日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC45] 火山の熱水系

2016年5月23日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*藤光 康宏(九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門)、鍵山 恒臣(京都大学理学研究科)、大場 武(東海大学理学部化学科)

17:15 〜 18:30

[SVC45-P06] 霧島火山群硫黄山周辺の温泉・地中温度の繰り返し調査

*鍵山 恒臣1吉川 慎1大沢 信二1三島 壮智1黄 有志1 (1.京都大学理学研究科)

キーワード:霧島火山群、硫黄山、地熱活動、電気伝導度、火山活動

霧島火山群・硫黄山は,韓国岳北西に位置し,韓国岳北西の爆裂火口-硫黄山-不動池を経て白紫池にいたる南東-北西方向の火山列中でもっとも新しい火山である.硫黄山には古くから活発な噴気地帯が存在し,硫黄も採掘されていた.1970年代から1980年代にかけての熱的調査では,山頂部に150℃以上の高温の噴気地帯存在し,西側山麓のえびの高原では,95℃(現地における水の沸点)程度の噴気地が点在していた(鍵山他, 1979).1990年代以降,地熱活動は徐々に低下し,噴気は消滅したが,30℃程度の湧水は湧出を継続しており,同時に行ったAMTによる比抵抗構造調査では,山頂火口下に低比抵抗域が存在していることが明らかにされている(宇内他, 2010).2011 年に発生した新燃岳の噴火の際には,硫黄山周辺の地熱活動にどのような影響が出るかが注目され,本研究者らも調査を行ったが,有意な変化を検出するにはいたらなかった.しかし,2014年8月以降,地盤変動を伴う火山性微動がしばしば硫黄山地下で発生し,2015年12月には噴気が発生していることが確認された(気象庁予知連資料).本研究者らは,霧島火山群の活動に関連して硫黄山の地熱活動がどのような推移を示すかに注目し,周辺において地中温度調査および温泉・湧水の電気伝導度・化学分析を継続してきた.以下にその結果を報告する.
えびの高原周辺の温泉・湧水の電気伝導度および化学成分の時間変化:えびの高原には,硫黄山の北側および西側に湧水が見られる他,えびの高原ビジターセンターでは掘削孔からくみ上げられた温泉水が足湯として利用されている.これらの水の電気伝導度および化学分析を行ってきた.鍵山他(2012)は,温泉湧水のアニオンインデックスを計算し,硫黄山に近接する西側および北側の湧水ではほぼ1.0 となり,足湯では0.92 と低下し,小林市内に湧出する温泉では0.35 と低い値を示すことから,硫黄山付近に湧出する水にマグマ起源物質が多く含まれていることを示している.これらの水の電気伝導度を繰り返し測定した結果(2008 年から2015 年12 月まで),硫黄山の西麓および北東麓では,雨による希釈のために電気伝導度が大きく変動し,時間変化を議論するには適さないことがわかった.一方,足湯では電気伝導度が比較的安定しており細かく見ると,2008年に225 mS/m,2011年の新燃岳噴火以後235~245 m S/m であったが,2015年12月に256 mS/mに増大している.化学分析の結果を見ると,足湯では,硫酸イオン濃度が1060 mg/lから1130 mg/l に増大し,塩素イオン/硫酸イオン比は0.12から0.09まで徐々に低下している.一方硫黄山西麓では,硫酸イオン濃度は議論できないが,塩素イオン/硫酸イオン比は,0.002から0.014まで増大している.このことは,2014年8月の微動発生以降,足湯では塩素イオンに比べて硫酸イオン濃度が増大しているのに対して,硫黄山西麓では塩素イオン濃度がより増大していることを示していると考えられる.こうした変化はマグマ起源の火山ガスの供給増大を反映していると思われる.
えびの高原の地中温度の変化:1980年代まで40℃程度の噴気が出ていたえびの高原中部において1m深地中温度の連続測定を行った結果,年周変化を上回る温度変化は検知されなかった.山頂部では現地の水の沸点程度の温度が測定されていることを考えると、地熱活動の活発化はまだ山頂部だけに限定されていることを示している.
文献
鍵山恒臣他(1979): 震研彙報, 54, 187-210.
鍵山恒臣他(2012): 地球惑星科学連合2012年大会SVC49-02
宇内克成他(2009): 地球惑星科学連合2009年大会V161-P004
気象庁134回予知連資料