日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT54] 合成開口レーダー

2016年5月22日(日) 10:45 〜 12:15 A05 (アパホテル&リゾート 東京ベイ幕張)

コンビーナ:*宮城 洋介(防災科学技術研究所)、山之口 勤(一般財団法人 リモート・センシング技術センター)、森下 遊(国土交通省国土地理院)、座長:石塚 師也(公益財団法人 深田地質研究所)、山之口 勤(一般財団法人 リモート・センシング技術センター)

11:45 〜 12:00

[STT54-11] Pi-SAR-L2データを利用した航空機SAR干渉解析の試み

*村上 亮1成田 翔平1 (1.国立大学法人北海道大学)

キーワード:地殻変動、火山、リモートセンシング、航空機SAR

1. はじめに
合成開口レーダ(SAR)は,全天候性,広域性,非接触性,計算機親和性など,火山観測に適した多くの長所を有している.中でも,我が国のPALSAR2/ALOS2など,衛星搭載SARによる観測は,すでに標準的な火山モニタリング手法となっており,これまで多くの成果が上がっている.一方,航空機搭載SARは,ある程度自由に照射方向を設定でき,即時対応にも適応性が高いことから,衛星型にない多くの長所を有しているものの,リピートパス干渉法(DInSAR)に関しては,飛行軌跡の制御や位置追跡の精度がボトルネックとなっており,広く用いられる段階には至っていない.本研究では,JAXAが運用する高性能Lバンド航空機SAR装置(Pi-SAR-L2)のデータを利用して,航空機干渉SARの実現性を評価するための予備的解析を実施した.
2.Pi-SAR-L2データの干渉処理について
Pi-SAR-L2には,高精度なINS-GPSハイブリッド型の航路追跡装置が搭載されている.これにより,高い軌道再現性が実現されているが,予測不可能な気流の変化等の影響によって,完全な同一航路の実現は困難である.その結果,航空機干渉SARの飛翔航路偏差起源の位相差の分布は,衛星のそれに比べてより複雑な形状を呈し,地殻変動情報の有効な抽出には,航跡の複雑性に起因する位相分布の適切な除去が必要である.本研究では,2015年8月のマグマ貫入イベントが発生した桜島を対象地域として,無変動期のデータを使用し,測定精度の確認を行った.
3. 実施した干渉処理の概要と結果
本研究では,小澤拓博士が開発中のRINC(Radar Interferometry Calculation Tools, 最新バージョンは0.36)を利用した.2013/9/13および2014/8/7に桜島付近の上空から取得されたデータについてJAXAから提供を受けた.南西から北東方向への飛行ペアについて,良好な干渉が得られた.このデータの航跡間距離は数m以内であり,観測機搭載の航法システムの性能と,操縦を担当したパイロットの卓越した技量が確認できた.RINCによる衛星データと同様の標準的な処理で,第一段階の干渉結果を得た.この段階では,航路不一致による位相差,地上の地形に比例した位相差,水蒸気分布による位相差などが含まれている.航空機干渉SARの場合には,軌道や地形に起因する位相変化の構造が複雑であり,これが,地殻変動解析への応用を難しくしている.生干渉図を精査したところ,飛行方向に垂直な2本のラインを境界にして位相の不連続な断裂が存在していた.地殻変動の適切な抽出には,地表の変動とは無関係であるこの種の位相変化成分の確実な除去が必要である.今回は,画像全体を不連続ラインで区分される3つの領域に分割した.そのそれぞれに,二次曲面のフィッティングおよび地形データのフィッティングを実施し,領域ごとに位相変化の長周期トレンド成分と地形相関成分を除去した後,結果を結合した.長周期成分が除去された結果の位相の乱れは,かなり低減されており,大部分の領域で,+-πラジアン(6㎝程度)に収まっていた.2015年の貫入イベントの地殻変動は,およそ5㎞の空間波長で最大値は約30㎝であり,この程度の変位振幅と空間的広がりの地殻変動であれば,pi-sar-l2観測でも検知可能であることの手がかりを得た.
謝辞:本研究で使用した航空機SARデータはJAXAから提供を受けた.解析には小澤拓博士が開発したRINC(Ver.0.36)および国土地理院の標高データを使用した.ここに記して感謝する.