日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC46] 火山防災の基礎と応用

2016年5月23日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*吉本 充宏(山梨県富士山科学研究所)、萬年 一剛(神奈川県温泉地学研究所)、宝田 晋治(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、佐々木 寿(アジア航測株式会社)

17:15 〜 18:30

[SVC46-P10] 2016年2月14日に発生した富士山のスラッシュなだれ

*千葉 達朗1佐々木 寿1荒井 健一1藤田 浩司1吉本 充宏2常松 佳恵2 (1.アジア航測株式会社、2.山梨県富士山科学研究所)

キーワード:スラッシュなだれ、空中写真、富士山

2016年2月14日、富士山でスラッシュ雪崩が発生した。人的被害発生の情報は報告されていない。アジア航測は過去に大きな被害を生じさせたこともあるスラッシュ雪崩について、2016年2月18日に写真撮影を行った。
スラッシュ雪崩は、春先や秋の積雪のある時期に、富士山でたびたび発生している現象であり、雪代(ゆきしろ)と呼ばれて、恐れられてきた。山頂付近で斜面が凍りついている条件下で、雨が降ったときなどには、地中に水が浸み込むことなく、強い表面流が発生する。流下途中で斜面表層のスコリア等を巻き込みながら、勢いよく流れ下ると考えられる。
今回撮影した写真を見ると、富士山の複数箇所でスラッシュ雪崩や表層雪崩が発生したと考えられる。発生後に降った雪で一部覆われているものの、雪崩の流動状況などの様子を詳しく見ることができる。北西方向(御庭奥庭付近)から撮影した写真では、写真右側へスラッシュ雪崩が滑沢を流下している。スラッシュ雪崩が発生した後に、表層雪崩が発生したと考えられ、雪崩堆積物の表面構造が見える。大沢崩れの谷の中では、複数のスラッシュ雪崩や崩壊が発生して、土砂が谷の中央へ集り、流下したと考えられる。
発生当時の気象条件は、日本海上を低気圧が発達しながら通過し、富士山周辺は南風が流れ込み大雨となった。寒冷前線が通過したのは2月14日6時頃で、その前に大量の暖かい雨が降ったと考えられる。また、2月14日9時の700hPa天気図をみると、高度3000m以下は雨と考えられる。国土交通省が赤塚に設置した雨量計によると、2016年2月13日18時~2月14日11時に降雨があった。時間雨量の最大値は2月14日4時と5時の30mmである。13日の降り始めからの雨量は、2月14日2時が累積100mm、2月14日6時が累積200mm、2月14日11時が累積246mmである。
防災科学技術研究所が公開している基盤的火山観測データによると、山頂から山腹に設置された富士鳴沢塒塚東、富士山頂、第5の地震計では、2016年2月14日2時~7時にかけて震動波形が多数記録されており、この時間にスラッシュが発生した可能性がある。また、富士山頂から離れた地点に設置された鳴沢、忍野、須走、富士太郎坊、吉原の地震計では震動波形は少ないものの、2月14日4時47分~50分にかけて比較的大きな震動波形が記録されている。したがって、この時刻に規模の大きなスラッシュなだれまたは崩壊が発生したと考えられる。発生源の特定などについては、今後、詳細な検討が必要である。