日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC45] 火山の熱水系

2016年5月23日(月) 15:30 〜 17:00 201A (2F)

コンビーナ:*藤光 康宏(九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門)、鍵山 恒臣(京都大学理学研究科)、大場 武(東海大学理学部化学科)、座長:藤光 康宏(九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門)、大場 武(東海大学理学部化学科)

16:30 〜 16:45

[SVC45-05] 地殻変動および熱観測から推定した草津白根山火口湖周辺の物質収支

*寺田 暁彦1坂本 ゆり1神田 径1小川 康雄1 (1.東京工業大学火山流体研究センター)

キーワード:地殻変動、物質収支、傾斜計、火口湖、噴気、草津白根火山

草津白根火山では,2014年3月に地殻変動を伴う微小地震の群発活動が始まった.同時期に,湯釜周辺地下での熱消磁に対応する地球磁場変動や,火口周辺において火山ガス組成の変化,そして湯釜火口湖の水温上昇などの変化が観測された.これらの事実は,火口直下における従来までの物質・熱収支に変化が生じたことを示唆する.本研究では,火口近傍に展開した傾斜計により得られた地下浅部の膨張体積と,湯釜火口湖および周辺における熱観測により明らかとなった流体放出量との量的関係を考察する.
東京工業大学は,湯釜火口湖から 1 km 内の3箇所はボアホール型傾斜計を設置している.このように火口にごく近接した観測網により,今回の活動を通じて S/N 比の良好なデータが取得された.火口付近の膨張を示す変動は2014年3月の群発地震開始とほぼ同時に始まり,変動率は同5月をピークとして,その後は単調に低下していった.群発地震活動は同8月頃から急激に衰えたが,膨張変動は2015年11月頃まで継続した.最も変動が大きかった湯釜北東観測点での傾斜変動は,合計で85 μrad に達する.その後,2016年1月まで膨張変動は停滞したままであり,噴火も発生していない.
このように得られた傾斜ベクトルは,変動期間を通じて湯釜周辺を中心とする放射状の変動を示した.球状圧力源を仮定して計算すると,力源の位置は湯釜火口湖の北側,1976年に水蒸気爆発を起こした水釜火口周辺に求められた.力源の深さは地表下 500 m前後,2015年11月までの総膨張量は 1.1×105 m3であった.
一方で,湯釜およびその周辺の熱活動にも変化が観測されている.湯釜火口湖の水温は,膨張変動の開始から2ヶ月遅れて2015年5月頃から,平年よりも高い状態が2016年1月も継続している.同火口湖には気泡式水位計が設置されていたが,おそらく硫黄の沈積を原因とする機器障害により,正しく測定できない状態のまま今回の活動を迎えた.そこで,2014年6月に測量ポールを湖畔付近の湖水中に設置して,これを東工大の湯釜火口湖監視カメラを用いて不定期的に撮影することで,湯釜火口湖の水位を通年で数 cm 程度の信頼性で観測した.例えば融雪流入のない9月で比較すると,膨張変動が継続していた2014年および2015年の水位変化率は -5 mm/day であった.これは,静穏期の同時期の水位変化率の,数倍に相当する.水温が高いこととあわせて考えると,湖底噴出流体の平均的エンタルピーが上昇したことを示唆する.
また,2012年10月,2014年10月および2015年11月に実施した空中赤外観測によれば,湯釜の北方に分布する噴気地の温度が,2015年は顕著に上昇したことが分かった.これは,2014年10月以降,2015年にかけて火山ガス放出量が増加したことを意味する.これは,北側噴気地からの噴気量が以前よりも増加したように見えることに矛盾しない.2015年10月に行なった現地踏査でも,既存の北側噴気地の西側に,地温の上昇による植生の枯死領域が認められている.
以上のことから,2015年11月以降,火口浅部の膨張変動が停止しているのは地下深部からの供給が途絶えたのではなく,深部供給量と地表面流体放出量の物質収支の均衡が実現したためと考えられる.湯釜火口湖直下では,難透水性の粘土層が釣鐘状に存在していることが電磁気学的研究から示唆されており,この内部で流体蓄積が進行しているのであろう.難透水層が熱水の圧力を支えつつ,釣鐘構造内部からの流体放出が緩やかに継続していると考えられる.発表では,これら流体放出量の時間変化を定量的に示し,浅部膨張量との比較を行なう.