日本地球惑星科学連合2016年大会

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セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC46] 火山防災の基礎と応用

2016年5月23日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*吉本 充宏(山梨県富士山科学研究所)、萬年 一剛(神奈川県温泉地学研究所)、宝田 晋治(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、佐々木 寿(アジア航測株式会社)

17:15 〜 18:30

[SVC46-P15] 2011年M5.4黒部川源流地震と飛騨山脈の深部構造

*川崎 一朗1 (1.公益財団法人 地震予知総合研究振興会 東濃地震科学研究所)

キーワード:立山弥陀ヶ原火山、黒部川源流、誘発地震、地殻構造、マグマ溜まり

■2011年M5.4黒部川源流地震
2011年東北地方太平洋沖地震の後、3月と10月、黒部川源流域で誘発群発地震が生じた。最大は10月5日M5.4の地震であった。ここでは、この地震を黒部川源流地震と呼ぶ。震央の分布は、Fig.1 の様に、3月は黒部ダム最奥部から東沢谷に沿って野口五郎岳まで約5km、10月は、黒部西方から黒部ダムを南北に縦断して南沢あたりまで約7kmである。
1998年飛騨山地群発地震は焼岳5km東方から北に向かって県境の野口五郎岳まで拡大した。今回の黒部川源流群発地震は、野口五郎岳から県境を越えて立山近くまで延びたということができる。
マグニチュードと地震断層サイズのスケーリング則によると、M5.4の地震の断層の長さは~5kmなので、この群発地震の発生域のサイズは、そのまま黒部川源流地震の地震断層の長さ考えることが出来る。
スケーリング則に合うように断層パラメータを、断層の長さ6km、幅3km、滑り40cmと仮定し、走向南北の垂直左横ずれ型、P波速度6km/秒、S波速度3.5km/秒として、立山室堂における静的変位を計算すると、東南へ3cm程度の水平変位、5mm程度の沈降である。
■立山弥陀ヶ原火山
産総研の地質Naviによれば、立山山嶺部はジュラ紀のトーナル岩(安山岩)や白亜紀の花崗岩からなり、室堂から下方を第四紀の火山噴出物が覆っている。
立山弥陀ヶ原は、最近10年では、2006年12 月噴煙活動が活発化、2010年5月には溶融硫黄が流出して硫黄の溶岩流を形成、2012年6月噴気の活発化などの現象が発生した(気象庁のHP)。
2013年には東工大を中心とする研究グループによって地獄谷で電磁気観測が行われ、地下200mに、水平方向の拡がり1kmほどの貯水槽が見いだされた(Seki et al., 2015)。
■立山深部地殻構造
1991年、群馬県吾妻から立山黒部アルペンルートを経由して石川県金沢まで、東西ほぼ180kmの測線をはって人工地震観測が行われ、飛騨山脈を東西に横断する深部地震波速度構造が得られた(Takeda et al., 2004)。
1996年飛騨地域合同観測のとき、立山アルペンルートに1km間隔で地震計に配置した臨時観測を行い、1991年の人工地震観測のデータを加えて立山直下の地殻構造のトモグラフィーが行われた(Matsubara et al, 2000)。その結果、Fig.2 の様に、地表から深さ20kmあたりに、S波速度2.5km/秒、P波速度5km/秒の部分溶融したマグマ溜まりが存在することが示された。
以上の観測成果を合わせ考えると、立山を含む飛騨山脈直下の地殻内には、雲仙直下のマグマ溜まりに匹敵する大規模なマグマ溜まりが存在し、そこから上昇してきた水が、地獄谷では地下数100mの貯留層ともなり、黒部川源流域では群発地震(Fig.2 矢印)の一因となったと考えられる。地殻構造的には、噴火リスクも地震リスクも、御岳などの中部山岳の活発的な火山と変わりないと言えるのではないだろうか。
■まとめに代えて
地質史と共に、火山、地震、地下構造を併せ一つの枠組みで理解した方が、ジオパークとしてはるかにダイナミックで魅力的なのではないだろうか。
防災という視点でも同様である。1984年M6.8長野県西部地震の震源域と御岳の距離はほぼ10km、2011年黒部川源流群発地震の震源域と立山室堂の距離はほぼ5kmである。立山黒部を訪れる観光客の災害からの保護という点でも、噴火と地震を同じ枠組みで考えることが不可欠であるが良く分かる。とはいえ、気象庁が室堂に観測点を設置したと言っても、立山を含む山地一帯は観測網は無いに等しい。問題は多い。
■参考文献
Matsubara, M., N. Hirata, S. Sakai, and I. Kawasaki, Earth Planets Space, 52, 143–154, 2000
Seki, K., W. Kanda, Y. Ogawa, T. Tanbo, T. Kobayashi, Y. Hino and H. Hase, Earth, Planets and Space, 67:6, 2016. DOI 10.1186/s40623-014-0169-8
Takeda, T., H. Sato, T. Iwasaki, N. Matsuta, S. Sakai, T. Iidaka, and A. Kato, Earth Planets Space, 56, 1293–1299, 2004
■図の説明
Fig.1 2011年東北地方太平洋沖地震の後、3月と10月、黒部川源流域で発生した、M2以上の地震の震央分布。地震研究所のTSEISによる。震源要素は気象庁。基図は国土地理院の電子国土WEB。
Fig.2 アルペンルート直下の地震波速度トモグラフィーから得られた立山直下地殻内のP波速度分布(Matsubara et al., 2000)。地表から深さ15kmあたりに、雲仙直下のマグマ溜まりに匹敵する規模のマグマ溜まりが分布する。赤矢印は、群発地震の位置を示す