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[SVC47-20] ブルカノ式噴火に付随して発生する連続噴煙に伴う長周期振動
キーワード:噴煙、ブルカノ式噴火、インフラサウンド
火山噴火に伴う空気振動(空振)の観測は多くの火山で行われており,爆発のメカニズムに関する理解が数多くの先行研究によって得られている.しかしブルカノ式噴火などの火山爆発に伴い火山近傍で観測される空振シグナルのうち,周期が10秒以上の帯域(VLP)に関しての観測研究の事例は少ない.
我々は2012年から2013年にかけての約一年間に,インドネシアのスラウェシ島北部に位置するロコン火山近傍において広帯域地震,空振観測を行った.臨時観測に用いた機器は,地震計(Trillium 40, Nanometrics Inc.)は0.025–50 Hzに,空振計(SI 102, Hakusan Co.)は0.05–1500 Hzの帯域にそれぞれフラットな応答性能を有している.観測期間中にロコン火山ではブルカノ式噴火が約50回ほど発生したが.全体のうち8割ほどのイベントは最初の爆発の発生から数十秒から数百秒の間隔の後に連続噴煙の発生を伴っている.地震波形と空振波形の生波形では,爆発に伴っては立ち上がりの鋭いインパルス的なシグナルが,連続噴煙に伴っては振幅が紡錘状に変化する微動がそれぞれ認められる.最初の爆発に伴い放出される地震波と空振は,どちらも周期が10秒より短い帯域に主要な強度を持ち,VLP帯のシグナルの最大振幅は生波形に比べるとおよそ1/100程度でしかない.一方で,連続噴煙に伴う地震,空振波形には,規模の大きなイベントにおいて微動の開始付近にVLP帯に卓越する有意なパルスが認められる.各観測点におけるこの位相の到来時間は火口付近から音波速度で伝播する見かけ速度で説明できることから, VLPパルスは連続噴煙に伴う長周期の空振によって励起されていることが示唆される.またバンドパスフィルター(0.03–0.1 Hz)を適用した上下動変位波形におけるVLPパルスには,空振計の感度帯域よりも長周期のシグナルが卓越していることから,後で述べる解析では上下動地震波形を用いている.
同様の連続噴煙に伴う長周期振動は,2011年の霧島山新燃岳で発生したブルカノ式噴火においても認めることができる.防災科学研究所が運用している基盤的火山観測網のうち,新燃岳近傍の万膳(n.krmv),夷守台(n.krhv)観測点での広帯域地震波形(Trillium 240, Nanometrics, Inc., 0.004–200 Hz)には,2011年1月27日に発生したブルカノ式噴火と後続する連続微動が記録されている.また気象庁が運用する高千穂河原(v.kitk),湯之野(v.kiam)観測点における空振計も同様に爆発と付随する微動を記録している.万膳,夷守台における上下動地震波形にバンドパスフィルター(0.01–0.05 Hz)を適用すると,微動部分に音波速度で火口から伝播する位相を確認することができる,また両観測点における微気圧計(AP270, Koshin Co.)のデータに同様のバンドパスフィルターを適用すると,バンドパス地震波形で確認された位相と相似な圧力変動が認められる.
上で述べた二つの火山では地震観測点が火口から数キロの距離に位置し,VLPパルスのバンドパス上下動速度波形の最大振幅はどちらの火山でも10-7 m/sのオーダーである.大気中の圧力変化とそれに伴い生じる地動の関係はBen-Menahem and Singh (1981)によって定式化されており,地表付近の地殻の弾性波速度と密度を仮に2700 m/s, 2500 kg/m3とすると,VLPパルスを励起した観測点直上での圧力変化はおよそ101 Paのオーダーと推定される.解析対象としている波の波長が103 m程度であることから,VLPパルスが線形音波として火口から伝播し,ポイントソースによって励起されていると仮定すると,励起源における大気質量の時間変化が推定できる(Lighthill, 2001).両火山いずれの場合も,大気密度を加味すると連続噴煙の開始に伴うソースでの大気の体積変化率の最大値はおよそ105 m3/sのオーダーと推定される.この推定は観測点特性,風速などによる誤差の影響を含むと思われるが,他の研究で報告されているブルカノ式噴火での物質の噴出率と概ね整合的である(例えば,小屋口,2008).VLPパルスが微動の開始部分に発生していることなどと合わせて考慮すると,この長周期振動は連続噴煙に伴う噴煙柱形成時の大気変動によって説明が可能である.この推定量と噴煙の規模や降灰量との関連を調べることで,噴煙柱やブルカノ式噴火のダイナミクスの理解に寄与できる可能性がある.※霧島山新燃岳でのブルカノ式噴火に関しては,防災科学研究所,気象庁のデータを使用させて頂きました.
我々は2012年から2013年にかけての約一年間に,インドネシアのスラウェシ島北部に位置するロコン火山近傍において広帯域地震,空振観測を行った.臨時観測に用いた機器は,地震計(Trillium 40, Nanometrics Inc.)は0.025–50 Hzに,空振計(SI 102, Hakusan Co.)は0.05–1500 Hzの帯域にそれぞれフラットな応答性能を有している.観測期間中にロコン火山ではブルカノ式噴火が約50回ほど発生したが.全体のうち8割ほどのイベントは最初の爆発の発生から数十秒から数百秒の間隔の後に連続噴煙の発生を伴っている.地震波形と空振波形の生波形では,爆発に伴っては立ち上がりの鋭いインパルス的なシグナルが,連続噴煙に伴っては振幅が紡錘状に変化する微動がそれぞれ認められる.最初の爆発に伴い放出される地震波と空振は,どちらも周期が10秒より短い帯域に主要な強度を持ち,VLP帯のシグナルの最大振幅は生波形に比べるとおよそ1/100程度でしかない.一方で,連続噴煙に伴う地震,空振波形には,規模の大きなイベントにおいて微動の開始付近にVLP帯に卓越する有意なパルスが認められる.各観測点におけるこの位相の到来時間は火口付近から音波速度で伝播する見かけ速度で説明できることから, VLPパルスは連続噴煙に伴う長周期の空振によって励起されていることが示唆される.またバンドパスフィルター(0.03–0.1 Hz)を適用した上下動変位波形におけるVLPパルスには,空振計の感度帯域よりも長周期のシグナルが卓越していることから,後で述べる解析では上下動地震波形を用いている.
同様の連続噴煙に伴う長周期振動は,2011年の霧島山新燃岳で発生したブルカノ式噴火においても認めることができる.防災科学研究所が運用している基盤的火山観測網のうち,新燃岳近傍の万膳(n.krmv),夷守台(n.krhv)観測点での広帯域地震波形(Trillium 240, Nanometrics, Inc., 0.004–200 Hz)には,2011年1月27日に発生したブルカノ式噴火と後続する連続微動が記録されている.また気象庁が運用する高千穂河原(v.kitk),湯之野(v.kiam)観測点における空振計も同様に爆発と付随する微動を記録している.万膳,夷守台における上下動地震波形にバンドパスフィルター(0.01–0.05 Hz)を適用すると,微動部分に音波速度で火口から伝播する位相を確認することができる,また両観測点における微気圧計(AP270, Koshin Co.)のデータに同様のバンドパスフィルターを適用すると,バンドパス地震波形で確認された位相と相似な圧力変動が認められる.
上で述べた二つの火山では地震観測点が火口から数キロの距離に位置し,VLPパルスのバンドパス上下動速度波形の最大振幅はどちらの火山でも10-7 m/sのオーダーである.大気中の圧力変化とそれに伴い生じる地動の関係はBen-Menahem and Singh (1981)によって定式化されており,地表付近の地殻の弾性波速度と密度を仮に2700 m/s, 2500 kg/m3とすると,VLPパルスを励起した観測点直上での圧力変化はおよそ101 Paのオーダーと推定される.解析対象としている波の波長が103 m程度であることから,VLPパルスが線形音波として火口から伝播し,ポイントソースによって励起されていると仮定すると,励起源における大気質量の時間変化が推定できる(Lighthill, 2001).両火山いずれの場合も,大気密度を加味すると連続噴煙の開始に伴うソースでの大気の体積変化率の最大値はおよそ105 m3/sのオーダーと推定される.この推定は観測点特性,風速などによる誤差の影響を含むと思われるが,他の研究で報告されているブルカノ式噴火での物質の噴出率と概ね整合的である(例えば,小屋口,2008).VLPパルスが微動の開始部分に発生していることなどと合わせて考慮すると,この長周期振動は連続噴煙に伴う噴煙柱形成時の大気変動によって説明が可能である.この推定量と噴煙の規模や降灰量との関連を調べることで,噴煙柱やブルカノ式噴火のダイナミクスの理解に寄与できる可能性がある.※霧島山新燃岳でのブルカノ式噴火に関しては,防災科学研究所,気象庁のデータを使用させて頂きました.