口である.しかし,低減前のデータを加えたモデル推定を行うと,低角(傾斜約30度)のクラックとなり,干渉画像の再現も極めて悪い.これらの結果は,InSARによる火山観測において,大気誤差の低減処理が,モデル推定の結果,ひいては火山の活動評価にも大きな影響を与えうることを示唆している.
謝辞: 本研究で用いたALOS-2データは,火山噴火予知連絡会衛星解析グループ(火山WG)を通じて,(国研)宇宙航空研究開発機構(JAXA)から提供を受けました.原初データの所有権はJAXAにあります.数値気象モデルは,国土地理院と気象庁との協定に基づき提供されたものです.