日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC46] 火山防災の基礎と応用

2016年5月23日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*吉本 充宏(山梨県富士山科学研究所)、萬年 一剛(神奈川県温泉地学研究所)、宝田 晋治(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、佐々木 寿(アジア航測株式会社)

17:15 〜 18:30

[SVC46-P02] 箱根火山大涌谷噴気地域における噴気量・ガス組成・水質の連続観測(2015-2016年)

*萬年 一剛1菊川 城司1代田 寧1山口 珠美2大場 武3谷口 無我3 (1.神奈川県温泉地学研究所、2.箱根ジオミュージアム、3.東海大学理学部化学科)

火山の噴気量は大気の条件により高さや大きさが大きく異なるため、一般に定量的な観測が難しい。箱根火山は2015年4月末から地震が急増し、5月15日に地震数がピークを迎えたあと徐々に減衰したが、6月29日の朝から新たな熱水の貫入現象があり、ごく小規模な水蒸気爆発が発生した。温泉地学研究所では5月21日から大涌谷を見下ろせる場所にタイムラプスカメラを設置し、噴気地帯の連続撮影を実施してきた。今回は、こうして撮影された画像の白いピクセル数の変化、大涌沢の水質、大涌谷にある建物の床下から放出されているガスの組成や量の連動が観測できたことを報告する。
大涌沢に設置したタイムラプスカメラ(Brinno製TLC-200)は、10-30秒おきに1ショットの画像を撮影する。光線の具合が大きく変わらないよう、11時、12時、13時の毎正時前後30分間に撮影された画像を解析に用いた。TLC-200は撮影した画像を動画で格納するが、解析にあたって動画変換のフリーソフトウエアffmpegを用いて各コマの静止画像に変換した。静止画像はオープンソースの画像処理ソフトウエアImageJを用いて、HSV色空間でV値(明度)が200-255、S値(彩度)が0-40の範囲にあるピクセル数を噴気量として代表させた。画像から判断する限り、実際の噴気のV値はもっと広がりを持つが、V値を広く取ると同一時間でもショット毎の変動が大きくなりすぎて、代表値の持つ意味が不明になる。V値を上記にすると、噴煙の「特に白い部分」を選択し、ショット毎の変動が抑えられる。得られた画素数は熱水活動による噴気量を抽出するために、気温との正の相関関係を利用して、気温補正を行った。
こうして得られた噴気量の時間変化は次のとおりである。噴気は設置時から増加が観測され、噴火後の7月上旬をピークとして減衰に転じる。途中9月末にパルス的な増加があるが、11月初旬まで減衰は継続した。しかし、その後は増加に転じ、12月中旬に7月上旬の水準をやや超える程度になったあと、減衰に転じ1月末には従来のトレンドに戻ったように見える。
一方、大涌沢の水質は、噴火当日硫酸イオンが高濃度を記録してすぐ低下したが、塩化物イオン濃度は7月から8月にかけて高い状態が続いたあと減衰した。しかし、11月に入ると塩化物イオンが増加に転じ12月初旬にピークを迎えたあと減衰をした。水温も12月に10℃程度増加した。12月には、大涌谷の建築物の床下から出ている火山ガスの主成分であるCO2とH2S濃度も増加を見せた。加えて、大涌沢での火山ガス連続測定でも12月頃にCO2/H2O比の増加が観測された(大場ほか、本大会発表)。
以上のように、タイムラプスカメラにより観測された噴気量と、地表での火山ガスや温泉の濃度には関連性が見られることから、観測された噴気量は実際の変化を反映している可能性が高く、12月に非地震性の熱水上昇があったことをしめしているのかも知れない。