日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC47] 活動的火山

2016年5月25日(水) 10:45 〜 12:15 コンベンションホールB (2F)

コンビーナ:*青木 陽介(東京大学地震研究所)、前田 裕太(名古屋大学)、座長:山本 希(東北大学大学院理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センター)、木下 佐和子(東京大学地震研究所)

10:45 〜 11:00

[SVC47-19] クラック振動の解析式を用いたLPイベントの周波数解析に基づく流体特性の推定

*田口 貴美子1熊谷 博之1前田 裕太1 (1.名古屋大学大学院環境学研究科)

火山活動の活発化に伴い観測されるLong-period(LP)イベントは、熱水割れ目といった振動体中の流体の振動により発生すると解釈されている。先行研究ではLPイベントの振動体としてクラックモデル(Chouet, JGR, 1986)を考え、数値計算を用いてこのモデルの固有周波数と観測されたLPイベントのピーク周波数を比較することで、その震源にある流体の種類や振動体のサイズの推定を行った。しかしクラックモデルの数値計算ではこの比較を系統的に行い、観測ピーク周波数の振動モードを同定するにはかなりの労力を要したため、このモデルの流体や振動体サイズに関するパラメータ全てを推定するのは難しかった。最近Maeda and Kumagai (GRL, 2013)により提案されたクラックモデルの固有周波数の解析式により、この比較を系統的かつ容易に行うことが可能となった。そこで本研究ではまずこの解析式を用いて観測されたLPイベントのピーク周波数が説明できるかを調べ、その結果からクラックモデルのパラメータを推定できるかを検討する。解析は以下の手順に従い行う。①まず解析式の周波数の比をとる。この比の分母は低次のものから順にとっていく。このとき解析式の周波数比は、解析式の分子振動モードm、クラックの短軸方向と長軸方向の長さの比W/L、crack stiffness C の3つのパラメータで表される。なお、C = 3(a/α)2(ρfs)(L/d)であり、aはクラック中の流体音速、αはクラック外の固体中P波速度、ρfは流体密度、ρsは固体密度、dはクラックの厚さである。さらに、観測された複数のピーク周波数に関しては、最も周波数が小さいピーク周波数に対する比をとる。解析式の分母振動モードとW/Lを系統的に変え、解析式の周波数比と観測ピーク周波数の比を比較し、低次から連続して最も多くの観測ピーク周波数を説明できるW/LCを推定する。②クラックモデルの振動波形のQ値はα/aに強く依存することが知られている(Kumagai and Chouet, JGR, 2000)。よってクラックモデルの数値計算で合成波形と観測波形のQ値を比較することで、α/aを推定する。本研究では以上の手順①②に従い、群馬県の草津白根山で1992年8月11日、および同年11月2日に観測されたLPイベントを解析した。8月11日のイベントをイベント1、11月2日のイベントをイベント2と呼ぶ。まずイベント1について、解析式の周波数比と観測ピーク周波数比を比較した結果、解析式の周波数比の分母振動モードの波長が2L/3W/L = 0.75、C = 1.3のとき、最も多くの4つの観測ピーク周波数を低次から連続して説明することができた。また、合成波形と観測波形の比較の結果、α/a = 30のとき観測波形のQ値を説明できた。草津白根山で発生するLPイベントの震源深さは約200 m (Nakano et al., JVGR, 2003)と推定されており、この深さにおいてα = 2500 m/s、ρs = 2200 kg/m3を仮定すると、a = 83 m/sと推定された。流体として熱水流体を考えると、このような小さいaの値をとるものはミスト状ガスのみであり、震源深さでの飽和条件下でこのaの値に対しρf = 430 kg/m3と理論的に推定できる。これらの推定値とCの式、クラックモデルの固有周波数の解析式から、L = 18 m、W = 13 m、d = 0.0090 mと推定され、すべてのクラックモデルのパラメータの値を求めることができた。イベント2についても同様の解析を行ったところ、クラック内の流体はミスト状ガスであり、L = 180 m、W = 120 m、d = 0.090 mと、クラックサイズはイベント1に比べ1桁大きいことがわかった。これらの結果から、草津白根山ではマグマからの脱ガスにより帯水層中の割れ目に水蒸気ガスが供給され、それが飽和条件温度まで冷やされることで、クラック内はミスト状ガスで満たされたと推測される。また、イベント1、2のクラックサイズの違いはこの水蒸気ガスの供給量の違いに起因するものと考えられる。先行研究(Kumagai et al., JGR, 2002)では観測ピーク周波数とクラックモデルの固有周波数の系統的比較が難しかったため、クラック形状のパラメータ(W/LL/d )と振動モードを仮定し解析を行っていた。しかしクラックモデルの固有周波数の解析式を用いた本研究の手法により、複数の観測ピーク周波数の振動モードの同定を系統的かつ容易に行うことが可能となり、その結果クラックモデルの全てのパラメータを制約できることを示した。