日本地球惑星科学連合2016年大会

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口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC45] 火山の熱水系

2016年5月23日(月) 15:30 〜 17:00 201A (2F)

コンビーナ:*藤光 康宏(九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門)、鍵山 恒臣(京都大学理学研究科)、大場 武(東海大学理学部化学科)、座長:藤光 康宏(九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門)、大場 武(東海大学理学部化学科)

15:30 〜 15:45

[SVC45-01] 火山ガスと火口湖水の変動から推定する草津白根山の火山活動

*大場 武1谷口 無我1粂原 宗一郎1寺田 暁彦2 (1.東海大学理学部化学科、2.東京工業大学火山流体研究センター)

キーワード:草津白根山、熱水系、火口湖


気象庁の観測によると,草津白根山では2014年から火山性地震の回数が増加し,同年7月24日には発生頻度は一日当たり149回に達した[1].その後,発生頻度は低下し, 9月までに一日10回程度まで減少した.その後は2015年1,2月に突発的に頻度が増加したが,低い頻度が続いている.同じく気象庁の山頂付近における全磁力の観測によると,山頂付近では1994年ころから長期的にゆっくりとした浅部地殻の帯磁と解釈される変動が続いていたが,2014年4月頃から変動の傾向が逆転し,消磁と解釈される変化が始まり,2014年8月頃まで継続した[1].筆者らはこれらの火山活動の原因を探るために,2014年から2015年にかけて地球化学的調査を行った.

試料の採取と分析
山頂火口湖の北側山麓に展開する東西方向に帯状に分布する地熱地帯の三か所(西からk1,k2,k3)で噴気を2014年7月23日,2015年5月15日,10月15日の三回にわたり採取した.k1はこの噴気地帯で長期間存在している勢いの強い噴気である.k2はそれに次いで勢いが強く,k3は音を立てずに静かに放出される噴気であった.山頂火口では南西の岸で湖面から湖水を,2014年7月から2015年10月にかけて5回採取した.これらの試料の化学組成とH2Oの安定同位体比を測定した.

結果
k1噴気のCO2/H2Oは2014年7月23日に0.044と高い値を示したが,2015年5月,10月には,それぞれ,0.032,0.021と低下した.k2,k3噴気についても同様の低下傾向が見られた.噴気に含まれるH2Oの安定同位体比は変動が少なかった.地震発生頻度がピークを迎えた後の2014年8月から2015年10月にかけて,湯釜湖水に含まれる成分濃度が増加したが,化学種により増加率に差異が見られた.塩化物イオンと水素イオンは,それぞれ,81%,67%の増加を示した.Mg,Mn,Alは40%程度増加した.CaとFe濃度の増加はそれぞれ,11%と5%であった.湖水の安定同位体比は,dDが-56から-43‰に上昇し,d18Oが-5.3から-3.0‰に上昇した.

考察
1990年に地震活動が活発化した際に,湯釜湖水の塩化物と水素イオン濃度がほぼ平行して濃度が増加した.この点で,今回の変化は1990年の変化に類似している.湯釜の下で消磁と解釈される全磁力の変動が起きた点についても今回の活動と共通する.Ohba et alは1990年の活動で,固化しつつあるマグマに地下水が侵入しマグマからHClが抽出されそれが火口湖水に供給されたため,塩化物と水素イオン濃度の上昇があったと解釈した[2].今回の活動でも,1990年の活動と同様に,マグマと地下水の接触の際に,熱量も運び出され火口湖水の水温を上昇させたと考えられる.湯釜の水温が上昇した結果,湖面からの蒸発が盛んになり,その影響で湖水の同位体比がdD,d18Oで,それぞれ,-43,-3.0‰まで上昇したと考えられる.1990年から始まった活動で同位体比の最高値は,それぞれ,-55,-4.4‰であり,今回の同位体比はそれを上回る.
噴気のCO2/H2O比の変動は,マグマ溜まりそのものの変化か,あるいは,マグマ脱ガス圧力の変化が原因だろう.マグマ脱ガス圧力が増加すると,CO2とH2Oのマグマへの溶解度の差から脱ガスするガスのCO2/H2O比は上昇する.脱ガス圧力の上昇の原因としては,マグマを取り囲むシーリングゾーンの形成が候補として考えられる.2104年にシーリングゾーンが破壊し,高圧のマグマ性流体が浅部熱水系に注入され今回の活動を引き起こした可能性がある.

参考文献
[1] 気象庁地震火山部火山監視・情報センター(2015)草津白根山の火山活動解説資料(平成27年12月)
[2] T.Ohba, J.Hirabayashi, K.Nogami (2008) Temporal changes in the chemistry of lake water within Yugama Crater, Kusatsu-Shirane Volcano, Japan: Implications for the evolution of the magmatic hydrothermal system. J.Volcanol.Geotherm.Res., 178 (2008) 131–144