日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC46] 火山防災の基礎と応用

2016年5月23日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*吉本 充宏(山梨県富士山科学研究所)、萬年 一剛(神奈川県温泉地学研究所)、宝田 晋治(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、佐々木 寿(アジア航測株式会社)

17:15 〜 18:30

[SVC46-P05] 合成開口レーダー衛星を用いた降灰状況調査に関する研究

*本田 健1吉川 和男1三五 大輔1柴田 俊彦1坂井 佑介2光益 慎也2 (1.株式会社パスコ、2.国土交通省九州地方整備局九州技術事務所)

キーワード:合成開口レーダー、降灰調査、阿蘇山

■はじめに
火山が噴火し大量の火山灰が周辺に堆積した後に降雨があった場合には、少しの降雨でも土石流が頻発することが桜島や雲仙普賢岳噴火等の例で知られている。このため火山灰の堆積範囲や厚さを知ることは、土石流対策を進める上で非常に重要である。しかしながら、噴火に伴い噴火警戒レベルが上がり立入規制の範囲が拡大するほか航空機トラブル防止のため、地上や航空機から火山灰の堆積状況を調査することが困難となる。
そこで、安全且つ定期的に観測が可能な人工衛星を用いて降灰堆積範囲や堆積厚の推定が可能かどうか、試行調査を実施した。
調査対象は阿蘇山であり、2014年11月25日から翌年5月21日、及び2015年9月14日から10月23日に発生した連続的な噴火を含む、2014年11月28日から2015年12月3日を調査期間とした。
■調査概要
調査に用いた衛星は2014年に打ち上げられた合成開口レーダー衛星のALOS-2(だいち2号)である。衛星データは原則として連続噴火を挟むように設定し、衛星データのアーカイブ状況を踏まえ2014年11月28日、2015年1月9日、同年5月15日(オフナディア角32.4°)及び同年7月6日、9月14日(オフナディア角46.4°)を用いた。観測モードはスポットライト(空間分解能1×3m)である。解析には2時期の後方散乱強度の差分であるカラー合成画像、及びNDSIを用いた。また、判読結果の検証には、光学衛星(SPOT6・7)及び気象庁や大学等が実施した降灰堆積厚や噴石の現地調査結果1)を用いた。
■調査結果
2014年11月25日から翌年1月9日までの降灰状況を2014年11月28日と2015年1月9日の画像より判読した結果、中岳第1火口(以下、火口とする)の北東から南東方向約500mまでのエリアで後方散乱強度の減少が確認された。一方、火口の南西側約400~800mのエリアでは後方散乱強度の増加が確認された。
また2015年1月9日から5月15日までの降灰状況を同年1月9日と5月15日の画像より判読した結果、火口の北北西約1000m及び南西約600mまでのエリアで後方散乱強度の減少が、火口東約500mまでのエリアで後方散乱強度の増加が確認された。
一方、2015年9月14日の噴火直後の降灰状況を同年7月6日と9月14日の画像より判読した結果、基本的には火口周辺約600mまでは後方散乱強度の減少が確認されたが、火口から南西及び北東方向約400mまでは後方散乱強度の増加が確認された。
■考察
まず後方散乱強度の減少した原因について考察する。
光学衛星(SPOT6・7)の判読結果及び航空機からの斜め写真と比較した結果、火山灰等の堆積エリアと後方散乱強度が減少したエリアが概ね一致していることが確認された。このためと後方散乱強度の減少は、火山灰等の堆積によって地表面が平滑化されたことが原因であると推測される。
次に後方散乱強度の増加した原因について考察する。
噴火直後の現地調査で確認された噴石の到達範囲と後方散乱強度が増加したエリアが概ね一致した。このため後方散乱強度の増加は、噴石そのものあるいは噴石の着弾で生じたインパクトクレーターによって地表面の凹凸が増加したことが原因であると推測される。
また降灰堆積厚の推定が可能かどうかを評価するため、NDSI値と現地調査結果との関係について考察する。
NDSI(Normalized Difference Sigma-Naught Index)は後方散乱係数の正規化した差分値であり、以下の式で算出される。
NDSI=(σ0(master)-σ0(slave))/(σ0(master)+σ0(slave))
σ0:後方散乱係数
噴火直後の現地調査で確認された火口南側の降灰堆積厚(数cmから25cm程度)とNDSIを比較した結果、2014年11月28日と2015年1月9日との比較においてNDSIがやや高い(約0.2~0.6)エリアと降灰堆積厚約3cmのラインが概ね一致した結果がみられた。しかしながら、現地調査地点が火口南西側に限定されておりNDSIが高いエリアの降灰堆積厚が不明であること、火口南西側では直径数cm程度の噴石も確認されていることから、NDSIと降灰堆積厚との関連性については今後も検討が必要である。
■総括
カラー合成画像を解析した結果、降灰堆積範囲や噴石到達範囲を確認することができた。
降灰堆積厚については、降灰堆積厚が数cm以上であればNDSIで判別可能となるような結果が示唆されたが、調査地点が非常に限定されていることから今後のデータ蓄積と分析が必要である。
■参考文献等
1)第131回火山噴火予知連絡会資料、第132回火山噴火予知連絡会資料、第133回火山噴火予知連絡会資料